舞い戻って(2)
ウフルバ・ジーギラは王城にて開かれた戦公会議に出席している。議題は事前に把握はしているので彼からの聴取も行われるのは確定であろう。
「コハルセの都が打撃を受けた。装鎧戦士が装鎧少女を剥がされて不在になっている。教会に至っては全壊だ」
議事を進行する戦公が現状説明を行う。
「王国側にも実害が出てしまっている。それ以上に、デレキセント教団のほうが深刻だがな」
「漏洩情報を耳にするに、王都ウダマンの支庁の小妖精が集団脱走をしてしまったらしい。どこに消えたかは不明。我が王国に異常事態が起こっているとしか思えない」
「それもこれも、件の装鎧戦士が現れてから。関わりがあるのは明白だ。ジーギラ戦公、なにか意見は?」
露骨に水を向けられる。当然の流れだとはいえ、いささか不快であった。
「特には」
王からはなにも命じられていない。
「無責任な。貴公が取り逃がしたからではないか。確保できていればこんなことにはならなかった」
「無理筋な意見はよしていただきたい。あの時点では調査指示書でしかなかった。まだ手配が掛けられていたわけではない。戦力を費やしてまで拘束する根拠がない」
「危険性を予見できなかったというのか? だとすれば、王に戦公の地位を賜るにふさわしい器量はないと思えるが?」
やはり責められる。
「よせ。本会議は権力争いのために招集されたのではない」
「その言いようは遺憾ですな、モルケトー戦公」
「ならば控えよ」
進行役を務めているのはデラハル・モルケトー戦公。王国百二十年の歴史に名を連ねる古参の有力戦公で、誰も強くは出られない相手である。
「まずは、どう対応すべきか決めねばならん。陛下よりそう承っている」
威厳のある声音で告げる。
「必要ですかな。当面の攻撃対象にされているのは教団に思えますが」
「それは早計かもしれない」
「なにかあるのか、ジーギラ戦公?」
意見を挟むとデラハルが尋ねてくる。
「マサキ・コーノギという男、ただの荒くれではない。聡明さを持っている。今はまだ装鎧戦士の力で国民を攻撃しようとは思っていないだけ」
「それはどういう意味だね?」
「教団は研究と称して、各地の教会で妖精種を育成している。それが気に入らなくて攻撃しているとしか思えない」
思い起こせば、マサキは本当に自分の装鎧少女を大事にしていた。むしろ、少女中心に振る舞っていたともいえる。
それに、彼の育った環境では妖精種と共存するのが当たり前だとも言っていた。事実かどうかは確認できないが、それなら辻褄が合うとも思えるのだ。
「すると、貴公はその男がこの戦具を大切にするあまりに凶行に及んでいると申されるか?」
説明はそのまま受け取られた。
「そうとしか思えん点が幾つもある」
「あり得ぬ。なにを考えているのだ? どこにも利点がないではないか」
「うむ、妖精種を助けてどうなるという話だな」
マサキが逆上したシチュエーションは、ギルドの戦士が装鎧少女を性の遊具にしていたとき。彼はウフルバに強硬にやめさせろと主張した。
なにを言っているのか理解できないうちに、戦士団を見限り遁走している。今思えば、装鎧少女への虐待だと感じていたと思えた。
「虐待? 装鎧少女を? そもそも虐待という言葉が当てはまる存在ではないではないか」
誰もが頷く意見である。
「考えていただきたい。そういう感性が当てはまる人物がマサキであると思えば、各地での犯行の動機が説明できる」
「話にならん」
「いや、筋道は通っている。我らとはまったく異なる感性を持つ人物だと思って対するべきだとジーギラ戦公は考えているのだな?」
「然り」
デラハルは彼の意見を素直に受け取ってくれた。それができる器量であるからこそ、王の覚えもめでたい重鎮の地位をほしいままにしているといえよう。
「だとすれば、だ」
モルケトー戦公は眉根を寄せる。
「我らが装鎧戦士の力を用いて攻めれば攻めるほど件の男の反発を買うことになるな」
「おっしゃるとおりだと思う」
「無用に刺激すべきではないか」
デラハルは迷う素振りを見せている。しかし、戦公間での権力争いに頭を傾ける面々は一笑に付した。
「なにをおっしゃる。我らが戦士として戦わずしてなにが戦公か」
呆れのジェスチャーが交えられる。
「そもそも、どうしてわずか一人の装鎧戦士対策など考えねばならないか。一蹴すればよいではありませんか」
「ならば、貴公、一人で教団の飛行隊の一隊を退けられようか? あまつさえ、敗退させるのみにあらず、全員から装鎧少女を剥ぎ取ることは可能か?」
「むう、それは」
さすがに言いよどむ。
「しかるに耳を傾けよ。我はこれを王国の一大事と認識しておる」
「公ともあろうお方が。理解に苦しみますな」
「ほう。では、モルンバ戦公。貴公がマサキ・コーノギに対処すると申されるか?」
逐一反論していたのが、権力争いに地道をあげる勢の一人、ナスカム・モルンバ戦公である。本件を王の歓心を買うのに利用できると考えているフシがある。
「討ち取ってみせましょうぞ」
「いや、生け捕りが好ましい。それほどの戦士、王国の戦力として取り込めれば大きな力となる」
「モルケトー戦公、それは……」
「無論、無理であれば致し方ないこと」
「お任せあれ」
(いや、あの男を取り込むのは不可能だと言いたかったのだが)
ウフルバは会議の流れに逆らうことはできなかった。
次回『舞い戻って(3)』 「いいのか? 苦労の歴史をともにした家だろ?」




