魔公接近(4)
魔公ウズナル・トリクタンは背中を汗で濡らしていた。まさか、件の装鎧戦士があの規模の魔法攻撃を放ってくるとは思っていなかったのである。迎撃はできたが、着弾していたらと思うと空恐ろしい。
(く、なかなかやるな)
悔し紛れに思う。
(いきなり最大火力を持ってくるとは戦術に長けているか。いや、ただの苦し紛れだろう。追い込まれて、切羽詰まっているということだな)
包囲網は完成している。後ろは教団戦士の群れ。近づいてくれば彼の魔法師団の手のうち。逃げ場所はない。
(もう詰んでいるぞ。さあ、私の手柄になれ)
ウズナルは気を取り直して装鎧戦士の動きを観察した。
◇ ◇ ◇
「よくないな。これじゃ魔法師の弾幕の中に突っ込む形になる」
正輝は苦い顔をする。
(迎撃はできなくもないでしょうがお勧めできません)
「でもな、後ろも教団戦士に喰らいつかれてる。ミスったか?」
(完全に敵の罠のうちかもしれませんね)
どちらが与しやすいかという話になる。できれば、どちらも遠慮したいところだが他にルートがない。
「バイクで走りトカゲを撹乱するのもありだけど、その間、ランゼに逃げまわってもらわないといけない。得策じゃないな」
(ランゼに任せるというのは?)
「お、車のルートに合わせて教団戦士を撹乱するか? 悪くない」
以前、戦公を討ったときのようにバイク相手の攪乱戦法とは違う。走りトカゲは乗り慣れているだけ小回りも利こう。数の多い相手に有効とはいえないが、足を止めて完全に包囲されるよりマシな選択肢と思えた。
「ランゼ、Uターンして適当な戦士のほうに突っ込め。それに合わせて倒してく」
作戦を伝える。
「ぼくが?」
「バイクの動きに合わせるほうが難しい。車主導でいく」
「ごめんなさい。足手まといになってる」
思ってたとおり、しょげてしまう。
「こういう場面は少なからず生まれる。それは覚悟のうえだ。それよりも、ランゼがいることのメリットのほうが大きい。思いきって行ってくれたほうが俺はやりやすいから頼む」
「わかった」
「遠慮するな。どれだけ丈夫に作ったかはランゼもよく知ってるだろ? ぶち当ててけ」
車体の重さを幾分か度外視して丈夫に作っている。河原や悪路を走らせることを前提にした仕様だったが、戦闘にも役立ってくれそうだ。
(これで悪循環から逃れられるか?)
(一番勝機のある作戦です)
ランゼッタに不安を聞かせるわけにはいかない。勝負どころで尻込みされると、突破できるものもできなくなる。ここは前に出るところだ。
「行っけー」
ロナタルテの号令に乗せられて少女が車を突っ込ませる。
「くぅ、なんてことを!」
「気をつけろ。とんでもなく重そうだぞ」
「当たったら、ただじゃ済まないぜ?」
脅しを掛けつつ戦士を縫っていく。ただし、撃破できているのではない。敵も思い直して、剣を抜いて追いすがってくる。そして、前方には次の戦士団が迫ってもくる。
(詰められるだけか)
(これ以上は致し方ないことでしょう)
(今度はランゼの気力がどこまでもってくれるかになっちまうな)
同じことをくり返しているうちに、教団戦士に取り囲まれる格好になってしまった。しかし、車・バイクともに動いているうちは状況の悪化はない。撹乱はできているからだ。
「なんだ?」
(急にどうしたのでしょう?)
教団戦士たちが急に離れて輪を作った。見まわすも、仕掛けてくる気配はない。怪訝に思っていると車から警告が走った。
「マサキ、上!」
「なんだって、ルーザ? ……げ!」
上空から土錐のとんでもない群れが落ちてくるところだった。彼らを含めた輪の中にと雨のように弾幕が降ってくる。
「頭低くしてろ!」
彼はバイクを停めて片足を着く。
「サイコブラストぉ!」
(それだけでは防ぎきれません!)
「連射ぁー!」
幾重にも重ね掛けでサイコブラストを放つ。土錐の群れは先頭集団から粉砕され、波状に到達するサイコブラストで順々に破壊されていった。どうにか、浴びせられるのは回避する。
「やられた」
見れば、魔公の車列が射程圏内にまで距離を縮めている。彼らが教団戦士に取り囲まれてスピードを出せないうちに詰められていたのだ。
「んで、こっちはもう足を止められちったな。正面から相手しろってか?」
教団戦士たちも走りトカゲから降りて駆け寄ってくる。剣での戦闘では、そのほうが好都合だからだ。バイクなら加速が間に合うが車はそうもいかない。ランゼッタたちを置いていくわけにもいかず、そこで迎撃するしかなかった。
「上等じゃないか。魔法攻撃を防ぎつつ、教団の装鎧戦士も倒せ? こうなったらやってやるぜ!」
(マサキ、無理は。わたしも脱出法を考えますから)
「悪いが、俺のほうはそんな余裕ない。任せた」
バイクのスタンドを立てて降り立つ。車をセンターにおいて足を止めた戦いをするしかない。これまで経験した戦闘の中ではもっとも窮地に置かれたと言っても過言ではないだろう。拳を握り直すと、打ちつけて威圧する。
正輝は空手の息吹を使いつつ、駆けてくる装鎧戦士を迎え撃った。
次回『魔公接近(5)』 「削りにきてくれるよな。魔公ってのはずる賢いやつっぽい」




