本格始動(2)
「あーあ」
ティナレルザが処置なしという顔をする。
「いきなりの騙し討ちなんかするから、がれきの山を見る女司祭の顔ったらなかったじゃない」
正輝たちはすでにテノヘの街を離れて移動中。小妖精がわざわざバイクの彼のところに来るからなにかと思ったら説教らしい。
「そうですよ」
定位置の前シートに座っているエメルキアまでもが苦言を呈する。
「せめて、説得する努力くらいすれば如何です? あれくらい見目の良い人間女性であれば、味方にすれば人心を集めることだって不可能ではありません」
「でもさ、話聞いてたら確信犯もいいとこじゃんか。あれ、神の存在を疑ってもないぜ? んで、君たちを神がもたらした道具だとしか思ってないし、それが正しい世界だって信じきってる」
「彼女が常識にどっぷり浸かってるのは当然のことでしょ、司祭なんだから。それを改めさせるくらいの説得力ないと、敵しか作らないってルキは言ってるの」
「言ってるー」
ロナタルテはわけもわからず乗っかる。
正輝にもそんな思いはちょっぴり欠片だけなくもなかった気がしなくもない。しかし、教壇の彼女の話を一分も聞かないうちにうんざりしてきてどうでもよくなってしまった。
「結果どうなるっての?」
彼は反論する。
「ぶっ壊した育成室の子たちの目を見ろ。ほとんど、なにも見てない。自分を包む世界をなに一つ信じられなくなってる顔じゃん。聞いてみりゃ、あの女に『お前たちは人間にご奉仕するための道具なんだから黙って従うように』って四六時中説かれてたって言うんだぜ? 精気も最低限しか分けてもらえなかったって」
「そうだけれども」
「それなりに満たされてるはずの今だって、まだ飛ぶ気力もないから車に寝かせてある。しばらくリハビリしないと里にも送れない。一生ものの精神的外傷を負わされてるかもしれないってのにさ」
あまりのひどい状態に彼まで呆然とした。
「まあ、確かに」
「もし、あの女がちょっとでも反論してきてたら、俺、手控えする自信なかった」
「ええ、もし装鎧少女が一人でもいたらと思うと。マサキが殺意を抱いたとしてもわたしは止められなかったかも」
教会の妖精種の部屋には小妖精ばかりが七名いただけだった。それなのに、精気が行き届かないほどのキャパしかないのなら司祭なんて偉そうな顔をするなと思ったものだ。彼女たちを養う権利さえない。
「とりあえず、人目のないところまで行って、ランゼとあの子たちを満腹にする。それから精神的ケアをしないと次に手を出せない」
当初のペースで進めようとすると車のキャパシティさえパンクする。
「次もこんな状態じゃないのを祈るばかりだわ。ほんのちょっとでいいから妖精種に配慮してくれる司祭っていないものなのかしら」
「似たりよったりじゃね?」
「それで、マサキはがれきの連峰を築くわけね」
教会は完全破壊され街は大騒ぎになる。彼らは即行で逃げださなくてはならなかった。次もそんな感じになると思っている。
「議論は無駄そうですね。教団幹部は別の思惑があるにせよ、末端は思想に偏りのある方しかいないものと思うべきでしょう」
エメルキアの言は正しい。
「そのほうが使い勝手がいいからな」
「個々人を説得するなど、とても手間暇が掛かる行為だと覚悟しておきましょう。よほどの理由がなければ避けるべきかと」
「論ずるまでもないって。連中はがつんと精神的ショックを受けないと自分を省みる気持ちを持たないさ。それこそ、コタカッタ支庁がひっくり返るくらいの」
彼らの精神的支柱を折るくらいの心積もりが必要。
「支庁と全面戦争ね。ゾッとしないんだけど」
「そうか?」
「あのね。一地方の教団組織だっていっても、どれほどの装鎧戦士が所属してると思ってるの? この前の飛行隊なんてほんの一部で、戦力的には劣ってるほうなの」
ティナレルザが言うのもわかる。あまりの手応えのなさに慢心しそうになった。デレキセント教団の実効戦力はまだ動いていないはず。でなければ、王国に影響力を持つほど勢力の維持はできない。
「正直言って、まだ計り知れないんだよ。個人でどれほどの戦闘力がある手駒が揃ってるのかとか」
気になるところである。
「それ次第でさ、やり方変えなきゃならんかもしれないってのに」
「難しいところですね。わたしの意見としては、マサキより強い装鎧戦士が支庁レベルにいるとは思ってないです。でも、戦いに関しては不案内ですので、総合的な力はなんとも」
「王国に比べて、人材的な幅は小さいから質・量ともに落ちるとは思うわ。でも、かぶれてるだけ精神的には強い戦士が多いかもしれないし」
王国施設出身のティナレルザは教団支庁の内実は知らない。
「味を聞いてみるべきかもな。支庁とはいかなくても、わりと大きめの教団支部とかない?」
「あるけど、場所は都市内部。パッと騒がせてさっと逃げるって手が通用しないから」
「んー、どうしても街壁あるし、門衛もいることだしな」
都市は施設ごと破壊向きではない。狙うなら外に引っ張りだすしかないが、それには手管が必要で彼らにはその組織力が皆無ときている。
「道すがら教会をぶっ潰しながら、偵察にでも向かうか」
「それって脳筋すぎない?」
「のうきーん!」
思わず爆笑する一行であった。
次回『本格始動(3)』 「あれか。あれはそう手間の掛かるものではない。剣の手入れのほうがよほど金が掛かる」




