アンブッシュレディ(1)
「♪たっねもっみ、たっねもっみ」
「♪たっねもっみ、たっねもっみ」
正輝が節を付けて歌うとロナタルテも続いてくる。
モルンバ戦士団を下して解放した小妖精をリハビリ兼ねて連れ歩きながらやってきたトペンコの都。バイクを近くの森に隠し車で街壁内へ。都市ではそのほうが目立たないのを学習した。
「麦粉用の種籾、どこなら商ってる?」
これまでは製粉済みの麦粉を仕入れていた。しかし、妖精種の里で畑を作るとなると麦の種籾が必要になってくるのである。
「農家でキープしてるものですからね。トペンコで買えるかわかりません」
「だって、農家に直接行っても雇われだから一切売れないって断られるじゃん」
何度も経験してあきらめている。
「麦粉を扱ってるところなら、籾で仕入れてるところもあるんじゃない?」
「だよなあ。製粉小屋持ってない農家もあるだろうし」
「たねもみー」
麦畑に敷設されている製粉小屋もよく見る光景。ジノグラフでは川で水車などを用いなくとも念動力を動力とする製粉機が作れる。畑で製粉したほうが運搬の手間が省略できるので好まれるが、小規模農家では製粉小屋まで設けられない場合もあるという。
「まずは聞いてみましょう」
用途を訝られると困るが、そこはどうにか誤魔化す。
「あとは?」
「フルーツ食べたい」
「うん、美味しそうだな、ロナ」
通りすがりの露店が目に入って直結している。正輝も色とりどりのフルーツに目を奪われた。停まって購入する。
「美味しいねー」
ロナタルテは満足だ。
「甘酸っぱくていいな。これ、増やして果樹園とかない?」
「時間掛かるけどなくはないんじゃない」
「一考の価値はあるだろ」
出てきた種をエメルキアに乾燥してもらってキープする。後部座席で休んでいた小妖精たちも、まさか自分まで分けてもらえるとは思ってなかったのか、感涙しながらフルーツに齧りついていた。
「♪かっじゅえーん、かっじゅえーん」
「♪かっじゅえーん、かっじゅえーん」
ロナタルテと歌う。
車内は賑やかで、続けるうちに少女や小妖精たちも一緒になって歌う。外にあまり音漏れしない構造なので気楽だった。
「これ、ジャムにしたりとかも美味しくない?」
つい連想する。
「きっと美味しいですね」
「でも、ジャムは砂糖いっぱい使うし」
「だよな、ルーザ。ん? もしかして、果樹園以前に糖桃の畑を作るの先じゃね?」
今は砂糖も彼が仕入れて持ち帰っているが、島では糖桃の実から砂糖を作っていた。里近くでも糖桃は採れて砂糖も作れなくはないものの量的には知れている。
「糖桃の種もいるな。♪とっうもっも、とっうもっも」
「♪とっうもっも、とっうもっも」
合唱は続く。
いろいろと仕入れるものを考えていると通りに教会も見えてきた。先に仕入れるものを仕入れてから向かうべき場所なので頭に入れておく。
「教会、さっきのとこな」
親指で示す。
「♪きょーかーい、はっかーい」
「♪きょーかーい、はっかーい」
「それ、同列で扱うのどうなのです?」
さすがにエメルキアにツッコまれた。
買い物を済ませて水汲み場へ。大きめの革袋にいろいろと使う水を貯めておく。元装鎧少女の子たちの身体を洗うのに消費した分を補給できた。服も清潔なものを車内に標準装備することにしてある。
適当な露店で料理を仕入れて車内で腹ごしらえをする。小妖精にも少しずつ味見させて食べる楽しみを教えていく。絶対に必要ではなくとも、笑顔になれるシチュエーションが大事だ。
「さて、教会の順番だな」
「なんか、気が削がれましたけど」
「そう言うなよ。ルキがいないと、俺、始まらないじゃん」
ドライブシートをランゼッタ仕様にして座ってもらっておく。逃走用の手順だけ踏まえておかないといけない。だんだんとルーティーンが決まってきているのが微妙なところ。
「入ろう。ろくな話してなかったら、また問答無用で変身しそう」
エメルキアを伴って扉を開く。
「あれ、説教の時間じゃなかったか」
「昼下がりですもの」
「人も少ないな」
元の世界、主にキリスト教では回廊と称される信者用の開放スペース。そこにいる人の数は決して多くはなかった。しかし、まったくいないわけでもなく、ひと塊になっている場所がある。妙なことに、若い男が多く怪訝に思った。
「なんだ?」
「らしくない空気ですね」
集団の隙間からちらちらと司祭服が覗き見られる。どうやら人気のある司祭に人だかりができているだけのようだ。それ以外の司祭は普通に清掃などに当たっていた。
「きっかけないとやりにくいな」
「どうせ結果が同じなら構わないのではないですか?」
「ルキさん、無慈悲」
つい、笑い合ってしまう。
その声が響いてしまったか集団がこちらに気づく。若い男性信者を割って現れたのは妙齢の美しい女性司祭だった。つまりは、そういうことだったらしい。
「当教会になにかご用ですか?」
女性司祭が問い掛けてくる。
「うん、用は用なんだけどどうしたもんかな?」
「私でよければ承りますよ?」
「いや、忙しそうだし」
男性信者たちの視線が痛い。明らかに彼をライバル視してきている。顔が悪くないのはこういうときにマイナスに働く。
「そう、おっしゃられずに。例えば、当教会を破壊しにいらっしゃったとか?」
「ん?」
その女性司祭は正輝に向かってにっこりと笑った。
次回『アンブッシュレディ(2)』 「ちゃんと、おっかないお姉さんがいるからって伝えてあるぜ」




