オリネキの不穏(4)
ティナレルザとロナタルテは一組で行動していた。マサキが聞きだした人攫いアジトの場所は下町でも奥まった目立たない建屋。木造三階建ての建屋を根城としているのは、いわゆるならず者集団、ギャングである。
「ここは駄目」
「だねー」
ティナレルザはロナタルテと合図を交わす。
表口にはなんでもないふうを装った見張りを立てている。不用意に近づけばどんなリアクションがあるかわからない。まだ、調べられているのを気取られていい段階ではない。
「覗けるだけ確認して戻るわ」
「はーい」
狭い路地に面する裏手には勝手口が一つ。ガサ入れがあったとき用の逃走用のルートだろうか。表面に比べて窓も少なく、探りにくいが仕方ない。
合図して担当する窓を決める。近くまで行くと飛行翅を消した。暗がりでは光る飛行翅は目立ってしまう。消せば飛行力は落ちるが、魔法で身体を浮かせてゆっくり移動させるくらいはできる。
(光らなきゃいいのに)
高速移動するには飛行翅を出さねばならない。三角形のゆらゆらと波打つそれは、飛行の魔法に不可欠のもの。浮揚と推進、舵取りの三役をこなしてくれるが、光を放つのが玉に瑕。なぜ光るのか、マサキもいろいろと推測していたが本人たちでさえその理由を知らない。
(ハズレ。ならず者ばっかり)
窓枠の隅からそっと顔だけ出して覗くと、ならず者がたむろしているだけ。暇つぶしに賭け事をしたり、酒瓶をあおったりしている。
ロナタルテも首を振っているのに頷き、次の別の窓を合図で確認する。ティナレルザが覗いた次の窓では、ならず者の一人が女性を組み敷いていた。それが、出入りの女性なのか、攫ってきた女性なのかはわからない。
(少なくとも閉じ込めてる場所じゃない)
ロナタルテと手分けして窓を確認していくが、攫われた人が囚えられている部屋が見当たらない。真っ先に制圧しなければいけない場所なので、そこを把握しておくのが重要なのに、だ。
「いなーい」
「全部ハズレ? 違う場所にしてるの?」
なくもないとは思うが考えにくい。
ティナレルザは一度戻る判断をした。少し離れた路地で待っているマサキやエメルキアたちと合流する。
「見つからないの。どうする?」
せっかく任されたのに不本意な結果しか口にできない。
「いないか。専門ってわけじゃないだろうが、そういう手合ならアジトに拘禁部屋の一つくらいは備えていると思ったのにな。例えば、鉄格子がはまってる窓なんかなかった?」
「ううん、普通の窓ばかり」
「なかったー」
意見は一致する。
「他に置いているとも思えない。見張るのに手間が掛かる。穴になるだけだ。だったら、そういう部屋があるはずなのに」
「わたしもそう思ったから相談しに戻ったの」
「ああ、正解。助かる」
マサキは結果が出ずとも働きは認めてくれる。
「俺も行く。裏手に見張りは?」
「いなかったわ」
「先導、頼む」
マサキたちの忍び足に合わせてゆっくりと進む。狭い路地を通り抜けて、件の建屋の裏近くに。角から覗きつつ、調べた窓を示す。すべてハズレだったと説明した。すると、マサキがある場所を指で差す。意外な場所だったので彼女は瞠目する。
(通気口?)
建屋が地面と接する場所に幾つかの通気口がある。床下の空気を入れ替えるものではないとしたら、示すのは別のものである。
「地下室?」
「おう。人を閉じ込めておくなら必要だろ?」
「確かに」
当然だ。地下の閉鎖した部屋に人が大勢いれば不都合が生じる。当然として、空気が通る場所が不可欠となり、それが表に現れているのが通気口だ。しかも鉄格子がはまっている。子どもでも通り抜けられるものではないが、彼女たち小妖精には意味がない。
「頼めるか」
「すぐに」
そこなら人目を気にしなくていい。飛行翅を出したままですり抜けていく。やはり、その奥には部屋があり、多くの女性や子どもが囚えられていた。
ロナタルテと手分けして目的の人物を探す。すすり泣きばかりが聞こえてくる薄暗い部屋だったが、ほどなく目的の髪色と瞳をした人物に行き当たった。
「静かに」
二人が入ってきたのを目敏く見つけた人間に声を抑えて告げる。
「攫われた人を助けだそうとしてるの。協力して」
「は、はい?」
「いい? 絶対に大きな声を出さない」
彼女たちは普通の人間。まさか、妖精種に命令されるとは思ってもいなかっただろう。戸惑いの空気が流れる。
「あなた、スイリン?」
「ええ、なぜ?」
「私、ペンセの依頼を受けた人物の指示で動いてる。あなただけを救いだすのは無理だから、ここにいる全員を助けることになる。騒ぎが起こったら、みんなを集めて逃げだす準備をして。できる?」
藁をも掴む気持ちなのか、必死に何度も頷いている。
横に寄り添っている子どもがペリンなのだろう。空を飛ぶ彼女を目を真ん丸にして見つめていた。とりあえず売り払われる前でよかった。マサキの引き伸ばし工作は功を奏している。
(しかし、手広くやったものね)
部屋の中には数十名の女性、子ども。通気口は三つあった。もしかして百名近い女性が攫われているのかもしれない。
念のため、もう一つの通気口も調べてみると似たような状態。三つ目が空だったのがせめてもの救いか。彼らだけで保護、脱出させられる人数にも限界がある。
調査を終えて、ティナレルザはマサキのところに戻った。
次回『オリネキの不穏(5)』 「完璧だな、ルーザ」




