オリネキの不穏(3)
「マサキ、マサキ!」
ペンセが駆け込んできたのは次の日の午後のこと。正輝たちが離れの庭のベンチで日差しを味わいながら昼寝をしていると、お坊ちゃんは真っ青になって彼のところにやってくる。
「スイリンがいないんだ! 娘のペリンも! 近所の人がもう四日以上も姿を見てないって!」
彼は「で?」と応じる。
「スイリンは商売女じゃないけどとっても美人で真面目な女性で、ペリンは僕に似てとびきりの美少女なんだ。彼女たちになにかあったら……」
「身の上話はいらない。まずは警備隊に届けとけ。捜索くらいはしてくれるだろ?」
「してくれるけど、あまり真面目には受け取ってくれない。問題起こして身をくらます人間なんて五万といるって。でも、スイリンはそんな女性じゃない」
慌てまくっている。
「とりあえず筋は通しとけ。勝手をしたってあとで咎められるのは遠慮したい」
「父上にお願いして戦士ギルドに依頼を。いや、この場合、どこのギルドに……? って、咎められる?」
「俺が調べに行ってやる。あんたは変に騒がず待ってろ。たぶん、身代金要求かなにか来るだろうが適当に引き延ばせ。そういう輩が金で無事に人質を返すって考えるな」
まずはお坊ちゃんを落ち着かせる。スイリンとその娘のペリンの特徴に関して引きだした。写真なんて便利なものが存在しない以上、背格好に加え髪や瞳の色あたりで妥協するしかない。よほどの偶然が重ならないかぎり、それでどうにかなるだろう。
「頼む。お礼はきちんとするから」
「請求はしないがくれるもんはもらう。せいぜい期待させろ」
そう言い置いて立ちあがった。エメルキアとランゼッタをバイクに乗せて走りだすが、今回主に働いてくれるのはティナレルザとロナタルテになる。二人の飛行力と狭いところにも入り込める能力は調査にもってこいなのである。
(ジノグラフの人間の愚かさってのがこんなとこに表れるぜ。彼女たちと上手に付き合わないから伝令だの偵察だのしか頼めない。きちんと関係が成立してればこんな頼りになる存在は他にいないってのに)
正輝は肩をすくめる。
「例の裏路地から愚直に犯罪者を追っ掛けるってのはマズい手だな。時間が掛りすぎる」
手掛かりは他にないのだが。
「ここは一つ、蛇の道は蛇ってことで……」
「へび?」
「あう。えーと、餅は餅屋……」
「もち?」
「コントがしたいわけじゃないんだけど」
「こんと?」
微妙な空気が流れる。彼もどう説明すべきか困る場面。忘れてもらうことにした。
「犯罪界隈の誰かを絞めあげて、人攫いをやってる輩が集まってる場所を突き止めるとこからだな」
当たりをつければ小妖精に調査を頼める。
「でも、たかが犯罪者相手に変身までするのは」
「あのな、ルキ。俺だってそれなりに格闘には覚えがあるわけ。剣のあしらいにも慣れてきたから、雑魚の一匹や二匹はなんてことない」
「そうですね。自前の戦闘力がなければ変身してもこれまでみたいに戦えなかったでしょうし。忘れてました」
少女は素直に認める。
「俺もオリネキには明るくないから、向こうから寄ってきてくれないと困る。というわけで、君とランゼッタには人攫い界隈の馬鹿をおびき寄せる撒き餌になってもらう。釣れたら俺が絞める。そんな感じで」
「わかった。可愛くする」
「特別になにかしてなくてもランゼは可愛いから自然体でよろしく」
言うまでもなく両腕が埋まる。正輝は両手に美少女、懐にフィギアサイズの美少女を抱えて裏通りを流すことにした。男の彼がついていると狙いにくさもあるだろうが、まさか二人で歩かせるような真似はできない。
(俺一人ならどうにかなるって思ってくれるだろ?)
釣れるのを待つ。
ほどなく尾行の影が見て取れたので誘導する。正輝もプロではないが、そういう相手が引っ掛かるもんだと警戒していれば察知できるものだ。路地の奥まで入ったところで走ってくる足音がする。
「よお、色男の兄ちゃん。怪我したくなかったら二人を置いていきな」
典型的な台詞を浴びせられた。
「よお、犯罪者諸君。怪我したくなかったらあんたらのアジトを吐きな」
「てめぇ、嘗めてんのか?」
「あんたらこそ、俺を嘗めてんのか?」
抜かれたナイフが薄闇に光る。以前なら少しは臆したかもしれないが、敵にまわす相手が軒並み長剣を抜いてくる昨今、特に怖ろしいとは感じなくなってしまっていた。それ自体はあまりよい傾向ではないのだろうが心強い味方もいる。
「三人いますけど大丈夫ですか?」
「大丈夫だいじょうぶ。一人でも叩いておいてくれれば始末するから」
「わかりました」
実際にはエメルキアとランゼッタが一人ずつ念動力で殴りつけてくれている。その間に彼が一人のナイフを持つ手をひねりあげ、鳩尾に掌底を叩き込む。悶絶したところを頭を蹴って沈黙させた。
「魔法だ! 無闇に……」
「なんだって?」
変身時とは戦い方は違う。空中機動に用いる念動力は使えないので摺り足で接近。足払いを掛けて体勢を崩してから正拳を飛ばした。鼻のひしゃげる感触を味わいながら振り抜く。
もう一人のナイフを持つ手を手刀で叩き、引っ張りこんで膝を入れる。痛みで動けなくしてまわし蹴りで打ち倒した。
「さあ尋問の時間なんだが、たっぷり楽しんでくれ」
「ひっ!」
鼻の折れた男は悲鳴をあげる。
正輝は彼らを丁重にもてなし、アジトの場所を聞きだした。
次回『オリネキの不穏(4)』 「全部ハズレ? 違う場所にしてるの?」




