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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
偏屈な細工職人

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飄々とした男(2)

「ねえ、ペンセ様。お屋敷に超美男子のお客様がいらしてるって本当ですか?」

「まったく、耳が早いね」


 ペンセは接客女性のいるバーで飲んでいるところ。比較的高級な部類に属する店なので情報にも耳をそばだてている。

 彼のクルカイゼンの家は経済的な有力者が集うブロックに建っているので、周囲の有力者も注目している。マサキが出入りしているのを目撃して、店で話したようだ。


「流しの細工職人なんだけど、腕がいいから招いて技術指導してもらってる」

 隠して、あらぬ噂を立てられるような話題ではない。

「連れてきてくださいよぉ? すっごく興味あるの」

「いや、たぶん、この時間だともう寝てるからね」

「えー、まだ宵の内ですよぉ?」

 彼もこれからスイッチが入る時間帯だ。

「それがな、メイドたちが言うに、彼女たちとそんなに変わらない時間から起きだして体力づくりに走ってるそうなんだ。だから、こんな時間には就寝ってわけ」

「すごく健康的。ペンセ様とは真逆ですね?」

「そういうこと言う娘にはお仕置きが必要だな」


 じゃれ合って嬌声をあげさせる。この店はそういう遊び方をする場所なので誰も咎めない。


「顔はいいが、どうにも偏屈な男でね。ほんと仕事のことしか興味ないんじゃないかって思うときある」

 知りたがるので話す。

「そうなの?」

「酒もほぼ口にしないんだとさ。食事に軽い果実酒を付けてあっても喉を潤す程度にしか減ってないって」

「そこもペンセ様とは真逆」

 ケラケラと娘たちは笑う。

「まあ、食べるのは好きみたいだな。大した健啖家らしい。妹二人はすごく少食だけど、その分マサキが三人分くらい食うっていうからバランス取れてるな」

「違うお腹に入っているのに?」

「どうなんだろうな。メイドの給仕も断られるって話だ。ただ、食器を下げに行ったときすごく感謝されるらしい。それがメイドたちに大ウケでな。役割分担でもめてる」


 離れに食器を下げにいくと、マサキは極上の笑顔で「今日も美味しかった。ありがとう」と言うらしい。その子どもみたいな笑顔にメイドは皆やられている。最近は誰が落とすか躍起になっているが、誰にも食指を動かさないというのだから気がしれない。


「うちはメイドも粒揃いのはずなんだがな、ここの店と同じで」

 話題に引っ掛けて歓心を買う。

「またぁ、ペンセ様、お上手なんだから」

「ちゃんと飲んでるかい? 遠慮せずにいってくれよ」

「はーい、ペンセ様あってのお店ですぅ」


 そんな調子で夜も深まっていく。なので、家に戻るのは日付が変わってずいぶんと経ってからとなる。ベッドに入って眠り、惰眠を貪ったらもう昼前だ。湯屋で身ぎれいにして目を覚ましたら昼食という時間になる。


「お、だいぶん仕上がってきたな」

「やっとお目覚めか」


 離れの庭でマサキが彼のバイクを組み直している。昨日のうちに交換パーツを揃えていて、組み立てに入ったかと思うと今日には原型に近くなっていた。びっくりするほど勤勉な男である。


(その気になったら劇場勤めだってできそうな顔してるのに、このストイックさはなんなんだ? 職人ってより武人ってほうが似合うんじゃないか?)

 いい例えだと我ながら思う。


「今日中には走れるようにするけどどうする?」

 手を止めずに言う。

「俺的には自分で乗って違いを実感しないとあんたも職人に同程度のものを作れって言いにくいだろ?」

「それなんだが、今日は僕に付き合え。工房の見学ができるよう父に手配してもらった。君が興味を示した織り機の製造現場も見れるぞ」

「ほんとか? じゃあ、バイクは明日以降に延期だな。どうすりゃいい?」

 珍しく彼の提案に乗り気である。

「でな、よかったら君の車に乗せてもらってもいいかい? どういうものか味わってみたい」

「おう、構わないぜ。それほど特別なもんじゃない。なんせ、試作品だからな。今は実用で耐久テスト中だ」

「あれで製品じゃないっていうのかい?」


 ペンセにしてみれば、見事な仕上がりにしか見えない。金属ボディにガラスの窓まで付いて、雨どころか嵐の中でさえ平気そうな代物である。しかも、夜も走れるメタルライトも標準装備されている。職人界隈でも急に話題になった照明器具が贅沢に使われていた。


「助手席に乗ってナビ……、道を教えてくれ」

 ドライバーシートの横を示す。

「ルキとランゼは今日は後ろな」

「はい、大人しくしてます」

「ロナとルーザも行くよ」

 声掛けすると小妖精(リトルエルフィン)も車内に収まる。

「出すぞ」

「ああ」

「ゆっくりでいいからな、ルキ」


 後部のパワーユニットが唸りというより風が窓を叩くような音を立てる。静かなものから大きなものに変わると、マサキがクロスカントリー車と呼んでいる車体がぬるりと走りだした。既存の車にありがちな、尖った加速がなくて驚く。


「こんなにスムースなのか」

 窓を閉めていれば外の音が入りにくく、景色だけが動きだしたように思えた。

「動力伝達にまだ不満点があってな、次からはもっとパワーを持たせられる機構に改善しようと思ってる。だから、加速は今ひとつなのさ」

「十分じゃないか。それに、この揺れのなさはなんだ?」

「緩衝機構はそれなりに仕事してくれてんな。合格点と言っていいんじゃね?」

 理想が高すぎて呆れる。


 どういう育ちをすればこんなふうになるのか、ペンセは想像もできなかった。

次回『飄々とした男(3)』 「俺のことをなんだと思ってる?」

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