正輝、アウトバースト(5)
里に戻った正輝は、まず小さめの耕運機を作った。耕運用の回転する歯の後ろにキャスターも付いていて、手で支えていれば勝手に掘り返しながら進んでいってくれるもの。畑を広げるのに、テアクルセたち少女にクワを持たせるのは忍びない。
「すっごく楽。これなら畑をもっと大きくしてもいいわ」
「だろ、トーレス? 無理は言わないから世話できる程度にやってみるといい。しばらくは麦粉もちゃんと買ってくるからさ」
次に教えたのは、植物油から生地を作る方法。里全体となると持ち帰った樽だけでは賄えないので、小妖精たちに森から種という種を集めてきてもらうことにする。
「ナッツや脂肪分の多い果実から油を搾るのですね。手は足りているので難しくありません」
「これで、自前の生地で服を作れる。ポリエステル生地とかも作れるから、加工が楽でファッショナブルな服とかも大丈夫だぞ? いろいろ試してみるといい」
「はい。染料とかにも凝ってみたいですね」
油の取れやすい作物の畑も新たに設けたいとテアクルセは言う。できることが増えれば、かなりの部分が自給自足できて生活も豊かになるはずだと思っているようだ。
「とりあえず、小妖精たちの服をなんとかしてやってくれ。かなりアバウトなの混じってるぜ?」
「そうですね。あれは下着同然なのでちょっと気になってました」
「もっと、気にして」
それからは、新たな計画のほうに着手する。西側への連絡路という大事業になるが、今後の要にもなる大切な方策だ。
「まずはバイクでルート策定をしよう」
ロナタルテとティナレルザをリーダーに、小妖精観測隊を結成する。
「上から見て、川とか滝とか崖とかあったらアウトな。さすがに橋を架けたりトンネル工事までは手が出ない」
「りょーかーい」
「なにか見つけたら、私のところに来て報告ね」
先にバイクで通れないところがわかるのはありがたい。それでも大きく迂回する必要があるようでは困る。進んだルートを戻ってから、方向を変えてまた進むという作業は不可欠だった。
「また崖か。川は早めにわかるからいいけど崖はどうにもならない」
地図に書き記して迂回するか戻るか決める。
「川は給水ポイントとして近くを通したほうが良いのではないですか?」
「一理あるな。じゃあ、この川向きにルートを変えてみるか」
「水浴びもできるからいい」
「水浴び? ルキ、まさか脱衣タイミングを狙ってないよな?」
少女は舌を出している。
さまざま、不穏な意見も混じえつつ計画を進めていく。皆で毛布にくるまって寝るのも最初の頃を思いだして懐かしく感じた。トカゲ肉三昧なのは玉に瑕だが。
「あれか」
木立が途切れる。
「みんなが教えてくれてたからわかっていたとはいえ、ちょっと感動ものだな」
「晴れて西側に出られました。問題はこの出口をどう偽装するかですけど」
「ああ、それなら心配ない。里に繋がる川の途中からルート選びに入ったろ? 仮にここを見つけて新しい道だと思った人間は、突き当たったところから川下に進んで東に抜ける。わざわざ、川上に向かう酔狂者は少ないだろうし、禁域結界であそこに里があるとはわからない」
検討してあった。最も注意すべきは里の存在を知られないことで、きちんと迷彩を掛けたルート策定を心がけたつもりだ。
「マサキ、頭いいー」
「ふふーん」
隠そうとしても道は目立ってしまう。ならば、誰かが開拓したルートだと思わせたほうがいい。わざわざ誰が作ったかなんて追及する者はいまい。
「さて、来た道を戻るか。これからが難事業だもんな」
それからが大変だった。毎日、変身してはサイコブレードで木を倒す。道幅を確保したら、木を切り分けて近くに積んでおく。そのうち乾燥したら薪に使えるが、ずっと先のことだ。
「おお、木を切るの飽きてきた」
(ですが、切るしかありません)
(たまには抜いてみる?)
デュアルビルドのパワーフォームは土木作業向きであった。結構な大樹を一人で抱えあげられるのはいいが、どこまでも単純作業である。
「無茶言うな。切り株抜くだけでも面倒なのに」
(でも、抜いとかないとまた生えてくる)
念動力で振動させつつ切り株を持ちあげる。抜けた株は手作業で除去していた。夕方には泥だらけのライダーである。
「最近、作業ライダーが気にならなくなってきたのに涙がこぼれそう」
(よしよし、今夜はトーレスが燻製魚を届けてくれることになってますから)
(頑張って)
開通したところまでクロカン車で乗り入れられるようになったのはいいが、やはり毎日里まで戻るのは面倒だ。いつもは小妖精が食事の籠をぶら下げて飛んできてくれるが、今日はピトレスカがバイクに乗ってきてくれるという。
「お疲れさま、マサキ様」
「やあ、泥まみれの装鎧戦士だよ」
「冗談言えるくらいに悟りきってきちゃったのね」
少女の呆れ顔で余計に悲しくなってしまう。
そんな作業に一ヶ月を費やして森林帯を西へ抜ける連絡路が完成した。その間、教団や王国が彼の襲撃に戦々恐々としていたのなど知ったことではない。本人はほとぼりを冷ますにはいい期間だったくらいに思っている。
正輝はしばらく土木作業は遠慮したいと心から思ったのであった。
次はエピソード『偏屈な細工職人』『袖触れ合うも(1)』 「やれやれ、イキってんな。あんなに飛ばして」




