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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
撃発のライダー

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ランゼの挑戦(2)

 彼、パッチオ・レルガは十歳の男児である。この油問屋レルガ商会の跡継ぎ。今日はたまたま通り掛かった店舗のほうで変わった客を見つけた。

 その男は特に変わったところはない。黒髪に黒い瞳の青年である。強いていえば、問屋に出入りするにはいささか若いか。ただ、連れが普通ではなかった。


(なんてきれいな。ほんと、神の使いじゃないかってくらい)

 パッチオは一瞬で目を奪われた。


 男は少女を二人連れている。一人は長い水色の髪に青い瞳をした、とんでもなく透明感のある少女。もう一人は可憐という表現のほうがふさわしい、ふわふわの髪に緑の瞳の少女。水色の子は近づきがたさまであるが、黄色の髪の子はまだ親しみを感じられた。


「旦那、小妖精(リトルエルフィン)とは珍しいですな」

 店員が応対している。

「そうか?」

「最近、店先から勝手に消えちまうのが増えてるらしいんですよ」

「そりゃ大変だな。逃げられたのか。俺のはしっかり懐いてるから、このとおり放っといてもどこかに行ったりしないんでね」

 自慢げに話している。

「そいつは重畳でさあ」

「心配してくれて悪い……、お? もしかして、これって機械油? こっちはもしかしてグリスか?」

「ですぜ。なにせ、うちは油問屋ですので」


 男の顔つきが変わっている。驚きと喜びが入り混じったものだ。


「実は俺、細工職人なんだ。機械ものも扱ってる。頼む、こっちは小分けで売ってくんない?」

 頼み込んできた。

「まあ、工場でもなきゃそんな大量に使うもんでもありませんからね。結構ですよ」

「助かる。ほんと、恩に着る」

「いえいえ、こっちも商売なんで。それじゃ、お代を。おや、どうしたんですかい、坊っちゃん?」

 見つかってしまった。

「ごめんね、覗いてて」

「いや、そりゃ構わないんですけどね」

「あのお客さんの連れている子が……、その、気になって」


 こっそりと指さす。店員はすぐに納得顔になった。


「そうですな。きれいな子たちだ。坊っちゃんと年の頃も同じ。気になっても仕方ありやせん。お話しできるようお願いしてみますかい?」

 店員は気を利かせてくれた。

「ありがとう。いい?」

「じゃあ、行ってみましょう」


 店のほうに出ていく。すると、男のほうが怪訝な目を向けてきた。


「旦那、この方は当家のご主人の跡継ぎ息子様なのですが、どうかお連れさんとお話しお願いできますかい?」

 頼んでくれた。

「俺の? なんで?」

「そりゃ、それだけきれいなお顔立ちをされていれば。旦那も男なら覚えがおありでしょう?」

「否めないな。でも……」

 難色を示す気配がする。

「どうして、ぼくたちに?」

「あのね、旅の方でしょ? いろいろ聞けたならと思って」

「ふうん」


 少女のほうから話し掛けてくれた。パッチオはつい勢い込んで適当に誤魔化してしまう。


「ランゼ、興味があるのか?」

 男が尋ねている。

「ちょっと」

「うー……ん、君がしたいことを止めたくない。彼と話してみる?」

「いいの?」

 男は破顔した。

「ああ、いいさ」

「ありがと」

「ランゼ、あまり希望は抱かないように」


 もう一人の少女が忠告してくる。ただし、彼にはなんのことだかさっぱり見当のつかない注意だった。


「わからない。から、試してみたい」

「そう? では、ルーザについてもらう?」

「いや、監視するような真似はよそう。ランゼの自由意思なんだ」

「わかりました」


 パッチオは怪訝に見てきた男が説得してくれたのを意外に思った。


   ◇      ◇      ◇


 ランゼッタは小妖精(リトルエルフィン)として生まれてこの方、外をあまり知らずに育った。最初から力の強さを買われていた彼女は、連絡役などには用いられなかったからだ。

 代わりに、他の小妖精のような自由がない。外に出られるのも稀だった。そのときに触れ合った普通の小妖精の話を聞くのが一番の楽しみだったのを憶えている。


(ぼくは人間を知らないかも)

 そう思ったのはマサキに連れだしてもらってから。


 デレキセント教団の人間は大嫌いだった。彼女を当然に物のように扱うし、連れだすのにも紐を掛けられてのことばかり。痛い思いをした印象しかない。

 そこからマサキという人間に急転直下である。あまりの印象の違いに面食らった。最初の頃は見捨てられたくなくて、とにかく彼の役に立ちたいといろいろ申しでた。しかし、今のところすべて拒まれている。


(もっと人間を知らないとマサキに受け入れてもらえない)

 そんなふうに思いはじめたのがここしばらく。


 そこへ、今回の話だった。教団の人間とマサキは大違いだが、では教団以外の人間はどうなのだろうか。中間的な感じであれば、話をするほどにマサキに近づけるのではないかと考えた。それで、少年の申し出を受けたいと思ったのだ。


「行こ。僕の部屋で話そう」

「うん」

 手を繋がれる。

「じゃあ、夕方には迎えに来る。それでいい?」

「うん。ごめんね、マサキ」

「謝らなくていい。俺はランゼがしたいようにするのが一番だと思ってるから」

 彼の優しさがしみる。

「ありがと」

「じゃあ、あとで」

「すぐにお茶とお菓子を用意してもらうから」


 少年は強引である。マサキに感謝もしない。我が儘をして叱られたことがないのだろうか。そういうところはマサキはじめ皆に感謝すべきだと思う。


 ランゼッタは手を引かれながら少し残念に思っていた。

次回『ランゼの挑戦(3)』 (やっぱり、知らないと駄目)

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