世直し戦士(3)
オリネキの都のとある街角。今日は都市を仕切るギャングの両陣営がほぼ遭遇戦の形で激突している。すでに抗争状態になってしまっているギャングは顔を合わせただけで剣を抜いての戦闘に突入する心理になっていた。
警備隊と、国からの依頼を受けた戦士ギルド所属者が駆けつけるものの、周囲から集まった双方五十人以上の構成員同士の戦闘である。そう簡単には収まらない。
「ああ、うちの露店が……」
「そんな! 窓を割らないで!」
一般市民は逃げまどい、家の奥に閉じこもって暴力の嵐が過ぎ去るのを待っている。警備隊員やギルド員まで剣を振りかざしての有様では被害は拡大する一方だった。
そこへ風切り音が響いてくる。通りの角を高速ターンしたバイクが、抗争中のど真ん中へと突っ込んできた。乗っているのは、緑ベースのプロテクタをまとった装鎧戦士である。
「来てくれたわ!」
「世直し戦士の登場だ!」
皆が期待の目を向ける。
一度通過したバイクはスピンターンすると再び突進。今度は横滑りさせつつ、ギャングの一団へと体当たりを仕掛けてきた。
まとめて数名が跳ね飛ばされて倒れる。バイクを立たせた装鎧戦士は「てい!」と掛け声よろしくジャンプして舞い降りた。
「てめぇ、やっぱりノズハ組の雇われだな!」
装鎧戦士は答えず、掛け声のみを発しながら周囲の構成員を手当たり次第に殴り倒す。振りおろされる剣は宙を斬り、手刀に折られ、手で握り砕かれる。パンチやキックで戦闘不能になるギャングが山を築く。
「一斉に掛かってやっちま……え?」
駆けだした装鎧戦士は今度は対立していたギャング集団に突っ込むと、まるで巨獣に跳ね飛ばされたかの如き様相を生みだす。弾き飛ばされた構成員は周囲の建物の壁にぶち当たって動かなくなるのみ。
「なんで、ノズハ組の連中がやられてる! お前らが呼んだんじゃないのか?」
「知るか! てめぇらが妙な言い掛かりつけてるだけで知ったことか! デンヤ組の自作自演だろうが! 一気に方つけるつもりじゃないのか?」
「は?」
意見の食い違いが見える。それで双方の剣を持つ手が緩むものの、問題の装鎧戦士は止まってくれない。次々と構成員を打ち倒していく。
慌てたギャングたちは抵抗の姿勢を見せるが、それも虚しく吹き飛んでいく。怒号と悲鳴と折れた剣と人体が宙を舞う凄惨な現場と化していった。
「待て! お前はどこの!?」
警備隊が制止するが、誰やも知れぬ装鎧戦士はどこ吹く風で暴れまくる。ギャングたちを全員ぶちのめし、風体のあまり変わらない戦士ギルドまでもがターゲットになりそうになる。
「待て、俺は戦士ギルドの所属だ!」
突きだされかけたパンチが鼻先でピタリと止まる。装鎧戦士は首を動かして周囲を見まわし、もう暴れている人間がいないのを確認すると、すたすたと歩いてバイクの元へ。無言でまたがると走り去っていった。
「おおー、世直し戦士がやってくれたー!」
一瞬の静寂ののちに家から飛びだしてきた住人が吠える。
「あの偉そうにしていたギャングがこてんぱんよ!」
「さすが世直し戦士、見事な戦いぶりだ。警備隊員は見習えよ。せめて倒れてるこいつらをさっさと片づけてくれ」
「く、言われなくても」
住民は世直し戦士に喝采を送るのだった。
◇ ◇ ◇
「ったく、手間掛けさせてくれる」
正輝はバイクの手入れに余念がない。
斬ったほどではないが、何度も殴っていれば血反吐などを浴びることになる。バイクは逃がしてるものの、返り血を浴びたボディが触れたシート周辺は汚れてしまっていた。それを水に浸した布で拭き取っているのである。
「ごめんな、ルキ。身体が血まみれだったろ?」
「いえ、解除時に元の構成物質以外は払い落とします。なので、汚れることもありません」
「そっか。そういえば、変身するとそのあとは身体がきれいになるんだった」
汚れはすべて排除されてリセットした状態。ピカピカでピチピチの肌に戻るのである。
「だったら、風呂に入る必要ないんじゃね?」
「それとこれとは話が別です」
「どこが別なの!」
ツッコミが弾きかえされる。誤魔化しもせず、なにを言っているのかと言わんばかりに見つめかえされた。
「なして?」
「心をリフレッシュするのに必要なの」
「ええ、だからマサキと入るのがベストなのです」
ランゼッタもエメルキアも当然のことのように言う。それで得心しろというのは腑に落ちないところがある。しかし、抗弁も許さない姿勢で挑まれては正輝も口を閉じざるを得ない。
「俺の良心の呵責はどうやって解消すればいいんだろ……」
ぽそりとつぶやく。
「安心してください。もう、一時間もすればメイドさんたちが持ってきてくださるはずです」
「まるで、食わせとけば満足するだろ、みたいな言い方やめて」
「プラス、わたしたちの添い寝で癒やして差しあげているではありませんか?」
それも不可分で実行されている。
「そっちも地味に良心をさいなんでいるんですけど」
「なにか?」
「いえ、とんでもない。身に余る光栄に拝しております」
車の積載スペースでザコ寝はまあ気にならないのだが、ベッドでも状況が変わらないのは承服しかねる。しかし、何度言っても隣のベッドさえ使ってくれないのが現実である。
(俺は二度と一人寝ができない運命なのかもしれない)
正輝はあきらめが肝心という言葉を心に刻むしかなかった。
次回『誰の敵?(1)』 「きっちり落とし前つけさせないと顔に泥塗られたままで終わっちまう」




