飄々とした男(3)
ペンセはマサキをクロスカントリー車やパワーユニットを載せ替えた従来型の木造車、バイクを製造している工房に案内する。行われている作業に文句の嵐かと思いきや、意外と静かに見てまわっていた。
「いつもの調子じゃないじゃないか?」
「ばーか、立場を考えろ。部外者の俺がやってることを散々こき下ろしたら職人と喧嘩腰にしかならないだろ? それを指摘すんのはあんたの仕事だ。理屈は図面に込められてるし乗り物を作る要素はバイクに詰まってる。仕上がったものを研究させて、あんたが俺に聞いたことで補完すれば職人は理解する」
教え諭された。
「そんな難しいこと考えてたのか?」
「俺のことをなんだと思ってる?」
「偏屈な職人」
「バイク、組みあげてやんないぜ?」
慌ててマサキの言うとおりにすると約束した。まさか、バイクを人質に取られるとは思わない。
「じゃあ、移動しよう」
「ばらばらに工房を置いてるのか」
下町に点在するように工房は設けてある。広いスペースを必要とするため地価の問題もあるし、職人の暮らしやすさもある。技術管理面の難はあるがメリットのほうが大きい。
「これはこれはペンセ様、いらっしゃいませ」
工房主という女性が応対に出てくる。
「お話は伺っております。どうぞご自由に見学ください」
「邪魔してすまない。これが話してあった客のマサキだ。織り機に興味あるらしいから好きに見させてやってくれ」
「ええ、特に隠し立てするようなものはございませんし」
織り機は昔ながらの機械である。工房は量産できるように設置してあるだけで、個人で受注販売しているような職人もいる身近な製品だ。
「世話になる」
マサキが珍しく笑顔で接している。
「いえいえ。完成品の品質検査のために扱う機織り職人も常駐しておりますのでお気軽にお声掛けください」
「ありがたい。主に動いてるとこ見たい」
「では、こちらへ」
工房主が完成品を置いているエリアへと案内する。組みあがった織り機が三台ほど置いてあり、一台を女性職人が実際に取り扱って確認していた。
マサキは織り機を目にすると、周囲をぐるぐると巡って細かく観察している。まるで、見るだけで理解しているかのようだった。
「そっか。そういうことか。発明した人、天才だな」
珍しく瞳を輝かせていた。
「長い歴史の中で改良されてきた完成品ですので、誰が発明したというものでもないんですのよ」
「言われりゃそっか。ありがとう。勉強になる。見せてもらっても?」
「どうぞどうぞ」
年若い職人が操作しているのに見入っている。手元の動きに注目して顔が近づきすぎていることにも頓着していない。その娘は真っ赤になりながら、必死に冷静を保とうとしていた。
「あのさ」
「ひゃう! はい」
急に間近に見られて変な声が出ていた。
「この滑らせている道具はなんていうの?」
「しゃ、シャトルって、いいます」
「ああ、行ったり来たりさせるからシャトルか。なるほど、ありがと」
微笑みかけるから余計にしどろもどろになっている。
「こんなこと言うの申し訳ないけど、わりと単調な作業に見える。君がやっている部分も自動化できない?」
「あの、シャトルで通す糸のテンションの掛け具合とか、締め具合とかで仕上がりの風合いが変わるんです。なので、機織り職人は用途に応じて微妙な加減をしながら目的の布地を織ってるんです」
「マジで? すごいな」
マサキは機織りの職人芸に感動していた。その職人娘が取りだす、違う風合いの生地の手触りなどを確認して絶賛している。
「すごく参考になった。ところでこれ、売り物?」
織っている最中の生地を示す。
「いいえ、品質テストですので違うんです」
「じゃあ、妹に触らせてもらってもいいかな?」
「え、でも、大人用のサイズですので、妹さんじゃ難しいのでは?」
彼の妹たちはローティーンにしても小柄である。
「大丈夫だいじょうぶ。問題ないから教えてやってもらえる?」
「そう、なんですか」
「悪いね」
水色の髪の少女が職人娘の座っていた椅子に座ると機織り操作の指導を受けている。学んだエメルキアという名の少女は、器具に手も触れず、すべての操作を魔法でやりはじめた。
「早っ! すごい魔法力だな」
感心する。
「ああ、ルキなら朝飯前の器用さがある。ランゼだってできるよな?」
「できる。やってみたい」
「もうちょっと習ったら代わってもらおうな」
驚いたことに工程をすぐに飲み込み、力加減まで試していた。
滑ったシャトルが宙に浮き、また戻る加速をするのには呆れる。しかも、素早く正確そのものだ。職人娘が目を丸くするほどの習得の早さを見せている。
黄色い髪のランゼッタという妹も見様見真似ですぐにできるようになる。加減の部分となるともう一人に劣ったが、正確さではこちらのほうが上かもしれない。
「ペンセ、一台譲ってくれ。完成品でもこれだけコンパクトにできるなら余裕で車に乗る」
マサキが言いだした。
「構わないけど、旅先に持って歩くような代物じゃないだろう?」
「さ……、実家に持って帰って他の姉妹に使わせる。糸のほうは目鼻がついたんだが、生地のほうはまだ研究中なのさ。どんな織り方が完成した糸に向いてるのか模索したい」
「わかったから、そんなにがっつかないでくれ」
妙に早口になった珍しいマサキに、ペンセは苦笑いした。
次回『オリネキの不穏(1)』 「それ聞くと、今のこの場でぶち壊して救いだしたくなるんだけど」




