世直し戦士(1)
予想どおり、少女ペリンはうっかり口を滑らせてしまう。しかも、クルカイゼン邸にスイリンがいると知った警備隊が事情を聞きにきた最中にだ。母親は慌てて口を塞いだものの後の祭りである。
幸い、その装鎧戦士がどこにいるかまではペリンも話さなかった。二人をここに送り届けてどこかに去ってしまったということにしてくれている。どうにか、ギリギリのところで踏みとどまっている状況だった。
「マサキ、本当にありがとう」
ペンセがやってきて何度も感謝を口にする。
「もう感謝はいいから、さっさとバイクの評価をして払うもん払え」
「いや、でも、君は本当は装鎧戦士なんだろう?」
「あんたな」
当然、ペリンが誰のことを言ったのかペンセにはすぐ伝わった。彼が装鎧戦士なのは完全にバレてしまっている。
「隠せって言ってるのがわからないのか?」
鼻に皺を寄せて詰め寄る。
「待て待て、約束は守るから。でも、なんで正体を隠すんだよ。装鎧戦士って言ったら王国でも選ばれた人間だけがなれる究極の戦士なんだ。本当のこと言ったら英雄になれるのに」
「俺は望んでないから黙っとけって言ってる」
「そうでなくたって、君は今『世直し戦士』として噂の的なんだぞ? 隠す意味がわからない」
当然のように王国警備隊は、人攫いのアジトを襲撃した装鎧戦士を捜索している。それは、決して感謝状を送るとかのためではない。確保して王国に報告するためだ。噂を立てているのは一般人に過ぎない。
「警備隊が俺のことを突き止めたらどうなると思ってる?」
「王都に召喚されて特別待遇を受ける。上手くいけば、戦公の誰かに取り立てられてエリート街道まっしぐら」
「ばーか。俺の自由は消し飛ぶって言ってんだ。バイクで走りまわることなんてできなくなる」
実際にはそれどころではない。事情聴取された挙げ句、デレキセント教団に引き渡される可能性大だ。そんなことまでは話さない。
「大概のことは思いのままになるんだぞ? 今の僕どころじゃない権威も手に入る」
「で? 俺はルキやランゼのことが大切なんだ。王国に行けば彼女たちがどんな扱いを受けるかわかるだろ? 実際、今、あんたの二人を見る目が変わってる」
「う……」
いくらペンセでも、マサキの連れている二人が装鎧少女だと気づいた。そして、それ以降は二人を人間扱いせず、言葉を発しても無視するようになった。
「本当の妹か、それ以上の存在として大事にしてる。俺にとっては、それを放棄しての権威なんてクソ喰らえなんだよ」
「でもな……」
「これ以上の議論は不毛だ。大陸の人間が装鎧少女にどんな視線を向けるか重々承知してる。それが嫌だから正体を隠してる。わかったか?」
ペンセをだまくらかす方便としてはこれで十分だろう。本当のところも混じえてあるので疑いもしないはずだ。
「もったない」
「なくない。俺は自由にバイクを走らせて、自分の好きなことしてられれば満足なんだよ。それでも、金はいるからあんたの話にも乗った。ここで縁を切ってほしいか?」
「いや、そんな不義理はしたくない。君は正真正銘スイリンとペリンの命の恩人であって、僕の恩人でもある。好きなだけ離れにいてくれていい」
常識が邪魔をしているが、彼には敬意を払いたい。そんな心理が見え隠れしている。装鎧戦士に憧れもあるのだろう。男児という男児はそんな夢を抱く年頃が必ずあるという。
「できるだけ騒ぎは起こさないでオリネキを出るつもりだ。あんたに迷惑は掛からないよう面バレには気をつける。それで納得しろ」
「そうなのか。君はこれからも正体不明の世直し戦士として活動するつもりなんだな」
そう言われて固まる。
「なんだって?」
「だから、正体を隠して困っている人を助けてまわるつもりなんだろう?」
「悪いが、俺はそんな善人じゃない。変な期待をするな」
とんでもない勘違いをされる。もし仮に、正輝がこれからしようとしていることを話したら目を剥いて驚くだろう。ペンセもいずれ王国に仇なす装鎧戦士の噂を耳にするときが来る。
「わかったら、金を払って解放してくれ」
「がめついとこだけ世直し戦士じゃないんだな」
「まるで、俺がそう名乗ってるみたいな言い方すんな」
このときの話はそれで終わった。
ところが、事態は面倒な方向に転がっていく。オリネキの都がとんでもなく荒れはじめたからだ。
「なんで、こうなった?」
身動きしにくくなった彼は落胆する。
「なんでも、人攫い集団は都を仕切るギャングの末端組織だったみたい。それで、壊滅させたのは、もう一方の勢力を誇るギャング団が雇った装鎧戦士だったんじゃないかって疑いが浮上して、両者の大抗争に発展しつつあるってところ?」
「ずんぶん、気楽に言ってくれるじゃん、ルーザさん」
「だって、他人事だもの」
あくまで人間社会には冷淡である。
「だろうけども、俺たちがここを出る前には例の装鎧少女を救いださなきゃなんない。だってのに、こう都市内が賑わってると動きにくいじゃん。下手に行動すると警備隊に呼び止められるかも、だし」
「そうかもしれないわね」
「そうなんだよ」
「確かにそうですね。困りました」
賛同してくれたエメルキアにすがる。
次々と起こる頭の痛い事態に正輝はどうでもよくなってきた。
次回『世直し戦士(2)』 「名案だ。さすがのルーザさん」




