オリネキの不穏(2)
「なんつー面倒な」
ティナレルザからの報告を受けた正輝は頭を抱える。
小妖精が確認した二人組は明らかに犯罪者の類。しかも、ペンセに関係しているとなると、今後のお坊ちゃんの動向にも大きく関与してくる可能性が高い。そして、正輝たちにも小さいながら影響があるだろう。
「私としては早々に関係を断つのをお勧めするけど?」
彼女は合理的だ。
「たぶん、ルーザが正しい。でもな、この入り混じった人間関係の中で教会襲撃を行ったとしたら、最悪その誘拐事件まで俺の所為にされかねないのが面倒だ」
「あるわね。市民感情を逆撫でするし、その噂が近隣の街や都市にまで及ぶと活動しにくくなること請け合いだわ」
「可能なら、そっちはこじれないように動くのが理想なんだけど難しいぜ。そもそも、なんでペンセの関係者が巻き込まれるほどオリネキは荒れてる?」
西側のほうが治安が悪い印象がない。
「そいつら曰く、最近の傾向みたい。どこの都市や街からも小妖精が消えたでしょ? それ以降、色街の需要が上がってるらしいの。で、どこも働く人を掻き集めていて、それが人買いみたいな犯罪者の横行を増やしてるって感じ」
「マジでか。ジノグラフの馬鹿どもは小妖精をエロ本かなんかと混同してやがったのか」
「えろほん?」
「いかがわしい絵が載っている書物のこと」
ティナレルザの目が軽蔑の色を帯びる。彼は別に自分が生みだした物ではないと弁明しなくてはならなかった。
「ともあれ、オリネキ含め、大都市では今後人攫いや人買いが跋扈するほど荒れる傾向があるんだな。王国が摘発を強化しないかぎり」
事は巡り巡っていた。
「混沌としてたほうが目立ちにくい?」
「それもある。でも、ランゼやルキを人間の少女に偽装して連れ歩いてる身としては、誘拐される側としての警戒も怠れなくなる。できれば、王国警備隊には頑張ってほしいとこなんだがな」
「そうかー。でも、ぼくは簡単に攫われたりしないけど」
装鎧少女は念動力が強いので抗える。
「仮に誘拐されなかったとしても厄介事にはなる。結果的に目立ってしまうかも、だろ?」
「ほんとだ」
「だから、そんな状態にはなってほしくないのが俺の本音」
(とりあえず、身の周りだけでも面倒なことにならないくらいには関わっておくべきか。今後を睨んで、顔や風体が噂にならない程度に)
最低限の迷彩を施しておきたい。
「まだ、手は引かない。教会の装鎧少女には悪いがもう少し我慢しといてもらう。立つ鳥跡を濁さずくらいの心持ちで」
無理筋な話だが。
「教会は思いきり濁らせていくと思いますけど」
「ルキさん、ツッコミ厳しい」
「あ、本当のこと言っちゃいけない場面でしたか」
エメルキアに悪気はない。ただ、悪気はなくとも刺さるものは刺さるのである。こういうときに自分の中途半端な立場が憎い。完全に人間側でも妖精種側でもいられない。
「帰ろう。お腹減った」
「ええ、メイドさんの持ってくる美味しいご飯にしましょうね」
「ごはーん」
急に元気になれるロナタルテがうらやましくもある正輝だった。
◇ ◇ ◇
「なあ、ペンセ、あんた、ちゃんと認知してる?」
「にんち?」
正輝が問うとお坊ちゃんは理解していないふうだ。
「孕ませた女性に、男としての責任を取ってるかって言ってる」
「そそそ、それはなんのことだい?」
「身に覚えがありすぎて動揺しまくってるのを顔に出すな」
突然の振りに青くなっているペンセには同情の余地はない。この世界に避妊という考えがどれくらい広まっているか知らないが、農業含め一次産業従事者が大多数を占める環境では重視されまい。人の数は労働力の強さとされる認識だろう。
「別に咎めはしない。ちゃんと娶れとか言ったりしなからさ、一応は困窮してないかとか把握しとけよ。それが最低限の責任ってもんだろ?」
褒められたものではないが、正輝としてはそれくらいの忠告しかできない。
「も、もちろん、それくらいは」
「目、泳ぎまくってっからな?」
「なにを言ってるんだい? そんなことはないよ」
「取り繕うの遅いって」
これで少しは確認する気になるだろう。おかしな話、具体的には身代金請求などが来ても冷静に対処できようか。身を慎むようになってくれればベストだが、そこまでは期待しない。
「急になんでそんな話を?」
ペンセは訝しむ。
「ああ、君の父上殿も僕と同種の人間だったのか。で、腹違いの妹の面倒を見ることになったと」
「なんつー、誤解してる」
「でも、兄妹にしてはあまり似てないじゃないか。美形であるのは共通してるけど、タイプ的に違うからね」
妙な分析をされた。
「あんたな」
「さぞかし美男子だったんだろうね、父上殿は。浮き名を流した結果、今君が苦労してるから改めろって言いたいんだろう?」
「もう好きに受け取っとけ。ただし、俺の言ったことはちゃんと実行しろ。バイクが組みあがったからって、そればっかりにかまけたりするな」
完成品となったバイクをぽんぽんと示しながら言う。ようやく引き渡しの段取りとなったのだ。エメルキアに工具を流体金属に戻してもらいながら窺った。
「私事まで関わらないでくれ。ちゃんと対価は払うから」
「確認が終わってからでいい。なんか悩みができたら相談しろ。いただくもんいただくまではいる。言っとくが、旅暮らししてるくらいだからそれなりに腕っぷしもあるんだぜ」
「そうなのかい?」
正輝のはただの善意だとわかったようだ。
次回『オリネキの不穏(3)』 「俺が調べに行ってやる」




