袖触れ合うも(1)
準備を整えて再びコタカッタ王国西側に進出した正輝たち。当面は様子見なので、街道をゆっくりと走っていた。
「あー、極楽」
「気持ちよくて眠くなるー」
ロナタルテとティナレルザがクロスカントリー車の運転席横で大の字に寝転んでいる。直径30cmの円筒筐体の上は二人の小妖精で占められていた。
「おい、そのパワーポッドはランゼのために付けたもんなんだぞ?」
並走しつつ注意を与える。
「間違っても二人の寝床に作ったんじゃない」
「でも、居心地よくてー」
「あのな、それに俺の精気を充填してあるのは、ランゼが緊急時に何時間でも車を全速力で走らせつづけるためのもの。ロナたちのオヤツ供給器じゃない」
運転席の横に取り付けたのは中空の円筒の缶のようなもの。素材が流体金属含有率高めにしてあるだけで、頂点にガラス窓がある以外特に細工もしてない。スピリットシャフトに着想を得た新パーツである。
ただ、誰かが身体をぶつけて怪我をしてはいけないので、上の面は角を取り丸みを帯びさせてある。ちょうど具合が良いらしく、二人の小妖精の憩いの場になってしまっていた。
「仕方ないなあ」
「あきらめてくださいな。わたしがバイクの前シートを譲りたがらないのと同じ心理です。全部吸い取ろうとか思ってませんから」
「よくわからん心理だ」
いつも潤沢な精気が身近にあるのは彼女たち妖精種を安心させるという。正輝の感性でいくと、部屋の冷蔵庫にたっぷりの豪華食材が詰まってるのと同じだと理解することにした。
「でも、次の休憩でランゼと交代な」
エメルキアは決めないといつまでも居座る。
「えー」
「ルキも車の運転に慣れてくれないと、もしものときに不安になる。今のところ、そっち方面はランゼが何歩もリードしてるぜ?」
「……頑張ります」
不服そうに言う。
「いや、横にパワーポッド置いたんだから、前シートとどれだけ違うって……、おお」
「あ、バイクですね」
街道をゆったりと走る二台の横を結構なスピードですり抜けていった。それが、なんとバイクだったのである。一般流通品を見たのは初めてかもしれない。
「やれやれ、イキってんな。あんなに飛ばして」
あっという間に見えなくなる。
「でも、普通の車に比べたらわたしたちもかなり速いはずですけど」
「おう、倍までいかないけどさ」
クロカン車に合わせてゆとりを持ったレベルなので40km/hくらいの安定したスピードで走っている。それでも、一般に流通する木製車の30km/h足らずに比べると速い。街道で何度も抜かしていた。
「ありゃ、停まってんじゃん」
しばらく走ると先ほどのバイクが街道脇に停まって運転者がへたり込んでいる。
「壊れたんでしょうか?」
「そうっぽいな。おい、どうした?」
「え、君は? あー、さっき抜かした」
青年は思いだしたようである。さすがに同じバイクなので記憶に残っていたのだろう。
「故障か?」
「たぶん。よくわからない」
青年はまいっている様子。
「押して帰ろうにもめっちゃ重くて、どうしようか悩んでたところ。この先の都まで乗せてってくれないか?」
「まあ、待て。俺が見てやろう」
「え、直せるのかい?」
スタンドを立てて青年のバイクのパワーユニットを覗き込む。パッと見ただけで壊れているのが一目瞭然である。
「こいつはハンマーロータリーが折れてる。それで走らないのさ」
指さしてみせた。
「まさか、直せたりする?」
「直してやらんこともない。ただし、金は取る」
「もちろんだ。ちゃんと払うから修理してくれないか?」
身なりがきちんとしている。見るからに金持ちのお坊ちゃんっぽい。払わずに逃げたりはしなさそうである。
「しゃーない。これも縁だろ」
正輝とて、ただの一般人に敵意は抱かない。
「助かるよ」
「それなりに時間は掛かるぜ?」
「当然」
出来を調べ、エメルキアに流体金属で工具を作ってもらう。カバーを開けると、ハンマー部の折れたロータリー、彼のバイクでいえばプロペラに該当するパーツが破損していた。
「なんだ、こりゃ。こんな核心パーツを安物の金属で作りやがって。こんなん走らせてたら折れるに決まってんじゃん」
破断面を見ただけでわかる。
「詳しいな。それに、君のバイクもすごく格好いい」
「だろ?」
「かなり高かったんじゃないか? 僕のだって結構奮発したのに」
彼のバイクを眺めている。
「違うな。こいつは俺のお手製さ。実は細工職人なんだ」
「本当か? なんて運のいい」
「そうだぜ」
シャフトからロータリーパーツを外す。ずっしりと重いわりに破断面は荒い。おそらく鋳造パーツだろう。
「強度がわかってない職人が作ったんだな。ここ、手抜きしたら駄目じゃん」
青年は専門的な話に目を丸くしている。
「これを修理しても無駄。パーツごと取り替えないと無理だ」
「そうなのか。せめて応急処置だけでも」
「いーや、素材はある。作ってやれるが高くつくぜ?」
表情が明るくなる。
「やってくれるかい? もし、足りなかったら家に帰ってからでも払うから」
「いいだろう。今度は壊れない強度のものに変えてやる。ただし、それ以外の部分が壊れない保証はない」
「わかった。帰れるなら文句は言わないから」
正輝は乗りかかった船と修理を始めた。
次回『袖触れ合うも(2)』 「どこかに工房を持ってるのかい?」




