ウダマンの懊悩
コタカッタ王国の王都ウダマンにある王城は一国の権威の象徴としてそびえ立っている。市井の民から見れば、中では栄華の極みがくり広げられているかのように思えるだろう。しかし、内実はドロドロとしたものだ。
権力抗争を基にした対立構造は当然のこと、妬み嫉みといった下賤とも思える感情渦巻く場所である。立ち働く者たちはそれらの感情を内心に押し込め、顔には笑顔を貼り付けているもの。同じ意味でも、彼らの頂点に立っているのが王である。
「教団の弱体化が著しい。どうしたものか」
国王ポストカ・センテドールが吐露する。
執務室で対話しているのは、他に最側近の臣公ダファクリ・メーゲレと彼、戦公ウフルバ・ジーギラのみ。内々に集められ、国王の相談に応じる場である。
「なにか言ってきているのでありましょうか、陛下?」
ウフルバは言上する。
「表向きは協力の申し出だ。しかし、要は泣きついてきている」
「そこまでですか、メーゲレ公」
「相当厳しい内情を抱えていると思える」
代わりに答えたダファクリは前もって国王より状況を知らされているようだ。彼の信頼度であれば、密書の類でも目を通していておかしくはない。
「手足を奪われ、剣さえも一本また一本と折り取られているような状態だろう」
「そこまでダメージが」
デレキセント教団のコタカッタ支庁が大部分の小妖精を失っているのは漏れ聞こえてくる噂や調査結果から判明している。さらには飛行戦士団も大半が壊滅し、教団戦士も削られつつある。
「先般のトリクタン魔公の失態がそれほどまでに堪えておりますか?」
「それもある」
王国の魔公ウズナル・トリクタンが教団と共謀し、マサキを討ち取ろうとした一件だ。ある程度は追い詰めたものの、結局は敗退してウズナルは失脚。教団も二十余名もの装鎧戦士が剥ぎ取られて脱落している。
「二重装着者がもしや我がコタカッタ王国に現れようとは。それも反逆者として」
国王の言葉は苦渋に満ちている。
「かの者をそれほど脅威に感じておられますか」
「まさに脅威そのものではないか。早期に確保できていればよかったが、今や単独で討ち取れる者はない存在に化けてしまっておる。どう考える?」
「陛下が私にお望みなのはマサキ討伐でしょう。ですが、ご想像のとおり、単独では厳しいかと思われます」
ウフルバも認めざるを得ない。
「討伐隊を編成すれば叶うものか? 貴公ならば可能か?」
「なんとも。ですが、いかな二重装着者であろうとも、洗練された我がコタカッタ王国軍の誇る戦士団であれば不可能ではないと愚考いたします」
「ふむ、ならば……」
国王ポストカが命じようとしたのを、彼は不敬ながら制止する。思いとどまってほしかったのだ。決してマサキを怖れてのことではない。
「お待ちください、陛下」
ウフルバは言葉を選ぶ。
「なぜ教団はこうもマサキの標的になっているかお考えください。以前も言上いたしましたが、かの者は妖精種に肩入れしているのです。戦具に憐れみを覚えているのか、自ら力を試しているのかはわかりません。ですが、環境実験と称して保有する多数の装鎧少女を拡散配置しているのも事実です」
「貴公の言うとおりだ」
「マサキはそれを良しとせず狙い定めているのではありませんか?」
引き取った臣公も考え込む。主に教会がターゲットになっているのは間違いない。どこも完膚なきまでに破壊されていると聞けば、どれほど憎悪の対象になっているかは想像に難くない。
「教団の行為がマサキを刺激しているのです。ならば、陛下がわざわざ自ら刺激する必要があるのかと思うのです」
あえて火中に手を伸ばす必要はないと説いた。
「しかしだ、ジーギラ戦公。かの者は虎視眈々と各地の教会を狙い、着実に破壊をくり返すずる賢さを備えておる。先日などオリネキの教会が狙われ、追い詰められまいと自らを正義と演出した挙げ句に、最終的には破壊して装鎧少女を連れ去ったと聞いた」
「そんなことが」
「余は怖ろしいのだ。かの者の牙が王国に向けられたとき、同じようにじわりじわりと削られれば如何に強力な王国戦士団とはいえ耐えられるものか? ならば、戦力が消耗しておらぬうちに、こちらから打ってでるのが確実なのではないかと思っておる」
国王の胸中はわからなくもない。真綿で首を絞めるように、わずかずつ削り取られていく支庁の状態が我が身に降り掛かってくるように感じても変ではない。
「せめて、コタカッタ大司教が決断し、各地の教会に戦士を派遣すればよいものを。今は怖れるあまりに支庁に集めて身を固めておる。それではかの者は止められまい」
「おっしゃるとおりにございます。なれば、私めに機会をお与えください。マサキは敵対するより取り込むのが吉と出るかと考えております」
思いきって奏上する。
「貴公ならできるか?」
「ただし、陛下にはご英断を求めなければなりません。マサキが納得するような環境を整えることを」
「かの者が納得する環境とは?」
メーゲレ臣公も傾聴する。
「装鎧少女に権利をお認めください。今のままでは絶対に彼を得心させられません」
「それは無理な注文というものぞ、ジーギラ戦公。王国はデレキセント教の教義の下にまとめられている。それを崩せば求心力は低下の一途であろう」
「……では、せめて私がマサキと交渉する機会をいただけないものでしょうか?」
ウフルバにはそう願うしか他に道がなかった。
次回『変わった人間(1)』 「普通は、あたしたちに謝ったり、お礼を言ったり、しない」




