ほとぼりを冷ます(2)
正輝たちがのほほんと過ごしているのには理由がある。強敵の女性教団戦士にアンブッシュを受けたのは行動範囲に目星をつけられたからである。あまり熱心に破壊活動をすると、どうしてもトレースされやすい。
(王国戦士団を退けて、ちょっと慢心してたかね)
トペンコの都撤退後は川筋まで南下しつつ、救助した小妖精の休養。元気になったところで上流へと遡れば妖精種の里に到達できると教えて見送った。
そのとき、目端の利く一人に、街々の小妖精を各自で救出に向かう作戦を託している。今頃は実行されているはず。以後はコタカッタ王国中央に横たわる森林地帯を走る道を西に横断して、目先を変えて活動することにする。当面はほとぼりが冷めるまでゆったりと過ごしていた。
「横断する間にメタル生息域の一つくらい行き当たるかと思ったのにハズレだったなあ」
自前で書き留めている地図を眺める。
「横断したのは里の北側よ。もっと森林部を北上していたら見つけられたんじゃない?」
「でも、車で森林部は踏破できないから仕方ないじゃん、ルーザ。これがバイクだけならできなくはなかったけどさ」
「足枷になる場面もあるわね」
クロスカントリー車といえど森の中は道がなくては走れない。
「荷物が多いのが悪いみたいな言い方です」
「違う違う、ルキ。できても、バイク横断はしなかったさ。踏破にあまりに時間掛かりすぎ。そんなにのんびりする気はない」
「ですよね」
南北に縦断する森林部には何本か横断する道が整備されている。そのうちの一本、山脈の谷間を抜ける道を西に抜けていた。整備されているといっても街道ほどではなく、流通のために便宜的に設定されている道に過ぎない。
「道行く人だって、メタルビーストが出ない辺りを通してあるって言ってたろ?」
「ええ、使うのは貿易商人がメインでしょうし」
「ギルドの戦士連中だってわざわざ森林部に突進したりしない。今こそコタカッタは休戦状態みたいだけど、戦国時代なのに変わりない。メタル狩りをしなくても戦士の働きどころは他にある」
聞き込み結果の情報はそれを示唆している。なので、王都ウダマンのある西側まで出張る気になったのだ。
西側のほうが人口は多く都市の密度も高い。東側より危険度は増すのだが、人が多い分捕捉されにくいはずである。しかも、車やバイクが普及をはじめるのも西側が早いという目算もある。
「王国戦士団の感じからして、バイクはとみに王都周辺から動きが見られるようになると思う」
正輝はそう見た。
「手軽な移動手段として提供したつもりなのに、王国の人は戦略物資と受け取ったみたいだ。確かに戦士の足として便利じゃあるけど」
「移動に精気を使用するデメリットはありますが、それは走りトカゲも同じことです。彼らに餌も備えなくてはなりませんし休息も必須となります。結局は車群との移動になるのに変わりありません」
「だから、クロカン車とセットで流したのに、軍事運用が先に来たのか」
従来の車とセットではバイクの速力が無駄になる。それも加味して速力もあるクロスカントリー車も準備したが、どうしても投資金額として大きいものになってしまった分だけ民間普及が遅れている。
「あとは、小妖精情報網を細らせたから人間のバイク連絡員が投入されるんじゃないかと踏んでる」
そういう流れになると予想する。
「少し時間掛かるかも。お金の面もあるけど、バイクは運転をマスターするのも大変」
「そうか、ランゼ。ジノグラフって二輪車の概念がなかったもんな。魔法力が強めなら小さい子でも車を動かせるし」
「バイクは癖強」
だからこそ彼らにメリットがある。
「スピードがあるのはどうあれ利点。これから、金属材料の動きも活発になると思うし、それに伴って流通も激化する。余計にクロカン車の出番が増える」
「相乗効果ね」
「全体がリンクして活況を迎える」
「その隙間ならわたしたちの活動が入り込めるかもしれません」
正輝は別の面も考えている。国内経済の活況は他国にとってリスクになる。国力増強に繋がるから。もしかしたら、戦争再開で彼らに目を向ける余裕がなくなればと皮算用もしたくなる。
「今のうちに俺たちも態勢を整えておこう。そろそろバイクのベルトも変えといたほうがいい」
メンテナンス時期である。
「そうか。もしかしたら、これから足りなくなるのはバイクや車でなく、触れる技術屋かもしれないな」
「その肩書なら都市に潜り込みやすくなるかもしれないわ」
「また、露天巡りできるー?」
ロナタルテは買食いを求めている。
「おう、細工職人のほうが通るか。図面売ったときに入手した職人のギルド証のほうが活きそうだ」
「やったー」
「植物油も買お。さっきの話、興味ある」
ランゼッタは技術的な方面に興味を示す。
植物油はナッツ類から採れるが、なにせまとまった量を作るにはどうしても大規模になる。人間社会でないと買い入れできそうにない。食用に使う分になら自給自足で注ぎ足していくのも可能だが、研究に用いるとなると買うしかない。
「パンツ作るのに油か。売り手は誰もそんなこと考えてもないだろうな」
「かも」
植物油由来の化学繊維となると元の世界でもまだ研究段階だとは、正輝は知る由もなかった。
次回『ランゼの挑戦(1)』 「それって情報管理が徹底してないと成立しないわ」




