正輝、アウトバースト(4)
「いやー、ほんと際どかったよな。仮に、教団戦士の中にこの前の女戦士とか同クラスの強者が混じってたらアウトだった」
正輝は実感する。
「彼女ですか。でしたら、可能性は低いと思います」
「なんで?」
「おそらく、コタカッタ支庁の戦士ではないでしょう。そうなら、ずっと追いまわされているはずです。それに、なんと説明したものか、ちょっと異質な感じがして」
エメルキアの言葉には彼も賛同する。どうにもタイプが違いすぎる。そもそも、彼女ほどの実力者が管轄内で動くならば部下を引き連れていることだろう。明らかに単独で活動している感があった。
「変わった人?」
早々に逃げだしていたランゼッタは彼女を知らない。
「ええ、強いのもそうですが、それ以上に妙な感じが」
「まあ、いい。突っ掛かってこないのならそれに越したことはない」
「ぼくがいても勝てない?」
少女は面白くなさげである。
「正直に言って、変身時のポテンシャルだけなら上まわってた。デュアルビルドならなおさら。ただし、彼女は相手を死傷させる戦い方に慣れてるって感じた。その分でリードを消されて五分に持ち込まれてる。勝ち負けは時の運なほど」
「実際に戦ったマサキが言うのならそうなのでしょう」
「スペックだけで勝ちに持っていけないの悔しい」
ランゼッタ的には自分が加わればもう万全と思いたいのだろう。しかし、勝負事とはそれほど単純ではない。さまざまな要素が影響を与える。
「でも、教団が装鎧戦士をフリーに使ってるとか聞いたことないわ」
ティナレルザは不審げだ。
「いろいろ試してんじゃないか? あそこはとにかく装鎧少女や装鎧戦士の戦闘力を上げるのに熱心なんだろ?」
「ええ、信者の信頼を得るには絶対の守護者でなくてはならないと自負しています。それがさまざまな試みを重ねている要因なのですから」
「権威を失いたくなきゃ強者であれ、か。とんでもない教義だな」
内部的なものだとしても。
「あなたたちはなにか知らない?」
「知らない。装着者に縛られてただけで」
「そうよね」
今は東側に抜けて、里に繋がる川筋を遡っているところ。首を絞められたりして痛めつけられていた子もやっと復調してきていた。
教団出身の元装鎧少女なので事情に通じているかとティナレルザが訊いたのだが首を振るばかり。内部情報に触れられるほど上のクラスの戦士は混ざっていなかったらしい。
「もう、あんまり難しいこと考えなくていいからな。これからはゆったりと暮らすといい」
彼はその子を撫でる。
「マサキみたいな人がいるの今でも信じられない。好き」
「俺にくっついてても、今回みたいな殺伐とした事態に巻き込まれるだけ。里には友達がたんまりいるから暇はしないさ」
「でもー」
懐いてくれるのは嬉しい。
このときの正輝は、里が自分の言葉以上の状態になっているのを知らない。すぐにそれに直面することになった。
「お帰りなさいませ」
「ただい……、わっぷ!」
小妖精が塊になって突進してきた。正面からそれを浴びた彼は、テアクルセの挨拶にも応じるのさえ叶わない状態。
「マサキ様だー!」
「こらこら、いけませんよ。マサキ様はお疲れです。休ませて差しあげてください」
「でも、マサキ様の精気が恋しい」
たかってきた原因はそれらしい。一度味わうと忘れられない味があるという。
「待て待て、どうにかするからちょっと通してくれ。出てる間に考えてたんだ」
正輝は大量の小妖精を引き連れて里の中心に向かう。
「どうするの?」
「こうするのさ」
「わあ!」
スピリットシャフトに触れると、一気に精気を流し込む。すると、残量計測用のガラス窓どころか、シャフト全体がまばゆいほどに輝いた。
「充填したぞ。これでよくないか?」
湧いてくる精気を貯められるなら、彼の精気だって貯められるはずだと思っていた。
「ああ、マサキ様の精気よ」
「これこそ至高の……」
「堪んない」
引き連れてきた小妖精をシャフトに押し付けてようやく解放される。これで、しばらくは自由の身でいられそうだ。
(こりゃ、いる間は毎日充填するしかないな)
習慣化するしかなさそうだ。
「おう、生え揃ってきてんじゃん」
大した面積ではないが畑ができている。
「送ってもらった麦の種籾がちゃんと芽生えてくれました。お世話するのも楽しみになっています」
「こういうのも悪くないなって。目標があると生活に張りがあるから」
「そりゃよかった。作業を押し付けたみたいになって、トーレスとか文句言われるかと思ってた」
テアクルセもピトレスカも日々の変化を楽しんでくれているようで幸いだ。それ以上に、小妖精人口がとんでもないことになってしまっている。今はスピリットシャフトに集中しているが、それでも行き場に余ってそこら中を飛んでいる有様。
「すごいことになったな。ちゃんとまわってる?」
栄養が行き渡っているか不安になるほど。
「以前でしたらもう破綻してました。でも、シャフトがあるので飢えることはもうないです。ちゃんと分け合うよう言い含めてありますので」
「助け合って生きてるから心配しないで。みんな、ここの重要性をきちんと理解して生活してるから」
「そうか。それなら安心だ」
円満にまわっている妖精種の里に正輝は満足した。
次回『正輝、アウトバースト(5)』 「もっと、気にして」




