正輝、アウトバースト(2)
魔公ウズナル・トリクタンは顎が落ちたかと思った。
完璧に包囲して弱らせるだけと思っていた謎の装鎧戦士が、金属製の車から新たな装鎧少女を引っ張りだしたかと思うと新たに装着してしまう。まさか、相手が二重装着者だとは聞いてなかった。
「ば……かな。そんなことが、あり得るのか?」
多重装着者となるとコタカッタでは歴史上の人物である。現在は存在せず、彼も記録でしか見たことがない。北西の装鎧戦士先進国には多重装着者がいると聞くが、少なくともウズナルが初見であるのは間違いない。
その歴史上の人物も活動期間は決して長くはない。最終的には装鎧少女の自我侵食に耐えられずに精神崩壊を起こして表舞台からは消えていた。
「信じられん。装鎧少女を変えただけ……、いや、比較にならない性能を発揮している」
三人ほど残っていた教団戦士が今、一人残らず倒された。装鎧少女を剥ぎ取られて戦闘不能の再起不能にされている。前衛戦力は壊滅した。
「ど、どうなさいます、閣下?」
彼の乗る車の運転者が訊いてくる。
「ひ、貴様ら、一斉攻撃! 全力だ! 絶対に近づけさせるな!」
他の車の魔法師に命じる。唖然としていた魔法師たちも慌てて土錐の生成に掛かっていた。
「おい、車を出せ」
「逃げるんですかい?」
「当たり前だ。あれにどうやって抵抗するっていう?」
ウズナルは彼の車だけを発進させようとしていた。
◇ ◇ ◇
教団戦士を片づけた正輝は魔法師の車列に向かって走りはじめる。ただし、そのスピードは今までとは段違いだ。まさに、飛ぶように駆けている。
「マーズい、ヤバい。足が絡まらないのが不思議なくらいだ」
(わたしたちで補助はしてますので)
(速い速い。もしかしたらバイクより速いかも)
「バイクの存在意義を奪うな。ライダーの魂をー」
(でも、事実は事実ですし)
(体力使わないですむ乗り物かな)
ランゼッタのわずかなフォローが入る。
瞬く間に車列が近づいてくる。もちろん、魔法師たちも手をこまねいているわけもない。大量の土錐が生成されると、雨あられと浴びせ掛けられてくる。
サイズ的に大したことないので、平手で払っただけで粉々に砕ける。サイコブラストで弾くまでもなく距離を詰めていく。焦りもあろう、照準も余計にアバウトになっていった。
「えーっと、どうしよ。とりあえずヒートミサイル?」
「ぎゃあー!」
ピントが合う距離まできたので一台を下から吹き飛ばした。もう一台は肩から体当りすると、横転してごろごろと転がっていく。最後の一台にパンチをくり出すと、バラバラに粉砕してしまった。車の成れの果てと一緒に魔法師も飛散してしまう。
(一台逃げています)
エメルキアが教えてくれる。
「ってことは、あれに親玉が乗ってやがるな?」
(違いないかも)
「往生際が悪いやつだな。自分から仕掛けてきておいてさ」
(潰しとくにかぎるかも)
「ランゼさんまで。もしかして、変身すると過激になるやつ?」
正輝が感じている万能感が少女たちにも影響しているのだろうか。だとすれば、あまり褒められたものではない。彼自身の自制が重要になってくる。
しかし、かなり苦しめられた相手であることを思えば、多少の恨みは仕方ない。代行者として制裁しておかねばなるまい。
「おい、あんたが魔公ってやつか?」
追いついて荷台の端を掴んで止まると車もその場でスピンした。
「答えろ。それとも、今日出会ったやつは全員俺の言うこと聞こえないってのか?」
「黙れ、下郎! どこの誰ともしらん、はぐれものの装鎧戦士が、この私に楯突くか!」
「いや、襲ってきたのあんたじゃん。なに抜かしてくれてんの?」
なにもなければやり過ごすつもりだったのをあぶり出されたのである。今さら被害者ぶられても白けるだけだ。
「何者?」
「私こそコタカッタ王国魔公ウズナル・トリクタンなるぞ。わかったなら黙って行かせろ。邪魔をするな」
「邪魔するなってのはこっちの台詞なんだよ。ったく。まだ、王国相手には仕掛けてないんだぜ? いつも、撃退してるだけ。それとも、戦公ウフルバのやつ、俺を倒せって騒いでんの?」
それ以外に接点がない。本当なら情報撹乱くらいは王国側にも仕掛けたいのだが、端緒も掴めず進んでいないのが現状なのだ。
「ウフルバ! あんなのが王城ででかい顔をしているから私がこんなとこまで出てこねばならなかった。やつもやつなら、貴様も貴様だ」
「それって逆恨みじゃね? 俺、関係ないのに当て馬にされてんの? 堪ったもんじゃないんだけど」
「黙れ! 貴様はさっさと戦公どもに討たれろ。いや、討たれるな。奴らにこれ以上手柄を立てさせては敵わん」
「もう支離滅裂だな。錯乱してんじゃん」
話しているだけ馬鹿らしくなってきた。さすがに精神的にも肉体的にもやや疲れを感じはじめている。
「放りだすか」
(やっちゃえ)
(フォローの余地さえありません)
「じゃ、運がよかったら命くらい助かるだろ。じゃあな」
「よせやめろー!」
小さめだった車を掴んで放り投げた。数十m先まで飛んで地面で粉々になっている。確認もせずに踵を返す。
正輝はバイクのところまで走って戻らないといけないと気づき、うんざりした。
次回『正輝、アウトバースト(3)』 「ほんとはちゃんとお願いしなくちゃならなかった」




