魔公接近(5)
「うおおお!」
大上段に剣を振りかぶった教団戦士が迫る。振りおろされた斬撃を半身で躱し、左の裏拳を飛ばす。顔面を痛打された戦士はたたらを踏んでいるが構っている暇はない。
後ろから斬り掛かってくる戦士の踏み込み足の膝にカウンターで踵を合わせる。踏み込めなかった相手が前のめりになったところをローキックで胸を打ち、弾き飛ばした。横ざまの斬り落としを手刀で薙いで逸らし、前体重の戦士の顎を肘で弾くと崩れ落ちる。
(サイコブレードなんて使ってる場合じゃない。切り結んだら最後、後ろから斬られるだけ。四肢を十全に使える状態じゃないと畳み掛けられる)
意識する間もなく次々と打ち倒していく。仮にサイコブレードで斬り伏せて、変身を解かれた生身の人間が足元にいようものなら、つまづいて最悪の事態になりかねない。今は、ダメージを与えて態勢を立て直させたほうがよほど有利に働く。
「サイコブラスト!」
使えるとすればこれくらい。
殺到する敵を弾き飛ばし、正輝自身が体勢を整えるのに時間を使う。突き放す念動力の効果が切れたら再び敵の攻撃が始まり、パンチやキックをくり出して下がらせる。
相手が装鎧戦士でなければそれだけであしらえたのだろうが、いかんせん全員が教団戦士である。王国戦士に勝るとも劣らないほど洗練されたプロテクタが彼らの身体をダメージから守っていた。
(このままじゃイタチごっこ。どこかで切り替えなきゃなんないが、見極めを間違えるとヤバいな)
表面上、プロテクタが破損したり罅が入ったりはしないが、痛みや衝撃は中身の人間の体力を奪っていく。動きが鈍くなったところを狙って一撃のもとに斬り伏せてしまうのが正解である。逆にいえば、元気なうちは手が出しにくい。
(それだけじゃなくて、だな)
魔公の攻撃も警戒せねばならない。誰かが指揮をしているのか、一時退避するので察知はしやすいが、その時点で回避不能なところまで念動攻撃が届いているのが痛い。
「ルーザ、ランゼ、誰でもいい。車列から魔法を打ってきそうな気配があったら教えてくれるか?」
「わかってる。見てるけど、溜め作られてて難しいわ」
「土錐作って浮かしてるだけなの」
タイミングを見計らっているらしい。その間も当然精気の消費をしているだろうが、畳み掛けて教団戦士の邪魔になるより好機を狙う作戦らしく、土錐を装填だけして発射してこない様子。
「削りにきてくれるよな。魔公ってのはずる賢いやつっぽい」
(力で装鎧戦士に劣ります。なので、工夫を重ねて戦ってきてますので)
「そうか、魔法師も戦争経験ありか。ったく、厄介な」
戦い慣れた人間ほど面倒な相手はいない。例えば空手でも、とてつもない才能を持つ新星が現れるときがある。しかし、鋭くキレのある攻撃をくり出してくるかと思えば、拍子抜けするほどあっさりと隙を見せてきたりもする。経験値というのはさほど作用するものなのだ。
「来るわ!」
「はいよ!」
ワンテンポ遅れて教団戦士が引いていく。もし、それを見て動いていればこちらも対処が遅れる。察知してれば早めの準備ができる。
正輝は周囲の空気を使ってエアショットを編む。高圧空気の塊だ。重さがない分制御しやすい。上空より降ってくる土錐に次々と直撃させて弾き、抜けてきた分をサイコブラストではじいてしのいだ。
「もつの?」
「心配すんな。まだまだ余裕ある。次も頼む」
正直、精気を利用した念動力を用いるほうが楽なのである。やはり、身体を動かすほうがスタミナを消費し、徐々に疲労が蓄積してくる。
それは敵戦士にしても同じことなので、相手のスタミナ切れを狙っているのだがなかなかである。素人ではないので、相当鍛えてあると見えた。
「それでもな!」
打撃を当てているうちに動きの鈍りは感じられてきた。徐々に連携も悪くなってきている。一歩目の遅れが目立ってきている所為だ。
「ここいらか。サイコブレード」
右手に念動剣を生みだし構える。突っ掛かってきた戦士の剣を躱しざまに薙いで突き放す。力尽きて、近くに寝転がられても邪魔で仕方ない。
横薙ぎにきた斬撃を左手の手刀で落とし、右手のサイコブレードで袈裟斬りにする。蹴りつけて飛ばした。なんの気なしの一連の動作である。
「なに?」
ところが、それからの戦士の行動が彼を愕然とさせた。
「この役立たずめ」
「ぎゃん!」
斬られて倒れた戦士が苦しみながらも半身を起こし、拾った石を自らの装鎧少女に投げつけたのである。彼が負った致命傷を癒やして、存在力を放出して小妖精に戻ってしまった彼女に向けてである。
「お前の力が強ければ負けることもなかったものを」
「あうぅ」
落ちてきた小妖精の首を掴んで締めている。信じられない光景に体が震えた。くらくらする頭を奮い立たせ、その戦士を踏みつける。
「お前こそなにやってる」
「うぐあ」
「なにやってるって聞いてんだぁー!」
踏み潰すとボキボキと肋が折れる感触。取り落とした小妖精を落ちる前に左手で受け止め、右手で元戦士を吊りあげる。
「おい、聞いてんだ。答えろよ?」
「お、ぐ、あ」
「お前が苦しんでるのと同じくらいこの子も苦しかったんだ。それもわからないのか!」
脛骨がみしみしと鳴っている。それでも放さないで締めつけていると、ボキリと音がして元戦士は痙攣をはじめた。荒くなった息が収まらない。車の中に小妖精を収容すると車内を一瞥した。
「ランゼ、来い」
「うん、待ってた」
駆け寄ってくる少女と正輝は手を合わせた。
次回『正輝、アウトバースト』 「デュアルビルドぉ!」




