オリネキの不穏(5)
「お疲れさん」
正輝は戻ってきた二人の小妖精を懐に迎える。
物陰から覗いていた範囲でも、なにも言わずともティナレルザとロナタルテは必要な情報を集めてきてくれている。通気口の一つから出てくれば次の通気口へ。さらにはもう一つへと入っていき、全体の情報把握に努めてくれていた。
「どんな状況?」
成果報告を待つ。
「一番手前の部屋でスイリンとペリンを発見したのは偶然ね。自重と準備を促してきたわ。二つ目にも。三つ目は空き部屋」
「助かる。すぐにいけそうか?」
「脱出ルートは……」
ドアの格子窓からもさらに重要な情報を得てきてくれている。これで突入からの拘禁部屋制圧も容易になった。部屋周辺の見張りの人数や配置も頭に入れる。
「完璧だな、ルーザ」
小妖精は「任せて」と胸を張る。
「じゃあ、即時決行のオプションで突入する。ランゼと二人は車で待機。俺とルキがバイクで裏通りに向かう傍ら、通行人に人攫いのアジトの建屋の場所を警備隊に通報してもらう。その後に変身して突入。スイリンとペリンを保護したら、他の攫われた人たちは警備隊に任せて撤収、と」
「わかった」
「あーい」
路地を移動して車とバイクの場所へ。エメルキアと二人、バイクにまたがる。
「じゃあ、少し遅れて現場にな、ランゼ」
「了解」
駐車場所から出たところで通行人に通報を依頼。目を白黒させているが、見定めている時間はないので走りだす。
「ビルドイン」
バイクを走らせながら変身。道行く人が変身の光に気づいて驚く頃にはフォームは変わっている。正体を隠したまま、アジトの前に達すると見張りにいきなりバイクアタックをかます。
「てめ……、ぶ!」
「かまけてる暇ないんだよ」
ウィリーした前輪で轢き潰して停車。降車するなりパンチでドアを破壊した。一目散に廊下を右へ。その先に地下室への階段を発見して駆けおりた。腰を浮かす見張りを問答無用で小突き倒す。二人を眠らせてから、拘禁部屋のドアを鍵ごと引き剥がした。
「聞こえてたか? 出るぜ」
奥の部屋から脱出を促す。
「はい!」
「後ろに。必ず外に出してやるから急ぐな」
「わ、わかりました」
救出に来たのが装鎧戦士だとわかると囚われた女性たちは一瞬呆然としたものの、すぐに立ち直った。幸い、拘束具のようなものは使われていなかったので後ろに従えるだけ。もう一部屋のドアも破壊して引き連れる。
「てめぇ、なにを……、げ!」
その頃には騒音に気づいた本来の住人たちが地下に降りてくる。しかし、そこにいるのが装鎧戦士だとわかると急ブレーキ。
「警備隊! いや、違う?」
「ハズレだ。だが、あんたらがもう終わりってことに変わりない」
「なんだと? オレらが何人いると思ってる」
「何人いても同じさ。生身で装鎧戦士に敵うと思ってる時点で戦闘の素人だって思い知れ」
ナイフを出して突きだしてくるのを無視して前に出てパンチを浴びせる。ナイフはプロテクタに当たって硬質な音を立てて折れ、パンチは紛うことなく顔面を潰す。それでも加減はしてあった。
「か、掛かれ!」
「逃げるが勝ちってのを知らないか? まあ、逃さないけどさ」
次々と殴って倒していく。中には長剣を抜いて斬り掛かってくるものも出てくるが、装鎧戦士の能力で念動強化も施されていない剣などプロテクタに歯も立たない。
そこからは一人ずつ殺さないよう殴り倒していく作業となる。当たりどころが悪ければ日常生活もままならなくなるほどの怪我となろうが知ったことではない。後ろに女性たちを従えつつ、脱出路をギャングどもの絨毯で敷き詰める作業に従事した。
「逃げんなって」
「ひいぃ!」
最後の頭目らしき男の襟首を掴んで吊るす。軽く廊下にぶち当ててやっただけで沈黙した。まあ、壁にはかなりのダメージが残っていたが。
頭目も前に放りだして踏み潰しながら出口へ。外には野次馬の輪がしっかりとできており、そこで女性たちを解放した。
「あんたがスイリンだな?」
一人を呼び止める。
「はい」
「ペンセに頼まれてる。一緒に来てくれ。ペリンも」
「はい!」
二度目の肯定は声が弾んでいる。彼女にとってペンセは浮気な男ではなく、頼りになる惚れた男だったらしい。
「こっち」
「ほーい」
ランゼッタが動かす車に二人を押し込むと、彼もバイクにまたがり撤収に移る。突然の騒ぎに集まる人波に逆行するように移動して、人目がなくなったところで解除した。
「スイリン、俺の正体のことはペンセにも内緒で頼む。その子にもしっかりと口止めしといてくれ」
「はあ。はい」
納得はしかねているようだが、そこは徹底してくれないと困る。事件を解決して、装鎧戦士として目立つのは最悪の事態だ。
(とはいえ、どこまで引っ張れるかってとこか)
スイリンはともかく、ペリンは子どもである。うっかり口を滑らせるなというのが無理がある。
「ああ、ペンセ!」
「スイリン! よかった!」
「あ、たまに来てくれる親切なお兄ちゃんだ。ここ、お兄ちゃんの家?」
抱き合う二人と対象的に、ピンときてない子どもが一人。
クルカイゼンの邸宅に戻ってきて、彼らを引き合わせると仕事は終わったとばかりに離れに引っ込む。今の彼らに声掛けするのなど無粋だ。
正輝はひと仕事終えて鳴る腹を宥めすかしていた。
次回『世直し戦士(1)』 「俺は望んでないから黙っとけって言ってる」




