モルンバ急襲(2)
よく見ると、バイクには小さな旗が立てられ紋章が刺繍されているとわかる。その紋章はデレキセント教団のものではないので王国の戦士団だと正輝も察した。
(急だな。なにを警戒した? バイクの構造と性能を知って危険視したとも思えないけど)
バイクに不慣れなのは明白だ。運転しているというよりしがみついているという感じ。しかも、彼が逃げるでもなく迫ってきたので及び腰になってしまっている。戦士団が経験したことのない相対速度なのだから。
「馬鹿じゃないの、こいつら」
(こんなに速く走るものとは思ってなかったのではないです? わたしもちょっと驚いてるんですけど)
そうエメルキアに言われると、正輝が変身状態で本気でバイクを加速させたのは初めてかもしれない。体感的に70km/hは超えている。想定範囲内だが、プロペラは聞いたことのないほどの高音を発していた。
(小さな点みたいだったのが、もう見分けがつくほど近くなってきてます)
「だな。連中、てっきり追撃戦になるもんだと見越してやがったな」
一気に接近してきたので対処に困っている空気が醸しだされている。では、進路を変えるかといえば、そこまで頭がまわってない。まっすぐ走らせるのがぎりぎりという雰囲気なのだ。
「ろくに運転の練習もしないまま出てきてるぜ」
(マサキが運転の練習してるのも知らないですけど)
「俺は元の世界でみっちり練習してきてるさ」
スタントなしのバイクアクションも当然の如く必修だと思っていた。彼はあくまでもライダーを目指していたのだから。
(このまま衝突したらバイクが壊れませんか?)
「しないしない。絶対に壊したりするもんか、俺の大事なバイクを。こうするのさ!」
見る見るうちに縮まってあわや激突という距離。正輝は膝を軽く浮かせて緩衝姿勢を取ると左腕をかざす。戦士団の装鎧戦士が駆るバイクを右に避けると、すれ違いざまにラリアットした。
バイクは慣性のまま走りすぎ、相手だけが空中でロールしながら地面に叩きつけられている。解除しないので死んではいないのだろうが完全に失神している様子。
(そんな戦い方ですか)
「いやー、こっちのほうがお手のもんだって」
スピンターンして追走する。バイザーの所為で表情は窺えないが、裏側では引きつった顔をしているのが手に取るようにわかった。
スピードが段違いなので、すぐに追いつく。並走すると、真横から蹴りつけてやった。運転に慣れていない状態でそんなことされれば堪ったものではない。バイクは転倒し、投げだされた戦士は地面でまくれて動かなくなる。
(あー……)
あまりの一方的展開に少女は言葉を失う。
「見事なもんだろ?」
(バイクが速く走るだけのものじゃないってこういうことだったのですね。戦闘もできるのですか)
「おう、こればかりはしっかりと練習しないと身につかないぜ」
それだけのことはしてきている。
「ただし、俺も生身だとここまではできない。出力調整はルキ任せだし、クラッチとブレーキ操作だけじゃなあ」
(確かにそんな感覚です)
「変身して、やっと乗れてるって思ってる」
変身状態であればクラッチやブレーキ操作からプロペラ回転数まで、なんだったら車重の微妙なコントロールまでできてしまっている。もしかしたら、東京時代より乗りこなせているかもしれない。
「ああ、いい。堪らん」
(これがライダーですか)
「これも、だな」
王国戦士団の装鎧戦士は方向転換もままならない。どうにか体重移動くらいはここまでの道程でマスターしているようだが、ひどく大きな旋回しかできない。
彼がスピンターンで正対し、真正面から突っ込んでいくとハンドル操作を誤り自ら転倒する。もちろん、ぎりぎりで回避するつもりだったがなにもしなくてよかった。
「次!」
なんとか追いついてきた一台が並走しかけたところで、目の前でスピンターンしてやる。前輪を足払いしたような格好になって、グリップを失った車体は吹き飛んでいった。もちろん、運転者はもっと向こうへと飛ばされている。
「そろそろ懲りろ」
追走してきた二台に方向を合わせて制動する。真横に来たところで両側に肘打ちを飛ばした。カウンター気味に、頭から肘に突っ込んできた戦士は上半身を跳ねさせて転げ落ちる。バイクは慣性のままにしばらく進んで横倒しになった。
「落ちたら終わりってわけじゃないんだぜ?」
頭を振りながら立ちあがった装鎧戦士に向かって突進する。ウイリーしながら、前輪で顔面を踏み潰してやった。
生身が相手では到底できないような蛮行だが、相手が装鎧戦士なら装甲の強さを知っているので躊躇いもなく実行できる。相手は再び動けなくなった。
「この野郎がぁー! 調子に乗るなぁー!」
ラスト一台が疾走してきた。
「お? 活きのいいおっさんがいるじゃん」
「どこの馬の骨とも知れん戦士風情が偉大なる王国戦士に立ち向かえるなどと思うな! おこがましいにもほどがあるぞ!」
「そうかいそうかい。別になんと思ってくれたって構わないさ。事実は曲がらない。圧倒的なテクニックの差がある」
このシチュエーションであれば真正面から勝負してもいい。数の差など無意味にできるから。
正輝は吠える戦士に向かってバイクを走らせた。
次回『モルンバ急襲(3)』 「これは俺の常識のほうがマズいのはわかっていても……さ」




