変わった人間(5)
ミョウバン石からアルミニウムを精製するのはそんなに難しくなかったようで、装鎧少女たちの誰もができた。作れたのは粉末といって差し支えないアルミ。
それに少量の流体金属を加えて練り、成形しつつ硬化させてもらう。織り機のシャトルに関しては、原型があるので複製するのは簡単だった。
「えーと、これに糸を通してだな」
「こうして使う」
飲み込みの早いランゼッタが主導して織り機が稼働する。ポリエステル製の生地がどんどんと織られ、伸縮性の高いスパンデックス生地もできあがっていく。人手も多い。小妖精たちが遊び気分で動くので、すべてが円滑に進む。
「さあ、完成だ。里の織り機で作った服の第一号はイーゼのだぜ」
「お着替えしてきましょうね」
下着を除いては新しく作ったもの。スパッツとチューブトップの上にはミニスカートとビスチェ。さらにベストを重ね着して可愛く仕上がっている。ビスチェが短いのでへそ出しになっているが、本人は気にしてない様子だ。
「可愛いです」
「出来がいい」
かなりの好評で、ルイゼトネも照れ気味ながら装いを楽しんでいる。正輝が褒めると本当に嬉しそうに笑った。
「アルミ製織り機の目処はついたから、今日のところはゆっくりするか」
「ええ、お休みになってください。マサキ様が不在の間に森からいろいろと取り揃えてきましたので堪能していただきたいです」
「おう、楽しみだな」
正輝は慕ってくれる大勢をつれて久々の自宅に身を落ち着けた。
◇ ◇ ◇
ルイゼトネにとって本当に目まぐるしい日々だった。
正輝はとても勤勉で、様々なことをこなしていく。スピリットシャフトからの水路に堰を作って沈殿物を収集できるようにする。そこにアルミの元となるミョウバン石が溜まるのだそうだ。
「おー、あっという間だな」
「ちょっと頑張っちゃいました」
集めていたミョウバン石から大量のアルミ粉末ができたので、それで里製織り機の第一号を製造する。単純な構造だったので一日で作ってしまい稼働を始めた。彼女も住みはじめた家の一室が織り機部屋に早変わりした。
働いてばかりではない。
「美味しいだろ?」
「うん」
森で採ってきた糖桃で作った砂糖を使った麦粉の焼き菓子は、一枚食べただけで数日は余韻を楽しめそうなほど甘くて美味しかった。それを、お茶しながら皆でともに食べるのもとても楽しい。
それだけではない。
トカゲの肉と野草を煮込んだスープはほっぺが落ちるのではないかと思うほど美味しかったし、熱いからとマサキがフーフーと吹いて冷ましてくれたものを口に差しだしてくれたのが嬉しかった。
彼は契っていようがいまいが装鎧少女全員を平等に扱う。小妖精も同じで、皆と一緒に遊び楽しんだ。マサキはいつも大勢をともなって里の生活を謳歌している。
ある日など、彼に誘われて透明な家『サンルーム』に入ってみる。中はポカポカで、すぐに眠気が襲ってきた。隣り合って大樹に背を預けていると昼寝をしてしまう。目覚めても隣に心強い存在がいてくれたのが幸せでならない。
「なに、してるの?」
「トレーニング。里にいると、どうしてもみんなが世話してくれるからサボっちまう。こうでもしないとな」
上半身は裸で、木の枝に両足を掛けて逆さにぶら下がったマサキは頭の後ろに両手を掛け、筋力だけで上半身を持ちあげている。それを何度も何度もくり返し、汗を滴らせていた。
「どうして、そんなに、頑張るの?」
「だってさ、みんなが笑ってれば俺も嬉しくなる。もっと嬉しくなるには、さらに強くなきゃなんないからな」
「マサキは、いっぱいの、装鎧少女と契れば、もっと、強くなる。ルキが、言ってた。あたしも、使えば、そんなに頑張らなくても、いいのに」
多重装着を可能にする強力な装鎧戦士になれるはずだ。それなのに、ルイゼトネを求めようとせず、自らを鍛えることで彼らを守ろうとしている。それが不思議でならない。
「イーゼが頑張るのはここで幸せに暮らすこと。俺の勝手な望みに使われることじゃない」
「マサキだけ、苦労するの、嫌」
「そう見える? 結構楽しんでやってるんだぜ? だって、頑張った分だけみんなが慕ってくれるんだから。とても幸せだ」
当たり前のように言う。
そして、彼が再び里を発つ日がやってくる。彼女はまた不安が首をもたげてくるのを感じていた。つい、男の手を取ってしまう。
「マサキがいないの、ちょっと、怖い」
「なにが? みんな優しくしてくれるだろ?」
真摯に向き合ってくれる。
「あたし、そんなに、ちから、強くないし。あんまり、役に立てない。だから、迷惑、なんじゃないかって」
「役割なんて無理に考えなくていい。イーゼは自分がやりたいことをやってみればいいんだ。それがいつか君の役割になる。上手くやれるとかやれないとか、難しく考えてたら幸せは逃げていってしまうぜ?」
「そう、なの?」
抱きあげてくれる。
「この数日でいろんなこと憶えたろ? 今度はいろんなことにチャレンジしてみな。きっと、なにか見つけられるから」
「うん、頑張って、みる」
「そうじゃなくて、楽しんでみる、だ」
「うん!」
(温かい、場所。これが欲しかった)
ルイゼトネは彼が再び戻ってくる日を心待ちにして里の生活を楽しむことにした。
次回『ウフルバの視線(1)』 (しかしだ、マサキ。これは人の姿をしているだけで中身は決して人ではない)




