始動準備(5)
まさにザコ寝という状態。車のフラットスペースに正輝が転がり、その周りに装鎧少女四人が思い思いに寝ている。さらにその上に小妖精が振りまかれているように散らばって寝息を立てていた。
(まさか、朝起きてもそのまんまとはな)
誰か寝苦しくなって運転席や後部シートに移動するものと思っていたのに、少女たちは横でぐっすりだったらしい。寝起きの曖昧な意識のまま、まどろみを味わう。
動こうにも腕は四人に絡め取られており、寝てる間もしっかりと精気補給をしていたようだった。心地よさそうな寝息の大合唱である。
「ん」
ふと寝覚めたエメルキアが身を起こして見まわす。そのまま二度寝しそうな勢いで頭をふらふらさせていたが、少しずつ目が開いてきた。
隣のランゼッタから揺り起こし、テアクルセやピトレスカも順番に起こしていく。やっと腕が解放された正輝は、上半身を起こして膝立ちの少女の頭を撫でた。
「油断しすぎじゃね?」
「んー、昨日、遊び疲れたみたいです」
口調もあどけない。
「そりゃよかった。人間のいるところだと気を抜きまくるのは無理だもんな。これからはなかなかそうもいかないぜ」
「ですね」
「水音、気持ちよくて寝すぎた」
せせらぎの音をバックにランゼッタもまだふわふわしている。
「いいよな、この感じ。癒やされる」
「なの」
「やれやれ」
膝上や足元に散らばる小妖精を持ちあげて揺すり起こす。皆で川で顔を洗い、竈の灰の奥で眠っていた炭から火を目覚めさせる。
湿気の多い河原なので森の中よりずいぶんと冷える。水を汲んで、鍋に入れておいた魚のアラを煮てスープにした。少し野草を放り込んでいるだけだというのに、やたらと美味しい。
「最高だ。英気は養った。里に帰ろうぜ」
「はーい」
身体が温まって起動した妖精種たちと片づけをして道具を車に乗せる。少々名残惜しそうなテアクルセとピトレスカを促して車に乗せた。それとなく察して助手席に座らせる。
「里には家がある。小妖精はともかく、装鎧少女を助けだしたら連れてくるしかない。つまり、再々帰ってくるから心配ない」
なぜ言葉少ななのかは予想がつく。
「それでも、マサキ様がいらっしゃらないのは寂しいです」
「そうだなあ。でも、これからはたぶん転戦の連続になるから気の休まる暇もない。ルキやランゼには苦労を掛けると思ってる。二人は里で応援していてくれると心強いな」
「そうね。旅慣れないわたしたちが無理に同行すると体調崩したりするかも。足を引っ張るのも嫌」
ピトレスカは考え込む。
「いつか、君たちももっと大手を振って暮らせるようにしてみせる。その頃には俺も腰を落ち着けて人間社会と対峙するようになるだろうから一緒に暮らそう」
「はい、楽しみにしております」
「うん、それまでは後方支援頑張るわ」
正輝は聞き分けのいい二人を引き寄せてハンドルを切った。
◇ ◇ ◇
里に帰ってもすぐ出発とはいかない。携行品の吟味をメインにいろいろと考えねばならない。そこでエメルキアと意見が対立した。
「せっかく作ったのですから車で行けばいいではないですか?」
積載量重視の少女は主張する。
「いや、機動性は常に確保しなきゃならない。バイクのほうがいい」
「でも、持っていけるものに限りがありますし、途中で困ることも多々出ると思います」
「しかしだ、もう教団には完璧にマークされてるはずだ。危険は避けたい」
予想してない遭遇戦もあり得る。
「では、装鎧少女を救助したときどうなさるおつもりなんです? バイクにはもう乗車スペースはまったくありません」
「う……」
「ここは、趣味に走るより実用性を問うべきです」
二の句が継げない反論をされてしまった。正輝とて心の隅で考えていた点である。一人なら無理やり乗せられなくもなかろうが、一度に二人以上となると完全にキャパオーバーだ。
「わかりましたね?」
少女は勝利宣言する。
「うう……、ライダーの魂を置いていかないといけないとは。戦いとはこうも虚しいものなのか」
「格好いい台詞で締めようとしても無駄です。現実はそうなのです」
「ルキ、マサキが可哀想」
ランゼッタが取りなしてくれる。
「うんうん、ランゼは優しいなぁ」
「わたしが厳しいみたいな言い方はやめてください。後悔しない選択肢を示してるだけです」
「それなんだけど、ぼくが車を運転するんじゃ駄目?」
新たな切り口を提示された。彼とエメルキアは顔を見合わせ手をぽんと叩く。
「その手があったか」
「盲点でした」
「盲点でもなんでもないし」
痴話喧嘩を見る目でランゼッタに見られる。二人して身体を縮こまらせてお詫びした。
「運転するんじゃ結構消耗する。休憩取れないほど急いでるときは二人で交代ってことになる」
バイクに乗ってる間は彼の精気を補給タイムである。
「そうですね。練習しなくてはいけません」
「ぼくが教えるからマスターして」
「それ以前に運転できる高さにしないといけない。補助シート作りからだ」
運転用のシートは人間仕様にしてある。身長がだいたい130cmあまりしかない少女たちでは普通に座って運転するのは不可能なのだ。
「てっきり準備終わってるつもりだったのに、まだ残ってた」
「大事なこと決めてないからー」
ロナタルテにまで指摘されて落ち込む正輝であった。
次回『本格始動(1)』 「楽しい楽しい逆襲の始まりだぜ?」




