思い深まり(3)
「目標は伸縮性のある生地。すごく伸び縮みするやつ」
正輝は方針を示す。
「そこ目指して頑張ってみよう」
「ですよね。革のじゃないスパッツを作るために始めたのでした」
「もっと涼しくてー……」
「そうそう」
「おしっこしやすいのー」
「だから、おしっこやめなさい」
ロナタルテに注意を与えてから作業に戻る。
要は成分の繋がり方次第だとは思う。ただ、妖精種の少女たちには分子配列とかそういう知識はない。なので、頻繁に話したりイメージ共有しつつ進めなくてはならなかった。
「マサキの世界の人って、すごく複雑な知識を持っていらっしゃるんですね?」
瞳に敬意が浮いている。
「創意工夫するしかなかったんだよ。このとおり、環境条件が整っていてさえ魔法力の弱い人間ばかりだから。今、ルキがやってくれてるようなことなんて夢のまた夢」
「一長一短ですか」
「そうさ。なんでもできるなんて、そりゃ神様じゃん」
念動力はかろうじて使えるという程度でしかない。
「マサキは神様って呼ばれてますけど?」
「そりゃ、妖精種に優しい人間ってだけ。他の人間に対する反動でそう思えてしまうんだろ」
「そうではありますけど」
エメルキアは不服そうである。ランゼッタもそうではないという目で見てきた。しかし、正輝の感性でいくと彼女たちは極めて優秀な種族で、尊敬の対象にしか映らない。対等に接して当然で、道具のように扱っていいわけがない。
「それは一旦忘れて試行錯誤だ。いろいろやってみるしかないんだぜ? なにせ、俺はその組成をさっぱり知らない」
知っているのはスパッツに使えるような生地が化学繊維でできていることのみだ。
「頑張る」
「私も試してみるわ」
「ええ、くり返しやってみましょう」
「ロナは応援するー」
「いや、チャレンジしろよ」
なんだかんだと話しながら作業をする。五人もいれば楽しみながらなんでもできるもんだと思った。まったくジャンルは違っても、チームでするもの作りは独特の楽しさがある。
「うーん、ポリエステルとそんなに変わらないか」
「ちょっと柔らかいと思う」
「もっとぐーんと伸びるやつ」
「これはー?」
「ポキポキ折れるほど固いじゃん」
茹でそこねたパスタが積み重ねられたように失敗作が貯まっていく。厳しいと思いながらも、おしゃべりしつつ試していく。
「ん、これ?」
ティナレルザが持ちあげた糸はかなり細い。
「これまでと違う感じがするわ」
「どれどれ……、はい、ルーザさん、正解!」
「いえーい!」
ティナレルザの作ったものはかなり伸びる。しかも、手を離せば元どおり。確かな回復力を持っていて、スパッツや水着などの繊維に近い。皆は喜びに湧いている。
「どうやったんですか?」
「ちょっと頭を切り替えて糸じゃなく、被膜のようなものとイメージを重ねてみたのよ」
「そうか。これ、糸ってより合成ゴムに近いのか。言われりゃそうだ。
「ルーザ、賢いー」
「尊敬する」
注目を集めた小妖精は自慢げにしている。両手に乗せて掲げて称えた。お手柄なのは間違いなく、遊びつつとはいえ褒めるべきである。
「では、共有しましょう」
「はーい」
「生地にまでするのでこのあとの作業はわたしとランゼでやります」
二人とティナレルザで共有伝達をしているので、ロナタルテを残念だったなと労う。あっけらかんとしたもので「できなかったー」と笑っている。正輝はこのとき、気づくべきだったのかもしれない。
「ちょっと様子おかしいな」
「うん、落ち込んでるのかしら」
ティナレルザを呼んで話し込む。
ランゼッタはエメルキアと一緒に作業をしているが口数が少ない。話し掛けられても生返事をしている。
「あとでフォローしとく」
「よろしく」
小妖精サイズスパッツの完成披露でその日の作業は終わり。夕食を済ませてお湯で身体を拭いたら、クロカン車の積載スペースでザコ寝するのがいつものルーティンだが今夜はランゼッタを連れだした。
「なにか気になることがある?」
倒木に腰掛けて少女を膝に乗せる。
「不甲斐なくて悲しい」
「どうして?」
「ぼく、この中では器用なほうだと思ってた。車作るのとか役に立ったし」
ティナレルザに先を越されたのがショックだという。
「でも、そうじゃなかった。ルーザのほうが器用」
「あの子は人間社会でとびきり苦労してるからな。いろいろと経験値がある」
「嫉妬してる。そんなぼくも情けない」
ここのところ失敗続きで落ち込んでいるのだと思った。ランゼッタが役に立ってないなんて感じてないと伝えたつもりだが本人はまだ気にしている。
「俺はランゼがいないと困るんだけどさ」
それだけはきちんと伝えなくてはならない。
「そう?」
「車の運転も自分から進んでやってくれてる。難しいこと面倒くさいこと、そういうのに積極的なのはランゼが一番だ。君がいるから今、毛布にくるまってじゃなく、車の床でみんな安らかに眠れてる。感謝してる」
「お手伝いじゃなくて、もっとぼくしかできないことないかな?」
少女は深い絆を求めている。
「そのうちでいい。みんなにとって、ランゼはもうかけがえのない仲間になってるのに否定してやるな」
「あ!」
「俺ももうランゼ抜きのこれからなんて考えてないからさ」
振り返って胸に抱きついてくる。小さな身体と温もりが愛しいのはエメルキアと同じだ。彼女がなにもできなくとも家族は家族なのである。
(伝わったかな)
触れ合ってイメージした感情は少女に伝わったはず。
静かに涙を流す彼女を正輝は抱き寄せていた。
次回『魔公接近(1)』 「これでは抜けだすのも容易ではありませんね」




