魔公接近(3)
戻ってきた小妖精の報告を聞いて魔公ウズナル・トリクタンはほくそ笑む。予想どおり、謎の装鎧戦士は教団の戦士団に対して小妖精の偵察を放ち、彼の偵察がその姿を捕捉して居場所を突き止めた。
(これで教団に恩を売れる。戦闘を補助すれば貸しも作れる。一石二鳥なうえに件の装鎧戦士を撃破できれば、偉そうにしている戦公連中を見返せる。しかも、私への陛下の覚えもめでたくなろう)
得るものが大きい。
(教団戦士など、この程度の戦略を吹き込んでやっただけで簡単に踊ってくれる単純なやつらだ。すべて、私の思いどおりに進む。笑いが止まらんぞ)
軍略というものに通じてない教団戦士に陽動展開を教えたのも彼だ。戦士たちは敵の目を誤らせる戦略を授けられて感謝したうえに、彼の都合のいいように立ちまわってくれる。これ以上にない手駒だった。
(こんなにも優秀な頭脳を持っているのに、装鎧戦士の適性がなかっただけで王国内では不遇を囲うしかない。なんて理不尽な世の中だ。それを、私がひっくり返してやる。これを足掛かりに戦公どもを顎で使う立場まで駆けのぼってやろう)
ウズナルはニヤニヤと笑いながら次の報告を待った。
◇ ◇ ◇
正輝でも車列が見える位置まで距離を詰めてきた。ロナタルテの言ったとおり、車列がいるだけで走りトカゲの姿などは見えない。変わっている点といえば、車が比較的大きなものだというくらいか。
(もしかして?)
「ルキ、あれがなにかわかるのか?」
(考えにくいのですが、魔公のものかもしれません)
初めて出る単語が耳に入ってきた。彼はその意味を問う。
(以前同行した戦士団にも魔法専門の魔法師というのがいたでしょう? その元締めです)
「魔法師を統率しているってこと?」
(はい、本来は指導、育成した魔法師を抱え、戦士団の補助要員として派遣するのが魔公です。王国内では臣公、戦公と並ぶ地位を得ている公の一員となります)
正輝が思うところの王国内における貴族階級の一つだと理解した。臣公というのがいわゆる政治家で、国王の下で国政を取り仕切る。戦公は将軍であり、本人も最前線に立つ武人。魔公は魔法師を統括して各所に派遣、ときには遠距離攻撃の主力になることもあろうか。
「その魔公が、魔法師を引き連れているとはいえ単独で出張ってきた? よくわからないな。そもそも魔法能力ひとつ取っても、もしかしたら装鎧戦士のほうが高いんじゃね?」
(ですが、装鎧戦士になれる人材には限りがあります。対して、魔法師になるには魔法能力が高く生まれるだけでいいのです。なので数も多く、そして他の公に比べてお世辞にも重く用いられているともいえず)
「なるほど、それは面白くはないわけじゃん。まさか、俺をネタにして教団戦士を動かして漁夫の利を得る気か?」
(否めませんね)
小妖精を使っているのが魔公だとすれば辻褄が合う。不足に陥っている教団に変わって情報戦を制し、こちらを罠にはめに掛かってきたということ。
「ルーザ、もしかしてその子ら、魔公の差配か?」
車と並走して訊く。
「そうらしいわ。さっきも言ったって」
「おーい、ロナさーん?」
「言うの忘れてたー!」
舌を出している。
「だいたい読めた。戻ってこい。あれ、遠距離攻撃してくるぞ」
「あーい」
「車にな。ランゼ、まだいけるか?」
「余裕ある」
いつもならクロスカントリー車は逃がす場面。しかし、今回は周囲を巡回する戦士団に囲まれているばかりか、すでに捕捉されている。逃がそうとしても捕まってしまう可能性のほうが高い。
「車を背負って戦わないといけないか。なら、余計に魔公の車群を突破したいところ。できるか?」
(魔法力ではおそらくマサキが上ですけど、向こうは数を揃えております。そこはなんとも)
「まずは車を逃がしたいが、たぶんそれも読まれてるな。厄介なこった」
仕掛けていくのも一案だ。魔公なる人物が彼の魔法力を低めに見積もってくれていれば、車列を撃破してその向こうにある安全地帯へと車を逃がせられる。
「この距離じゃピントが合わないな。ヒートミサイルとかエアシュートは使えない。アイスミサイルなんて水がないから論外だ。すると、ソイルスピアしかないわけだが」
(狙いだけ正確なら届くでしょうが)
「やってみるか」
走るバイクの周囲の土をこそげ取って土錐を形成する。一定範囲内なら軌道修正もできるが、それを越えると方向転換はできない。狙い定めたほうに飛んでいくだけ。
四発のソイルスピアは狙い違わず車に着弾する軌道を取る。しかし、ある程度の距離で破裂してしまった。念動力で迎撃されてしまったのである。
「そう来るよなあ、あっちが魔法師ってことは」
(手数で負けます)
「一発、力押ししてみますかね」
念を凝らして地面から土を巻きあげる。螺旋を描く素材が土錐を形成し、徐々に大きくなっていく。全長で3mほどに成長したところで撃ちだした。
「行ってこーい」
放物線を描いた土錐が車のほうに向かう。あちらも多数の土錐を形成して迎撃に入った。無数の土錐をぶつけられ、ボリュームを失ったところで破裂させられる。
「うーん、わりと固いな」
(今のは精神的ダメージあったと思いますよ?)
正輝の攻撃のターンは不発に終わった。
次回『魔公接近(4)』 「ごめんなさい。足手まといになってる」




