変わった人間(3)
妖精種の里に帰り着いた正輝は、せっつく皆に背中を押されてまずスピリットシャフトの精気を満タンにする。あとは自由に味わえる状態にしてから、ようやく落ち着いてテアクルセやピトレスカに不在時のことを聞けた。
「西側連絡路なのですが、未だ人間の通行は認められていません。見張り担当の小妖精を立てていますし、偵察に飛ばせてもいるのですが発見はまだのようです」
テアクルセが淡々と報告してくる。
「かもな。西側入口は知ってなきゃ見つからないような場所だし、中央森林帯深くまで河原を遡ってきてる人を見たこともない。すでに調べ尽くしたって認識なんだろ」
「当面は警戒も不要のようです。で、そちらは?」
「ルイゼトネだ。今日からここで暮らしてもらう。頼むな、テア。トーレスも」
装鎧少女を迎えるのは初めてである。
「あとでお部屋に案内いたしますね。とりあえずは今の里の状況をご覧になって」
「びっくり。こんなに、いっぱい。里?」
「ええ、わたくしたちだけで暮らしてますのよ。マサキ様のお陰でここは安全ですので安心なさってくださいな」
大人数の小妖精だけでなく、装鎧少女までいると知ってルイゼトネは驚いているようだった。どこかに放りだされるかもしれないと不安に感じていたのかもしれない。
「家も、ある。透明な、家も。気持ち、よさそう」
思ったよりずいぶんと拓けている里に目を丸くしている。
「スピリットシャフトは先ほどご覧になられましたね? 事実上、わたくしたちが飢えることはございません。マサキ様が充填してくださっているのは、皆が欲しがるからに過ぎませんので」
「すごい。こんな、妖精種だけの、場所」
「はい、わたくしたちの楽園です」
呆けたように見まわす新人をテアクルセは優しく見守る。
家まで戻ってテラスのベンチに腰掛けた正輝たちは本格的な報告を受ける。畑はまだ収穫まではいっていないが拡張中。植物油による化学繊維服計画も徐々に進行中だという。
「そこでこいつだ」
彼は車から織り機を持ちだす。
「まあ、これは」
「聞いたことあるけど見たの初めて。織り機でしょ?」
「そうだ、トーレス。割と簡単に扱える。使い方だけ習得したら小妖精だけでも生地まで作れるぜ」
そのために一つ購入したのである。
「魔法でですか?」
「そうだ」
「それは便利です。メルメシルたちも糸までは取りだせるのですが、一度に織りまではわたくしとトーレスしかできませんでしたのでなかなか増産はできませんでした」
糸までは小妖精にでも可能なのはティナレルザの例で実証済み。ならば、それほど強くない念動力でも生地にまでできる織り機があれば大勢いる小妖精に任せられるはずだった。
「で、糸のほうはどんな感じなんだ?」
進行具合を確認する。
「やってみるところでした。ご覧ください」
「見て」
「おう、頼む、メル」
小妖精のリーダーが植物油に手を伸ばす。指に糸を作りだすと、結い合わせつつ持ちあげていく。流れができたところで一気に上昇していき、わずかな時間で数十mもの糸を結えるようになっていた。
「すごいすごい。見事だな、メル。きれいなポリエステルの糸だ」
戻ってきた小妖精を褒める。
「これを織り合わせて生地にする練習をさせようかと考え中でしたが、マサキ様が織り機を持ち帰ってくださったので計画が一気に進みそうです」
「ストックもいっぱいあるんだから」
「ほんとだな」
糸巻きに巻いてある練習結果の糸が数百m分も溜められている。実にいいタイミングだったらしい。
「だったら、すぐ織り機を組んでみよう。載せるのに少しバラしてあるんだ」
箱から残り部品と道具類を取りだす。
「お疲れではないですか?」
「平気へいき。運転は好きだから疲れもない。念動を使ってるルキたちのほうが消耗するだけだ」
「充填中です」
エメルキアが膝をキープ。
「では、お願いしても?」
「任せろ。気になってたんだ。こいつは参考にするだけで、自前で製作するつもり」
「あら、まあ」
人間用の大量生産の普及品なので痒いところも多々あると思っている。それを小妖精だけで作業できるまでにするのが今回の滞在期間中の目標だった。
「これは全部木製だけど、代替できる部分は軽量で柔軟な金属部品に置き換えられればと考えてる。なにせ、金属のほうが念動の通りがいいからさ」
妖精種仕様に作り変えるつもりだ。
「金属ですか。ですが、里にはマサキ様がメタルの洞窟から持ち帰ったものしか」
「あれはほぼニッケル鉄だけど、中には別の金属も混じってるものなのさ。完璧に一種類なんてことはまずない。それを抽出する方法をこれからルキやランゼと模索する」
「わたくしもお手伝いしたいです」
ピトレスカも「わたしも」と言いだしている。
「わかったわかった、皆でやろう。まずはこの原型織り機を使いこなすとこからな」
「はい」
「楽しそう」
ランゼッタが一番前のめりである。
協同作業が始まって、ルイゼトネは不思議そうにしている。これまではそんな生活をしてこなかった所為と思われる。
「里じゃ、みんなが力を合わせて生活を豊かにしようと頑張ってる。イーゼも協力できるよな?」
「したい。すごく。みんな、楽しい」
新たな家族も笑うのが上手になってきて正輝も嬉しかった。
次回『変わった人間(4)』 「俺の趣味って言わんばかりのところが若干引っ掛かる」




