誰の敵?(3)
「よお、親分さん、運が悪かったな。俺の気が向いてしまってね」
正輝はギャングの首領と対峙している。
絵に描いたような悪党面だった。人間、悪事に手を染めると顔にまで表れてしまうらしい。人を食い物にしてきたのは聞くまでもないので手加減してやる義理もない。
「このやろう、世直し戦士だとか祭りあげられてつけあがりやがって」
「勘弁しろ。あんなの邪魔でしかない」
「ほざきやがれ」
完璧に勘違いしている。彼にしてみれば、抗争が激化して街中を警備隊員だの雇われのギルド所属戦士だのが巡回していては、教会襲撃の足枷にしかならなかっただけなのである。
「ここまで来やがったじゃねえか」
「そりゃ、あんたが俺を罠にはめようとしたからだぜ? 静かにしてれば俺だって全部掃除しなくて済んだんだ」
「抜かしやがる。てめぇなんぞ、一般人どもに褒め称えられて、いい気になってる俗物だろうが」
当て推量は見事に外している。その程度だから裏社会でしか生きられなかったか。人をまとめる力だけはあったはずなのだが。
「勝手に思ってろ。俺は忙しい。あっちの親分も始末しなきゃ不公平じゃん」
「この思い上がりが! てめぇはいつか裏の人間に痛い目に遭わせられるからな? 忘れるな」
苦し紛れの脅しだ。
「どうでもいいって。裏だろうが表だろうが、全員が俺の敵なんだから」
「は? てめぇ、誰の敵なんだ?」
「人類の敵さ」
正輝は加減せずにぶちのめすと表に放りだしておいた。
◇ ◇ ◇
変身フォームの正輝が大通りをバイクと車を走らせていくと、皆が歓迎の意を示してくる。どこから噂が流れたか、感謝の言葉が雨あられと降ってきた。
「おお、どこの誰かは知らないが、君は装鎧戦士の鏡だ。我がデレキセント教団は君を歓迎する。ぜひ、教団戦士として活躍してみないかね?」
教会の前で司教らしい壮年が問い掛けてきた。
「邪魔じゃま。どいて」
「なにがだね?」
「まあ、いいか」
バイクを停めざま、つかつかと歩み寄った彼はいきなり教会の大扉にパンチを喰らわす。盛大な破壊音と同時に、粉砕された大扉が内側に吹き飛んでいった。中にいたであろう信者は歓迎に出てきていたので怪我を負わないで済んだみたいだが、突然のことに茫然自失状態だった。
「なぜだぁー!?」
「いや、丁寧にお邪魔しますとかいう間柄でもないだろ?」
「そんな問題じゃない!」
司教は目を白黒させている。泡を飛ばして抗議してきた。
「あんたこそ、奥に装鎧少女を閉じ込めておいて偉そうな口聞いてんじゃない。直接ぶん殴らないだけありがたく思え」
「なんだとぉ!」
「ってなわけで、お姫様は引き取っていく。文句ないだろ? これまで散々刺客を送り込んでくれたんだからさ」
そこまで言うと、司教は目が飛びださんばかりになっている。なにを言っているのか気づいたのだろう。
「貴様があの教会を襲撃してる装鎧戦士か!」
「遅い。歓迎してくれた以上は文句はないな?」
正輝は入口から順々に教会そのものを破壊していく。最奥の育成室の扉を引き千切ると、中から装鎧少女を抱えあげて出てきた。残っていた小妖精も引き連れて車に乗せる。
「用は済んだ。じゃあな」
「二度と来るなぁー!」
吠える司教も、正輝を制止する度胸はなかったようだ。
◇ ◇ ◇
「じゃあ、マサキさんは?」
「オリネキを出ていってしまったみたいなんだ」
ペンセは離れのスイリンの元を訪れていた。
「ノズハ組もデンヤ組も完璧に壊滅させて行ってる。そこまでは噂どおりの世直し戦士なんだけど」
「他になにか?」
「街の教会まで瓦礫に変えて、そこにいたっていう装鎧少女を連れ去ってる。彼はいったいなにをしにオリネキに来たのか僕にはさっぱりだ」
父親にその話を聞いたとき、なにを言われているのかまったく頭に入ってこなかった。ようやく理解に及んだとき、彼が招いて離れに住まわせていた細工職人が実は世直し戦士だったなんて自慢できる状態ではなくなっている。
「では、街は大変ですね」
「ああ。世直し戦士がどうして教会を破壊したのかいろいろと詮索してる。中には司教が汚職に手を染めていたから成敗されたなんて話も出てるみたいなんだ」
「マサキさんならそんなことをなさったかもしれませんけど」
「でもな、それなら教会を瓦礫の山に変える必要があったのかなって」
理由が不明である。まるで、恨みの対象みたいな徹底ぶりだ。装鎧少女を連れ去ったという話もよくわからない。
(まさか、こんなふうに装鎧少女を集めて強くなろうとしてるのか? いや、彼に限ってそんな欲があるだなんて思えなかったけど)
それなりの期間親しくして、マサキの偏屈職人っぷりは理解している。立身出世より、自由気ままに好きなものをこだわって作りあげてくのを良しとする人間性だったと思う。
「これからどうなっていくのでしょう?」
「悪い膿は絞りだしていってくれたんだけど、教会があんな様では信者である僕らは困る。評価に迷うところだね。ともあれ、新しい家が見つかったらそこに住んでもらうから安心して。ここでは肩身が狭いだろう?」
「ペンセ様にいつでも会えるのは嬉しいんですけど、ペリンの遊び相手がいないのは可哀想で」
「うん、わかるから安心して」
ペンセは恋人と抱き合うと、妙な男のことは頭から抜け落ちていた。
次はエピソード『ウフルバ包囲陣』『ウダマンの懊悩』 「かの者をそれほど脅威に感じておられますか」




