舞い戻って(1)
コハルセ警備隊の装鎧戦士を倒した正輝は、ランゼッタの乗ってきたバイクにまたがって一度その場をあとにする。改めて車でコハルセの都を訪れると、今度はダイレクトに教会に乗りつけた。
「まいど」
ノックもなしに扉を開く。
「ビルドイン」
変身して破壊の限りを尽くし、一般家屋にして数戸分の床面積を誇る教会を崩壊させる。数人はいた司祭が右往左往していたが知らんぷりで解体作業に勤しむ。最奥部まで達すると、手に持っていた尖塔の上のシンボルを叩きつけて育成室の扉を壊す。
「迎えにきたよ」
怯える少女に手を差し伸べる。
ランゼッタに説明を任せるとその装鎧少女は得心した。繁殖形態に成長して一年は経つそうだが、教会の司祭によって存在を秘されていたという。なにかの取引材料に使うつもりだったのかもしれない。
「そっか。とりあえず、ここを出よう。壊すから」
抱きあげて精気を流すと表情が和んだ。変身中の姿だというのに、嬉しそうに首に手をまわしてくれる。それだけで報われる思いである。
「ついてこーい」
小妖精をまといつかせて車に戻る。何事かと集まってきた見物人を追い散らす。警備隊員が剣を抜いて威勢のいいことを言ってきているが、左手で剣を握りつぶしてみせると全員が逃げていった。あの戦士を倒してあるので、コハルセの都に、彼に抵抗できる人間などいない。
「魔法師って出てこないな」
(彼らは戦士の前衛がいてこその存在です。歯も立たないとわかっているのに挑んでくるとすれば無謀な輩ですね)
エメルキア曰く、死にたくないから寄りつかないらしい。かようなまでに装鎧戦士というのは破格な存在である。
「乗ったか? じゃあ、帰るぞ」
「はーい」
妖精種で満員になった車を運転しながら、都を出たとこで解除する。各地の教会で解放してきた小妖精もリハビリを経てドライブを楽しむほどに回復していた。
油断すると、運転中の正輝の前を飛びまわり、あまつさえ顔に張りついてくるほど元気になってしまった。ティナレルザに叱られて舌を出す始末である。
「ちょっと寄り道するからさ」
「どこにいらっしゃるんですか?」
「キオーヌ。義理だけ果たしとく」
バイクのところまで戻って、乗り換えるとキオーヌの都に向かった。三日ほど掛けて到着すると車を隠せるところで待たせ、エメルキアと狩人ギルドに向かう。
「よお、おっちゃん、久しぶり」
「やっと来たか。どうなんだ?」
親しげに話し掛けてくる。
「どうもこうもないって。メタルスライムも全然いないんだぜ?」
「あー、早々に枯れたか。不運だったな」
「どうも、そうっぽい。俺、河岸変えるわ。世話になったな」
「仕方ない。別の狩り場を見つけたら近くのギルドに卸してくれ。また、縁があったらな」
再訪しないと告げる。
方便を使わないといけないかとも思っていたが、やはり枯れるという現象は周知のことらしい。当然といえばそれまで。露出するコバルト鉱脈が尽きればメタル生物は発生しなくなる。それを枯れると表現しているのだとすぐにピンときた。
「これで後始末は終了っと」
「変に縁ができてしまいましたものね」
「じゃなきゃ話は簡単だったのにさ、こうなるとキオーヌの警備隊戦士とか教会には手を出しにくい。後回しにするしかないな」
都市で麦粉を仕入れたら南の川に。河原を遡って妖精拠点への帰路につく。小妖精をまといつかせながら、がたごとと石を蹴って進むと懐かしの我が家だった。
「お早いお帰りで」
「お恥ずかしながら、って、違うわ!」
テアクルセが出迎えてくれる。涙の別れから数えること二週間ほどでしかない。いささか拍子抜けするほど呆気なかった。
「うわ、めっちゃ増えてね?」
「王都の教団支庁からの便が次々と到着しておりまして」
小妖精が倍増している。禁域内のあちらこちらを飛びまわっていた。かなり大きめに作ったつもりのサンルームが、はや手狭になってきそうな勢いである。
「サンルーム、増設しないとな」
「急ぎではありません。本来、使うのは雨風の強い日だけですので。でも、ぽかぽかと心地よくて入り浸る子も少なくありませんのでなんとも」
「やっぱ、増築な」
テアクルセたちもたまに中で昼寝してしまうことがあるという。暮らしから緊迫感が徐々に抜け落ちていっていると聞くと、努力の甲斐はあったと思える。ここを妖精種の村と呼べるくらいになるのが理想。
「サンルームと倉庫、あと麦畑作ってみる? 大した消費量じゃないだろうから、小ぢんまりとできればいいかも」
「それと、マサキ様がお帰りになったときに消費する分ですね」
「うん」
「それなら、一部の木を倒してそれなりの規模でしたいです」
そうなると、農機というのも考えなくてはならない。当面は小さく収める相談にして里を見まわす。
「それと、家もまだいるな。なんか教団内の思惑も絡んで、契る前の子が意外と助けだせそうな感触がしてる」
「それもですが、これだけ精気供給が安定すると成長してしまう子が出てくると思いまして」
「装鎧少女に?」
「はい」
「本気?」
「ええ」
テアクルセの言葉に正輝は少し焦りを覚えた。
次回『舞い戻って(2)』 「無責任な。貴公が取り逃がしたからではないか」




