モルンバ急襲(3)
「いやまあ、そうなるとは思ってたんだけどさ。なんとも……言いがたい」
(なにがですか?)
正輝のつぶやきにエメルキアは不思議そうに応じる。
威勢のいい装鎧戦士は特有の中年太り体型をしているのである。その体つきで装着しているものだから、バトルスーツがひどく不格好に思えてならない。
「これは俺の常識のほうがマズいのはわかっていても……さ」
(どこか変です?)
少女は戸惑っている。
王国の装鎧戦士はバトルスーツとしては比較的戦隊ものに近い。特徴的な仮面を持たず、バイザー装備なあたりがそう思わせるのだろう。
日本の特撮ものは、スマートな配役にスーツアクター、戦闘に携わるにはむしろ痩せ過ぎと思われる見栄え重視の配置がなされている。それに慣れすぎた正輝は中年装鎧戦士が悲しき現実を表出しているのに違和感ばりばりなのだった。
(あ……)
彼のイメージを受け取ってしまった少女も絶句する。
(でも、致し方ないことなので)
「フォローするんだ」
問題がなければいいのだが、よりにもよってごてごての装飾を施した大剣を抜く。それだけでバランスが危うくなりバイクがふらつく。そんな状態で降りおろしてもタイミングが合うわけもない。
変身フォームの正輝が通りすぎてワンテンポ遅れた頃にブンと大剣が行き過ぎていく。バイクはさらにふらつき、どうにか向心力だけで立っている有り様。
「もうちょっとバランス悪い車体に設計してやればよかった。つい、乗る者の心理重視で設計しちゃったぜ」
(ものすごい皮肉ですね)
少女の苦い感情が伝わってくる。
彼がスピンターンを決めると、中年装鎧戦士は焦りまくりである。まだ、旋回の途中で横腹を見せているところだからだ。
「なんだ、この乗り物は! まったく役に立たんではないか!」
「いや、あんたが下手くそなだけだって」
暴言を吐こうが虚勢を張ろうが現実は変わらない。突進してウイリーからの前輪アタックで簡単に転倒してしまった。正輝は中年太りの胴体を轢きながら行きすぎる。
「うごっ!」
「まともに戦いたかったら、脂肪じゃなく筋肉つけてこい」
「言わせておけば! こんなことなら走りトカゲのほうが万倍マシだ」
バイクの速度で急襲という恩恵を受けておきながらこの言いざまである。そのうえで、自らの愛車を足蹴にしているところが彼の癇に障った。
「どんだけ愚かなのか思い知れよ」
スピンターンからの再突進。中年戦士の手前で前輪だけ急ブレーキしてジャックナイフターンを決める。もちろん、後輪で戦士を横殴りにしながらだ。車重までも用いた攻撃は装鎧戦士のパンチに劣らないかもしれない。
(器用すぎませんか?)
「派手な技だけに、こういうのもみっちり練習したのさ」
(元の世界のマサキはほんとう、どんな職業だったのか想像もつきません)
跳ね転げる中年戦士をよそに正輝は停車して片足をつく。王国戦士団は散々たる有り様だった。よろよろと立ちあがる者、どうにかバイクを起こそうともがく者、それさえも力任せで練習していないのが丸わかりだった。
「なんだかなあ。あまり見せるのもよくないか」
(見たからって真似できるような技とも思えませんけど)
「かもな。バイクの構造がわかってないと無理か」
ただし、バイクに乗ったままで前輪や後輪攻撃、ラリアットや肘打ちを喰らわしたところで致命傷は与えられない。弱らせたあたりが頃合いだと思って離れた場所でバイクのスタンドを立てる。
「観念したか。今度こそ討ち取ってくれよう」
「おい、どの口で言ってる?」
ツッコまざるを得ない。
ふらふらしながら剣を抜いて斬り掛かってくる戦士団の装鎧戦士たち。駆け寄った彼は適当にパンチやキックを浴びせてさらに体力を奪う。
「サイコブレード」
念動剣を生みだすと、おそらくパワータイプだと思われる装鎧戦士たちを一人ひとり薙ぎ払っていった。隙だらけになってしまった戦士は一合も剣を交えることなく致命傷を受けてしまう。
光の粒子に包まれたかと思うと生身の身体に早戻り。傷は回復したとしても、蓄積したダメージが立ちあがる力を呼び覚まさない。存在の力を解き放った小妖精だけが次々と生まれ、正輝が指で示した車のほうに飛び去っていく。
「お、おのれ……」
息も絶え絶えの中年戦士が残った。
「この戦公ナスカム・モルンバを愚弄して許されると思うな」
「うん、もう許さなくていいから。あんた、装鎧戦士じゃなくなったら余裕で失脚だろ? 気にするまでもないじゃん」
「待て。おい、まさか……」
「男を脱がす趣味はないが、ここは一つ気前よく脱いどけ」
左斜め下から逆袈裟に斬り裂く。倒れてから派手に血がしぶいたが、それもすぐに収まった。中年戦士も光の粒子に包まれている。
「危うく脳天から斬り落としたくなったぜ」
(それはやめてくださいね。わたしたちでも脳の損傷だけは回復しきれませんので)
あまりに複雑な組織を持っているがゆえに大脳の再生は不可能だという。組織再生そのものは可能なのだが、生体機能を取り戻すには至らないらしい。なので、殺したくない場合は頭を避けるようエメルキアに忠告されている。
「なんだったんだ、結局」
(なんだったのでしょう?)
呆気ない幕切れに正輝は少女と首をひねった。
次回『アンブッシュレディ(1)』 「それ、同列で扱うのどうなのです?」




