袖触れ合うも(2)
「こんな偶然もあるものなんだな。まさか、バイクが故障したところで修理できる細工職人に出会えるなんて」
青年は正輝との出会いに感動している。
「半端者だけどさ。このとおり、俺自身は加工できるだけの魔法力がない。だから、妹たちに手伝ってもらわないとなにもできない。持ってるのは、どういう物を作ればいいって知識だけだ」
「それで十分じゃないか。生計を立てて、しかも、自分でバイクまで作れるんだ。立派だと思うよ」
「こんなのは図面があればなんとかなるもんさ。そこからアレンジするとなると少々発想力がいるけど」
手持ちのニッケル鉄に流体金属を流し込む。エメルキアとイメージ共有しながら目的のパーツを作りだした。
「すごいな。ああ、しまった。名乗るのが遅れてすまない。僕はペンセ・クルカイゼン、家はこの先のオリネキの都で商家をやってる」
「俺は正輝だ」
自己紹介されては返さないのも変なのでエメルキアとランゼッタも紹介する。
「どこかに工房を持ってるのかい?」
「いや、流しだ。旅暮らししながら適当に稼いでる」
「そうなんだ。そのわりにいい腕だと思うんだけど」
らしいことを言う。
「わかるのか?」
「うちも機械ものを扱ってるんでね。僕自身は経営の勉強しかしてないが、職人の働いてるところは幼い頃から見てるからそれなりに」
「そういうことか」
シャフトにハンマーロータリーをはめて留め金を打ち込む。元に戻して、歯車を噛み合わせれば修理は終わり。あとはカバーを閉めるだけである。
「流れるように作業してる。機械ものの扱いに慣れてる証拠」
ペンセは感心している。
「グリスも付けといてやる。追加料金な」
「流しだけあって、きっちりしてるね」
「じゃないと、商売上がったりだ。よし、できたぞ。これで走る」
カバーを閉めて指で小突いた。
「締めて3000ディムにしといてやる」
「よかった。手持ちで足りたよ。でも、マサキ、うちに来ないか?」
「ああ、なんで?」
おかしなことを言いだした。お坊ちゃんの気まぐれに付き合うのは御免被りたい。しかし、悪くない話だと思う。
(行き当たりばったりで教会襲撃してたら待ち伏せ喰らったもんな。これからは偵察してからにしようと思ってたところ。こいつの誘いに乗ったら、疑われることなく都市に溶け込めるか?)
計算が働く。
「このバイクをちゃんとしたものにしたいんだ。そうしたら、うちの職人も参考にできる。全体を見てくれるなら、もちろん対価は払うよ?」
もっともな理由だった。
「なるほどな。パーツの製造ミスに気づいたから、俺の持ってる技術を吸収しようってんだな? 確かにあんたは経営者らしい」
「バレたか。でも、君にとってもいい稼ぎになるはずだけど? 結構な臨時収入になればね」
「一考の余地あるな。話はオリネキの都に入ってからにしないか?」
提案する。
「構わないよ。まずは、うちに客人として泊まってくれればいい。恩人として歓迎する」
「俺のは商売だぜ?」
「僕が流体金属の相場を知らないとでも? 決してぼったくりな価格設定じゃなかったよ」
単なるお坊ちゃんじゃないらしい。それなりの目算あっての提案だった。居心地の悪い思いはしないでよさそうである。
「じゃあ、ゆっくり行こうぜ。さっきみたいに飛ばすな」
エメルキアをバイクに乗せる。
「わかった。気をつける。僕もバイクで伴走するのなんて初めてだから」
「慣れたほうがいい。これから増やすつもりなんだろ? まあまあ乗れてる感じだったけどさ」
「ありがたい評価だね」
ペンセの家はどうやら機械ものを扱う商家で、工房を設けて職人を雇っていると目星をつけた。それなら彼も目立たず馴染めるはずだ。
「見えてきたよ」
「っと、こいつは思ったより大都市だった」
「初めてだったのかい。オリネキの都へようこそ」
麦畑を抜けると、見渡すかぎりの街壁が続いている。正輝の感覚で中の人口を言い当てるのは無理だが、万人単位なのは間違いない規模だった。
ペンセは街門を顔パスで通してもらっている。それなりに有力者の家の生まれだとわかる。話を通してもらうも、門衛は彼の職人ギルドの証票を確認しないと通してくれなかった。
「それなりに警備はしっかりしてる。上手い潜り込み方ができたな」
「撤収離脱のことも考えなくてはなりませんよ?」
「だな。ちょっと時間を掛けて挑もうじゃん」
内緒話で段取りをつける。
大通りを中心付近へと向かう。露店の並ぶ下町から、外観の整えられた家々が並ぶブロックを抜けてさらに奥へ。立派な門構えの邸宅へと案内された。
「マジで?」
「とってもお金持ちの家でした」
少女と目を合わせる。
「ここが僕の家、クルカイゼン家の屋敷だ。客人用の離れを使ってくれていい。父には話を通しておくから」
「ありがたく厄介になろう」
「じゃあ、僕は父と話してくるから、家人に案内させよう」
使用人、いわゆるメイドが出てきて丁寧にお辞儀をしてくる。案内に従って駐車をすると離れに連れていかれた。とはいえ、普通の一軒家より広そうな外観をしている。
「マサキ、正解です」
「なんでバスタブ見て瞳を輝かせてるんですか、ルキさん?」
先が思いやられると感じた正輝であった。
次回『袖触れ合うも(3)』 「俺たちはあそこの客だ。こう見えても職人なのさ」




