舞い戻って(3)
「家は増築の方向がいいと思う。まだ、あの子を一人にしたくない」
「そうですね、来たばかりの頃は」
助けだしてきた装鎧少女はメルメシルの案内で里の中を教えてもらっている。先輩の多い小妖精と違って、行動範囲を配慮してやらねばなるまい。
「新しい子が増えてきたら新入組の面倒も任せられるのでしょうが、当面はわたくしたちで見てやるべきでしょう」
「ある程度増えるまではこの家で対応しよう。限度があるけどさ」
「わたくしとトーレスが暮らしていた家はもう解体して結構です。あそこに二階建て以上の集団生活ができる家を作ったほうがいいかもしれません」
テアクルセが提案してくる。少し引っ掛かりを覚えた正輝は訊きなおした。
「いいのか? 苦労の歴史をともにした家だろ?」
「気にしはじめたらキリがありません。まずはわたくしたちから変わらねばいけないのです。ですよね、トーレス?」
「ええ、気にならないわ。どうせ、この里だってあと何年維持できるか考えどころなんだもの」
ピトレスカが意外なことを言う。彼女は里を終の棲家とは考えていないようだ。
「だが、スピリットシャフトがある場所でないと君たちは集団生活できない」
現実的な話をする。
「ここは臨時の隠れ家以上にはならないわ。あまりに生活の便が悪いもの。マサキ様が外から持ち込んでくれるものに頼りきりになるのはよくない。拓けた自活できる場所がいずれ必要になってくる」
「まいった。君のほうがよほど現実的だった。頭に入れとく」
「わたしも考えておくけど考慮をお願い。スピリットシャフトのキャパを超える前になんとかしないと駄目」
仕切りの上手いピトレスカは里になくてはならない存在である。宰相向きの人材であると認識した。
「ここ以上のキャパがあるスピリットシャフトを建てられる場所を探さないといけないのか。ただし、そこは隠れ住むことを目的としなくていいってのは条件の緩和になるじゃん」
つまり、本物の社会的に独立した拠点を考えるべき。
「地脈っていうのは大陸全土に張り巡らされていると考えていいと思う。さらに、精気の湧くポイントの条件を探せば解決に近づくな」
「そこまで急ぎの案件じゃないから。それより、サンルームとか家の建築とかにかまけていて大丈夫? 人間社会のほうの締付けが厳しくならない?」
「いや、むしろ時間を稼いでる」
ピトレスカは彼の行動が人間社会に与える影響から追及の手が強まる危険性を示唆している。
「もうちょっと早くバイクやクロスカントリータイプの車の普及が進まないかと思ってさ。そうじゃないと、捕捉されやすくて仕方ない。そのうちルートを把握される。そうすると、気安くここに帰ってくるのも難しくなってくる」
「そうね、確かに。でも、人間の職人、工房の仕事ってそこまで優秀? よく知らないんだけど」
「俺もそこが抜けてた気がする。図面があっても、普通に金属パーツを作るのは手間が掛かる。君たちが優秀すぎて感覚が麻痺してた」
妖精種の、主に流体金属を用いた物質操作能力が高くて、部品の修正がその場でできてしまう。慣れてしまうと、人間もそれに準じる速度でできるのではないかと勘違いしてしまった。
「よい傾向だとはお思いになりませんか?」
エメルキアが宥めてきた。
「マサキに以前のような焦りを感じなくなってきました。きっとプラスに働くと思ってます」
「前は確かに早く解放してやらないとって気持ちのほうが強かった。でも、こうして里ができてしまうと、守ることも優先して考えなきゃならないじゃん。結果、計画性のほうが重要って思えてきた」
「意識の変化は悪いことではないわ」
難しい話に居眠りを始めたロナタルテと違ってティナレルザは意見を挟んでくる。
「連綿と綴られてきた社会構造は一朝一夕に変わるものではないの。苦しみに共感してくれるのは嬉しいけど、要となるマサキが失われるような無謀はもう慎まなくてはならない時期」
「ああ、自重する」
「いい? 私たちに関することすべてがマサキを中心に回りはじめてる。不用意に突っ走らないで。私もルキも皆があなたを助けたいと願ってるんだから」
つい、手の中に収めたティナレルザの小さな身体に祈るように額を寄せる。キスしてくれている感触が返ってきた。彼は一人で戦っているのではないのだ。
「よし。じゃあ、増築計画から練るか」
テーブルに戻した小妖精に微笑み掛ける。
「順番に確実にいこう。手を貸してくれ」
「喜んで。マサキ様のお思いのままに」
「んじゃ、とりあえずメシ食わしてくんない?」
腹ごしらえをしてから会議の続きをする。不在の間に起こったことなど教えてもらいながら、幾つかの問題の対処も請け負った。
(なんだろう。すごいモチベ上がった)
三週間あまりも時間を掛けてサンルームの増設や家の増築、新築準備などを行う。畑の予定地にする場所で伐採した木を流用したので効率はいい。新家屋のほうはすぐとはいかないので、基礎工事を進めたところで一旦放置する。
「じゃあ、出てくる。留守を頼むな」
「またのお帰りをお待ちしております、マサキ様」
「心配しないで。問題なくまわしておくから」
「よろしく。じゃ」
正輝たちはまたバイクと車で妖精種の里を出発した。
次回『モルンバ急襲(1)』 「王国のマークは外れたのかと思ってたけど甘い?」




