本格始動(4)
戦士はその黒髪の青年のことがまったく理解できない。あろうことか、少女二人と手を繋いで大通りを歩いていく。まるで、家族に接するのと変わりないかのように。
(しかし、俺に挑戦してくるということは、どちらかが装鎧少女であるはず。もしくは、両方が)
後者ということはないだろう。二重装着者となると、現在国内には存在しない。コタカッタでは歴史上の人物ということとなる。
王城の有力戦士でさえ、能力の高い装鎧少女を賜っているに留まる。それほどに装鎧少女は貴重なものだし、装着者も多くはない。装鎧戦士だけで軍を形成できるような類の戦具ではないのだ。
(装鎧少女の能力判定も、王城詰めのデレキセント司祭しかできないこと。それなのに、流しの装鎧戦士などとふざけたことを)
そこが男に疑問を感じさせたし、面白いとも思わせた。正々堂々と勝負を挑んできたところも好感が持てる。しかも、それが彼の装鎧少女の要望によってというのも、常識外れもいいところだった。
「近隣の街の教会が潰されていっていると耳にしている。お前の仕業か?」
「わかってるじゃん。だったら、対立する装鎧戦士がいるってくらい予想ついてんだろ?」
「ああ、まさかとは思ったが」
理由がまったく予想できない。本当に装鎧戦士であるなら、王国に士官したほうがよほどいい生活ができる。外国の戦士でなければ対立したところで得られるものがない。
「なにを欲してる?」
訊いてみたくなった。
「実績か? 賞賛か? 誰よりも強くありたいとかいう子どもっぽい欲求ではあるまい?」
「どれでもないさ。目的はその子の自由。あんたと切り離せればそれでいい」
「装鎧少女の自由、そんなものが……」
続きを言わせてくれない。
「そういう考えしかできないあんたにその子を預けておけない」
「お前はいったい」
「妖精種の解放者さ。どうしても知りたいってんなら、そう理解してくれ」
それまで、なんの気配も感じさせなかった青年の背中に気迫が満ちる。あまりの変化に戦士の筋肉が反応して足が止まってしまった。
「怖気づいたとか言うなよ?」
「言うか」
夕暮れの街壁の外は早く都に入りたい旅人が列をなしている。その集団を逆行し、街道脇の溜まりにまでやってきた。今は列の捌けたその場所では、少し先には麦穂が風に揺れている。
「いざ、勝負。装着」
「ビルドイン!」
王国のバトルスーツはそのへんの賊などがまとうものとは格が違う。鎧のような動きにくさを排除し、各部を硬質パーツで覆うもの。各関節も防御力は大きく落とさないまま動きやすさを追求している。
(先達より受け継いで洗練されてきた。劣ることはないと思っていたが)
青年がまとったものは一線を画していた。
鎧のような繋ぎ目を感じさせないでもないのに動きは極めて滑らか。それでいて、肌に一層を重ねただけのような部分さえ見て取れる。
最も目を引くのは兜の形状か。王国のものは基本的に鼻の先端から額のあたりまでを覆うバイザーがあり、そこを跳ね開けられる。ところが、青年のものにその気配さえない。
(目や額を覆わせないのは、妖精種の支配を受けないぞという意識の表れ。こいつはそこまでも平気で装鎧少女に委ねるというのか? 正気とも思えんぞ)
瞠目する。
「変身完了。さあ、来い」
「参る」
そこだけは装着時も変化しないようになっている腰に下げた剣。すらりと抜くと、剣身に魔法をまとわせる。剣本体の強度に加え、魔法の斬れ味を追加しなければ装鎧戦士の表層は断てない。それなのに、相手は体技で対抗するように身体をほぐしている。
「結局、お前がなにを思っているかまったく理解できなかった」
「わかり合えるとか思ってないさ。それくらい、あんたも汚染されてる。戻れないほどの環境の違いを生きてきたってやつだ」
「汚染だと?」
「だから、感性の差を今教えたろ?」
青年はステップを刻んでいたかと思うと飛び込んでくる。目標は大きい。戦士にとって斬撃を合わせるのは難しいことではない。
「うぬ」
「ぬるいって」
剣筋は間違いなく立っているのに刃は拳で止まっていた。普通なら確実に食い込んでいるはずの一撃が傷さえ与えていない。
「あんたが刃にまとわせている魔法ってのと俺の念動障壁、どちらが強いか勝負ってことだぜ?」
「なんと!」
当然といえば当然なのだが、青年は装鎧戦士同士の戦い方もわきまえている。そのうえで拳を固めて挑んできているのだ。
「嘗めてかかれば遅れを取ると思え、か?」
「そうさ。わかるくらいにはあんたも戦士だろ?」
ギルドの生身戦士を相手にすれば、目にも留まらぬ速度で斬り刻む斬撃の数々が緑色の戦士の拳に吸い込まれていく。弾ける火花が、ほぼ同等の打ち合いをしているのを証明していた。
「こっちからもいくぜ」
「ぬ?」
剣筋が微妙に逸らされ、ひねった手首で剣が絡め取られる。流れたところに、反対の拳が脇腹めがけて飛んできた。ただの拳打だと思っていたが、衝撃は生身を打たれたかのように伝わってくる。内臓がひっくり返るかと思った。
「げふぅ」
「油断してっと一分と掛からず動けなくしてやる」
たたらを踏んで下がった戦士は相手の強さを痛感していた。
次回『本格始動(5)』 「そんな感性しかないのが俺は許せないんだよ」




