モルンバ急襲(1)
「まだ来てる?」
「はい、ついてきてます」
尾行に気づいたのはエメルキアだった。街道なら正輝でも気づいたとは思うが、相手が上空からだったので感知能力の高い少女に分がある。
「捕捉されたか。支庁の飛行隊は壊滅させたつもりだったんだけどな。まだ、残ってたってね」
恨みから狙いを定められたかと思う。
「いえ、王国の飛行タイプの可能性も捨てがたいかと」
「王国のマークは外れたのかと思ってたけど甘い?」
「甘いわね」
ティナレルザにも諭される。
「むしろ、大目に見てくれていたほうじゃない?」
「教団の被害が感染したか。見過ごしておくと飛び火してくるって?」
「危機管理としては正しいんじゃなくて?」
彼女の言うとおりである。彼のターゲットは教団支庁だけではなく、いずれ王国へも目を向けるつもりだ。相手が先に注視してきたからといって非難できない。
「撃ち落とせる? パッと見、どこいるかわかんないんだけど」
変身したらの話。
「かなり高空から追跡されてます。魔法は届きません」
「そんな高さで息できんの? 慣れてるのか」
「魔法で空気を集めてるんだと思うわ」
念動力で周囲に空気を溜めてから飛びあがるのだという。
「一人?」
「はい、力が働いているのは一点です」
「じゃあ、監視が動いたら場所を報告されて接触してくるな。そのときか、あるいは二つに増えたとき教えて」
監視の交代タイミングも頭に入れておかねばならない。それに、連絡系統はそれだけではない。
「同じとこまで上がれる、ロナ?」
小妖精連絡網もある。
「わざわざ行かないー。ロナも準備してかないと息できないもん」
「行こうと思えば行けるわけか」
「考えなくていいわ。私たちだって居場所が安定してない飛行型装鎧戦士がどこにいるか把握できないもの。あれはルキの知覚範囲だから捉えられたの」
好材料も示された。
「だったらタイミングは掌握できるな。安心した」
「当座は停まらないこと。それが相手を動かすはず」
「その気になれば逆利用もできるか。悪くないじゃん」
車と並走してランゼッタに現状を伝える。ティナレルザは移ってもらって、ロナタルテを連絡役として懐に残した。
「ランゼが疲れるまでにタイミングを掴もう。街道を外れるか」
休憩は必須である。
「監視の目が外れてから移動する手もあります。ランゼの精気の余力を計りつつ行動するのがいいでしょう」
「迎撃場所を工夫するわけだな。それ、いただき」
「タイミングは知らせます。マサキは場所を選んでください」
襲撃ありのつもりで行動する。相手の戦士団がどこにいるか把握はできないが、感知できていない遠くからやってくるのは間違いない。準備に費やせる時間はある。
その後、一時間ほど引っ張ってから停車した。エメルキアが監視が移動したのを確認してから近くの丘の上まで再移動する。見渡せる場所、かつ迎撃速度を取れる高所に位置する。
「ほら、急げ。一気に吸っていいぜ」
車から降りてきたランゼッタを膝に座らせ精気補給。
「でも、今から戦闘になるし」
「気力は十分だ。まったく問題なし。それより、ランゼの機動力が落ちるほうが怖い」
「そうかも。足手まとい、嫌」
敵は車を狙ってくるかもしれない。
「ランゼさえ元気なら、俺たちの車なら走りトカゲなんぞ振りきれるからさ」
「うん、追いかけっこにならない」
「マサキ、そうでもないかもしれません」
エメルキアに呼ばれる。ランゼッタを抱きかかえたまま、車の陰から出て指さす方向を見た。草原を疾走する姿に顔をしかめる。
「そう来たか」
移動速度が想定の倍以上だ。
「可能性があるのはわかってたが、民間よりそっちが先だとはな」
「はい、どう見てもバイクです」
「軍事転用可能と見て売り込んだな? 職人ギルドも少しは頭がまわるらしい」
急速に接近してくる。
「スペックダウンしてあるとはいえ、クロスカントリー車と変わらない速度は出るでしょう? 早く動かないといけないのではありませんか?」
「いいや、ルキ。連中、誤解してる。バイクってのは走ると速いだけじゃない。最大の利点は小回りが利くこと」
「小回り?」
少女はピンときていない。それはそうだろう。なにせ、自分が乗っているバイク以外に同じ乗り物を見るのは初めてなのだ。
「面白いじゃん。本物のライダーってのを見せてやる。この場合、バイク使用者のライダーのほうだけどさ」
ニヤリと笑った。
「ゆっくりしていて大丈夫?」
「腹いっぱいになるまで行っとけ。ちょっと楽しいことになるぜ」
「わかった。マサキがそう言うんなら」
ランゼッタが十全に車を動かせる状態であるのも重要になってくる。下手に焦るとむしろ状況は不利になろう。
「何台いる? 一、二……」
「七台見えます。全部装鎧戦士と考えて差し支えないでしょう」
「上等じょうとう。勘違いしたまま実戦投入してきたのを後悔させてやろうじゃん」
満タンになったランゼッタを丁重に車の運転席に乗せると、小妖精二人もそっちへ。エメルキアを呼び寄せて先に変身する。
「どうぞ」
「ビルドイン!」
若干ボリュームの増えた身体がバイクのサイズにマッチする。東京にいた頃の感覚を呼び覚ました。今回ばかりはそれが必要なのだ。
「状況に合わせて退避な、ランゼ」
「うん、わかった」
ライダーフォームの正輝はバイクにまたがって敵のほうに向かっていった。
次回『モルンバ急襲(2)』 (バイクが速く走るだけのものじゃないってこういうことだったのですね)




