本格始動(1)
運転席のシートは背もたれを改造してワンタッチで装鎧少女仕様の高さになるようにした。引き起こせば正輝でも運転できる、いつもの高さになる。
「ふぅ、ペダル操作が必要だったらアウトだったぜ」
「もっと操作するとこあったほうが面白かったかも」
ランゼッタは運転を楽しむタイプ。エメルキアも苦労しながらではあるが動かせるようにはなった。あとは旅行きの間に慣れるだけ。
「ロナとルーザはどっちでも」
「ええ、雨のときは車にするけど」
「雨んときは俺も走らんわ!」
軽く皮肉られつつ車に荷物を積み込む。流体金属を置いていかなくて済んだエメルキアはほくほくであった。少女はまだ車重の嵩んだ車を動かす苦労に気づいてない。
「前にも話したけど」
里の面々に念押ししておく。
「こまめにメタルスライムを狩っておくこと。外に出てる分が少なければ進化種にまで成長することはないから」
「わかりました。必ず」
「マサキ様の狩り場ってことになってるから大丈夫だとは思うけど、人間に見つからないよう気をつけるわ」
テアクルセたち二人も含めて協議した結果、メタル進化種発生は周期性であるという結論に達した。流体金属の過剰採取も一因ではあるだろうが、大陸全土で同時多発的に発生しているところを鑑みるに直接原因とは思えない。
「メルメシル、例の件も頼む」
すでに一部の段取りはしてある。
「支庁の小妖精はすべて里に逃がせばいいのね」
「すばしっこいの何人か連れて迎えに行ってやって」
「全部引っこ抜いてきてやるわ」
それでデレキセント教団コタカッタ支庁の連絡機能は麻痺する。各地の教会にいる子を集めて対処はしようが、今度はコタカッタ領内全体の連絡網が希薄になる計算だ。
「それじゃ、またな。そうは空けないはずだ」
「はい、お帰りお待ちしております」
「できるだけ多くの同胞を助けてあげて。期待してる」
親指を立てて答える。
「おう。楽しい楽しい逆襲の始まりだぜ?」
「行ってくるー」
「流体金属はキープしておいてくださいね!」
騒ぐエメルキアの口を塞いで正輝はバイクを発進させた。
◇ ◇ ◇
まだ年若い彼女ではあるが、デレキセントの神様に捧げる信仰は経験豊富な司祭に負けないと思っている。テノヘの街はそう大きくないが、今日も多くの信者が教会を訪れて彼女の説教に聞き惚れていた。
「神はいつもわたくしたちを見守ってくださっております。その証拠に、大地の恵みと生命の雫を我らに賜られているでしょう?」
粛々と説く。
「ときに苦難も与えます。干ばつや大水、病の蔓延など、そんな試練もございますが、それは人の力で乗り越えられるものに限られております。例えばメタルビーストの発生など、とても人には越えられぬ試練のときがやってくると装鎧少女という神具を賜れ、乗り越えられるようにしてくださるのです。これは、地上を人の世界たれとお示しくださっているに他ありません」
老人は司祭の言葉に耳を傾け、日々の労働に疲れた者も教会では穏やかに過ごしている。子どもたちは憧れの眼差しで彼女を見あげ、首に掛けられ磨きぬかれた輝く教団シンボルに目が釘付けだ。
「あいかわらず立派な説教だったよ、司祭様」
馴染みの婦人が声掛けしてくる。
「いえ、それが神の真実であるからです。当然のように皆様信者の心に届くのは」
「でも、もったいないねぇ。あんたは神様にその身を捧げてこのまま独り身でいる気かい」
「それがわたくしの努めであるならば」
人々の幸せのために祈るのみ。
「ズインのとこのブダルマなんてどうだい? あれはあんたのきれいな顔を拝みに足繁く教会に通ってるんだよ」
「それはいけません。ここは神に祈るべき場所、そんな邪な思いであるならば一度説き伏せて差しあげなくてはなりませんね」
「そうしてやってくれ。あの子はそのほうが喜ぶかもね」
婦人の軽口であろうが、そうはいかない。人はあまねく神の子であり、御心に従い労働を捧げるために産まれてくる。そして、信心こそが世界を平和にするものであるからだ。
「こんにちは」
「はい、なんでしょう?」
司祭の心がときめく。その微笑みを浮かべた青年は静かな佇まいで彼女の前にやってきた。穏やかな面持ちで一礼してくる。
「旅の者です。こちらの教会に用があってまいりました」
「そうですか。わたくしでお役に立てるのでしたら」
(ああ、なんて素敵な殿方。しっかりと鍛えられたお身体。それなのに整ったお顔立ち。見事な黒髪に漆黒の瞳。装いこそ雑だけど、清潔にしていらっしゃる)
微笑みは崩さず、彼女をじっと見つめてくる。
(もしかして、これが神の思し召しの出会い? わたくしはこの方と結ばれるためにここに来たの? それが神のご意思であるならば喜んでこの身を捧げ、新たな生命を、新たな神の子を産みましょう)
心からそう思っている。それが彼女の役目だと確信した。
「いえいえ、君はなにもしなくていい。ただ、俺のやることを黙って見ているだけで十分さ」
「黙ってお任せすればよいのですか?」
「もちろん。ビルドイン!」
彼女の前でその男は光の粒子に包まれ装鎧戦士となった。
次回『本格始動(2)』 「結果どうなるっての?」




