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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
偏屈な細工職人

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オリネキの不穏(1)

 正輝たちは教会の裏手にいる。本来の目的を果たすための偵察である。今回はどこに妖精種(エルフィン)育成室があって、どのくらいの規模で何人くらい囚えられているか。司祭の中に彼を狙う教団戦士がひそんでいないかを探っていた。


「司祭のほうは全員シロだと思う。しつこく回廊内を巡って一人ひとり確認した。誰も装鎧少女(エルフィン)を連れていないから間違いない」

 彼が一人でチェックしている。

「話からして、ここにはトップの司教がいるらしいけど、まさか、そこが入れ替わってるとは考えにくいから除外していいよな?」

「おそらく、になりますが」

「育成室のほうは?」

 最初から裏手にまわっているのはエメルキアたちだ。

「ほとんど空です。小妖精(リトルエルフィン)がいたとしても一人か二人くらいでしょう。ただし、装鎧少女(エルフィン)がいます」

「ほんとか?」

「単独です。なので、契りを結ぶ前だと思います」


 誰の装鎧少女(エルフィン)でもないとエメルキアは主張する。装鎧戦士(エルフィンアーマー)は往々にして装鎧少女を身近に連れ歩いている可能性が高い。いつでも装着できるようにという考えと、装鎧戦士の象徴である存在を傍に従えるのが権威と感じる心理からくる。


「契りを交わす前ってのはなんでなんだろな?」

 ランゼッタのように環境による変化の実験だろうか。

「環境実験かもしれませんし、司祭や、もしかしたら信者にも使わせているのかもしれません。つまり、繁殖用です」

「それ聞くと、今のこの場でぶち壊して救いだしたくなるんだけど」

「自重ください。あくまで可能性です」

 性的に利用されているとすれば反吐が出る。

「一度動けばオリネキでの活動は困難になるでしょ。タイミングを間違えないほうがいいわ」

「ルーザの言うとおりなんだけどさ。いっそ、騒ぎを起こして、ここを餌にして教団戦士をおびき寄せてから叩く作戦もありなんじゃないかとか考える」

「そこまでやる? でも、悪くないかも」


 周到な準備が不可欠なれど、一つの選択肢ではある。その場合、綿密に身分の偽装をして、戦闘になるときは事前に変身してから行動しないといけなくなる。オリネキでは単に偶然に身分を誤魔化せているだけで、動きやすい立場とはいえない。


「あの離れは攻撃拠点としてはとても優秀なんですけど」

「ルキはあそこに立派なバスタブがあるからってだけじゃん」

 茶化す。

「そうですけど」

「あっさり認めるか。そうじゃなくて、もっと気に留める人間が少ない立場じゃなきゃ。今はペンセっていうこの都市でもそこそこ有名人に依存してるから無理」

「それなんですよねえ。あの人がそんなに浮き名を流していなければ」


 交友関係が広すぎて使えない。彼が連れてきた人物というだけで、そこそこ正輝に関する噂が流れてしまっている。耳目を集めやすい状態だ。都市の重要人物と接点があるのは活動上よろしくない。


「一発勝負しかないよ、ルキ」

 ランゼッタの忠告に少女も「悲しいです」とため息混じり。

「となると、あとはタイミング。今日は帰ってバイクを組みあげて引き渡すからなし。義理だけは果たしときたい。一両日中はペンセに試乗確認させて報酬をいただいてからオリネキを離れようと思う。そこだな」

「では、教会からの離脱動線だけ調べておきましょう」

「そうね、ロナと私でもう一度周囲を飛んでくるわ」

 ティナレルザが動いてくれるという。

「頼む。おそらくデュアルビルドまでは不要だろうから、ランゼは車待機でいけるんじゃないか」

「予め、逃がしておく必要はないわけね」

「随伴離脱の方向で」


 正輝は打ち合わせを済ませて小妖精二人を送りだした。


   ◇      ◇      ◇


 オリネキの教会は、下町と上流層が住まうブロックとの中間に位置する。何人(なんぴと)にも開かれているという印象操作の一環だろう。現実は、王権にも食い込んでいこうという姿勢なのだが。


 ゆえに、教会の裏通りともなれば雑多な人間が行き来している。それはさほど問題ではない。ティナレルザが今調べるべきはクロスカントリー車が自由に走れる道幅があるルートだけである。それも、街門に接続されているのが望ましい。


(それにしても猥雑すぎない?)

 早くも後悔していた。


 上流層側は難易度が低い。なので、ロナタルテに広範囲をざっと調べてもらうよう頼んだ。彼女が担当するのは下町側であるのだが、裏通りからの路地が網目のように張り巡らされている。無視してもいいのだが、騒ぎを起こしてそこから溢れでる人の量によっては離脱ルートに設定しにくいという難点がある。


(どれくらいの人間が出入りしてるかだけでも見ておかないと)

 小妖精はうんざりする。


「あれは例のクルカイゼンのとこの放蕩息子の隠し子だって?」

「ああ、母親はペンセの娘だって言ってる」


 聞き捨てならない人名が出てしまったので彼女はそちらに向かわざるを得ない。近くの軒先からそっと聞き耳を立てた。


「まさか、そんな美味しい獲物が掛かるとはな」

「悪くないだろ? しっかりと身代金をふんだくってから、母親も娘も色街に売り払ってやればひと財産だぞ」

「まったく、お前の悪知恵だけは見事なもんだ」

「それで稼いでんだから文句言うなよ、相棒」


 ティナレルザはその会話を聞いて余計にうんざりしてしまった。

次回『オリネキの不穏(2)』 「えろほん?」

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