世直し戦士(2)
ペンセは騒ぎが収まるまでスイリン母子をもう一つの小さな離れに住まわせることにしたようだ。隣接しているので、彼女が正輝を見掛けることもある。感謝の印か目礼を寄越してくるが、徹底してエメルキアやランゼッタの二人の装鎧少女は無視だ。
「あー、不快だ。めっちゃ不快。さっさとオリネキを出たい」
正輝は腹立たしい日々を過ごしている。
「我慢なさってください。わたしたちは慣れてますので気になりません」
「そりゃ、君たちを露骨に粗雑に扱ったりはしてこないぜ? でも、あの物を見る目には我慢ならない」
「そういうものだもん」
ランゼッタも平気である。
相変わらず街中は騒然としている。なので、軽々に動けない彼らは、被害の及ぶ可能性の低い上流層の住まうブロックに封じ込められているに近い。それもストレスになっている。
「お願いだからキレないでね、マサキ」
ティナレルザにそう言われて、ぐるんと彼女のほうを向く。
「キレる。その手があったか」
「ちょ! 勘弁してよ!」
「名案だ。さすがのルーザさん」
小妖精はわなわなと震えている。
「やめて。お願い」
「いやいや、問題ない。要は計画的にキレればいいんだろ?」
「なによ、その頭の悪い台詞は」
矛盾しているのは百も承知だ。ティナレルザが懸念しているのは人間への無差別攻撃なのであって、相手を限定すればいいわけである。
「せっかく世直し戦士なんて呼ばれてるんだから、オリネキでの行動は最低限にしておくべきじゃない?」
彼女はそれでも心配が収まらない。
「王国警備隊に任せておくのか? 明らかに人員不足なのはルーザが偵察して教えてくれたんじゃないか。もっと頑張れよ、警備隊」
「仕方ないじゃない。足りないものは足りないんだから」
「これまでは都市の暗部であるギャングともどうにか折り合いをつけて共存してきたんだろうな。歯止めが効かなくなって表面化」
治安維持のキャパシティをオーバーしている状態。
「そんなだから、街中じゃ世直し戦士の再登場を願ってる声が噴出してるわ」
「ロナも聞いたー」
「そうかいそうかい。じゃあ、期待に応えてやるしかないか」
キレ方とはそういうこと。攻撃対象をギャングに限定すればいい。ストレス解消にもなりそうだ。
「でも、ちょっと可哀想ですね。警備隊の方々なりに頑張っていらっしゃるんでしょうけど」
エメルキアは同情的だ。
「それでも常駐装鎧戦士までは投入できない。普通の装着者って、頻度や装着時間を気にするもんなんだろ?」
「はい、自我侵食の影響を抑制するために」
「万が一の事態に温存するしかない。となれば、生身の警備隊人員だけでどうにかするってなる」
装着者が変身せず動員されている可能性はあるが。
「だもんで、警備隊批判の声も高いの。なにをしてるんだって。世直し戦士は人攫い集団を成敗してくれたのに警備隊は大勢いるのに役立たずとか言われちゃって」
「しょうがないじゃん。下手に変身してギャングを抑え込んだって、すぐに近隣にメタル進化種が出現したら出動せざるを得ない。自我崩壊のリスクを負いながら変身するとか俺にはよくわからないけど、ちょっと涙出そうだよな」
「貴重な装鎧戦士ですもの。そのあたりを管理するために、この程度の争乱では投入されません」
戦争などに用いられる王国戦士団などは頻度の高い変身に耐えられる人材がキープされているという。逆に、都市常駐などは自我強度に難のある人材が当てられる。ゆえに、犯罪程度では出動することがない。
「まあ、犯罪者が装鎧戦士じゃなければって前提になるけどさ」
対抗手段が他にないケースだ。
「あのね、装鎧戦士が犯罪に手を染めるなんてまず考えられないの。それくらいの権威があるわけ。賊が偶然装鎧少女を手に入れるとか、すっごく稀なケースじゃなきゃ装鎧戦士が犯罪者とかあり得ない」
「なんかもう面倒くさい世の中だな、どこも。ほんとなら、強い力は抑止力に用いるのが正解のはずなのに、戦争なんかに使おうとして数を増やすからこんなことになってるんだぜ?」
「マサキはメタル進化種対処の少数だけ保有すべきだとおっしゃるんですね?」
エメルキアが彼の思うところを察してくれる。
「そうさ。もっと厳選した自我強度の高い人間だけが装鎧少女をパートナーに得て、信頼関係を築きメタル進化種と敵対するべきだった。そこを曲げたから粗製乱造みたいな事態に陥ってる」
「それとデレキセント教団の教義が足を引っ張ってね」
「どこを改めるべきかははっきりしてない?」
ティナレルザのあとをランゼッタが引き取って結論に導く。主張は正しい。正しいが、それで済まないのが人間であるのも確かなのだ。
「なんだろな。犯罪者に装鎧戦士が極めて少ないのがせめてもの救いって気がしてきた」
「だから、王国はマサキを怖れてるの。反逆者に強力な装鎧戦士が現れるのとか最悪の事態じゃない」
「おお、そう言われればそうだった。俺って超危険視されてる?」
「気づいていらっしゃらなかったんですか?」
妖精種たちに呆れられて腰が引ける正輝であった。
次回『世直し戦士(3)』 「世直し戦士の登場だ!」




