誰の敵?(2)
「絶対に逃さねえからな?」
「いくら装鎧戦士とはいえ、二百人以上を相手に勝てると思ってんじゃねえぞ?」
「てめぇはもうお終いだ。変に正義ぶったのを後悔しな」
血を流してへたり込んでいた者までも、演技をやめて立ちあがってきた。取り囲んだギャングたちはもう勝ったつもりである。それはそうだろう。周囲には見渡すかぎり剣を抜いた構成員しかいない。
「覚悟……」
「ぶふっ!」
正輝は思わず吹きだしてしまう。
「あんたらな、俺相手にあんな下手くそな芝居が通用すると思ってんの? こっちはプロだぜ?」
「はったりかましてんじゃねえ!」
「違うちがう」
嘲笑う。
「そろそろ仕掛けてくる頃合いだって思って注意してたらバレバレだっつーの。あんたらが俺を罠に掛けたんじゃない。俺があんたらを一網打尽にする機会を待ってたんだってわかれよ」
「のうのうとど真ん中に突っ込んできておいてか? そんな脅しが通用すると思ってんのか!」
「通用するから来たんじゃん。ただの荒くれなんぞが束になったって敵わない相手だって、装鎧戦士は。それに、予測してたからにはきっちり準備してある」
そこまで言いきると、さすがのギャングも腰が引けてきた。互いに目を見合わせて牽制し合っている。
「虚勢張ってんじゃねえ! 一斉にやっちまえ!」
「デュアルビルド!」
斬り掛かってきた構成員どもは防御障壁にぶち当たって弾きかえされる。それだけで鼻血を出している者までいた。
そして、正輝はエメルキア変身フォームの上に新たな光をまとう。プロテクタが変形していき、ランゼッタ仕様のパワーフォームへと変身を終えた。
「な、なにを!」
「気合い入れてこい。じゃないと、ほんとに死んでしまうぜ?」
突っ込んできた男に手首を返しただけの裏拳を当てる。それだけで数mも飛んでいき、壁に激突してぐったりと横たわった。
振りおろされる十本以上の剣が仮面といわず肩といわず激突する。しかし、どれもが弾かれるか折れるかするだけでプロテクタには傷一つ付かない。彼が相手を手で払えば、腕はあらぬ方向に折れ、血反吐を吹き、白目を剥いて糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
「ちょ! な! こ、これまでと比べもんにならねえ」
「馬鹿な」
「手加減してたとでも言うのかよ!」
「当たり前だろ? 生身の人間相手に変身したらこうなるに決まってる。だからって、俺が生身のままじゃ大勢相手は務まらない。というわけで、悪いが潰れろ」
そこからは蹂躙でしかない。肉が潰れ骨が折れる不快の音ばかりが周囲に木霊する。集まった野次馬でさえも顔を真っ青にして逃げだしていた。
正輝も返り血に染まっていくボディを見ていたら不快になってくる。手を振るって血を払う動作が多くなってきた。
「これ、なんとかならないもんかね」
(プロテクタ表面に小さな衝撃波を放ちましょう。それくらいだったら、わたしの制御範囲でも)
(ぼく、やってもいい?)
(でしたらランゼにお任せします)
ボディが「ブン!」と唸ると浴びていた返り血がしぶいて飛んだ。元の鮮やかな色合いが戻ってくる。デュアルビルドの純白パーツが汚れるのは特に気になってしまう。
「おー、きれいきれい」
(お見事です)
(ぼくの制御可能範囲がだいたいわかった。ちょうどいい実験)
ギャングはそんな会話がなされているなど知る由もない。逃げそうなのを襟首を掴まれて放り投げられ、地面から3m近い高さの壁に貼り付けられる。剥がれ落ちたときには血だらけで意識もない。
ときには一人ずつ、ときには集団で薙ぎ払い、偽装の抗争現場には立っている者は一人とていなくなった。うめき声だけがそこら中から聞こえてくる。それは生きている証拠なのだからマシなほうだと思ってほしい。
「なあ、ちょっと聞いてもいい?」
「う……ご……」
「あんたのアジトはどこ? もちろん本拠地のほうだぜ?」
睨みかえしてくる気力が残っていたので軽く小突くと気を失ってしまった。仕方ないので次の獲物を引っ張りあげて同じ質問をする。今度は非常に素直に応じてくれた。ただし、言葉を発する力は残っておらず、震えながら指さしたのみ。
「あんがとさん。寝てろ」
正輝はランゼッタに頼んで身ぎれいにしてもらうとバイクにまたがった。傍に置いてあったクロスカントリー車にも念動力を飛ばすと、練習どおり追従させられる。
「いやー、これができないといろいろと面倒だったな」
(デュアルビルドすると運転者がいなくなってしまいますからね。さすがにロナやルーザでは動かせませんし)
(ハンドル操作が限界だった。パワーユニットまでまわらないんじゃちょっと)
パワーポッドを使っても、小妖精の念動力では原動機までは動かせなかった。仕方ないので、変身した彼が車の遠隔操作まで担当するしかなかったのである。バイクに追従させるところまでは今のところ可能。
「んじゃ、きれいにお掃除して撤収するとしますか」
(ルーザが誘導してくれてます)
逃げた構成員を追ったティナレルザが手招きしている。もう一方はロナタルテに頼んであるのできっちりチェックされているだろう。
正輝は敵の本拠地へと乗り込むのだった。
次回『誰の敵?(3)』 「どうでもいいって。裏だろうが表だろうが、全員が俺の敵なんだから」




