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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
逆襲の始まり

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始動準備(4)

 正輝たちが遊んでいた淀みの上流にはもう石ではなく岩と呼んで差し支えないサイズがごろごろしている。その合間を急流が形作っていた。そして。流れ込みができあがっている。


「そっとな」

「あーい」


 注意はまったく聞こえない風情で、仕掛けを持ったロナタルテが流れ込みの上に。丸見えな状態なのに餌を落とすと結構なサイズの魚がピョンピョン跳ねている。


「おいおい、小妖精(リトルエルフィン)は自然の一部かよ」

「帰還ー」


 彼女が戻ってきた頃にはランゼッタの持つワイヤーラインには手応えが返ってきていた。にこにこになった少女が全身を使って手繰っている。30cm超えの川魚が針に掛かっていた。


「スレてないとはいえ、がっつきすぎ」

「面白い。そんなに川幅ないのにおっきいのいる」

「言っただろ? ああいうところ案外狙いめなのさ」


 暴れる魚の尻尾を持ちあげて自慢げにかざす。集まった小妖精の拍手喝采を受けていた。


「魚ってこうやって捕るものなのですね?」

 テアクルセは安易さに驚いている。

「普段はどうしてた?」

「見えていれば狙って魔法で叩いて」

「乱暴だな!」

 かなりハードめな漁だった。

「たまにちょっと口にするだけなので十分でした」

「ええ、肉っけは特にね」

「味わって楽しむって習慣がまだないんだな。今日は虜にしてやるぜ」


 魚はそのままエメルキアに手渡されて短時間で開きにまで加工される。燻製器に直行で煙に燻されていた。その間に次の仕掛けが投入される。

 石組みの臨時の生簀にどんどんと魚が放り込まれ、エメルキアのナイフを捌く手が止まらない。テアクルセも見様見真似で手伝う。


「わっ、すごっ! ど、どうすれば?」

「どうするもなにも、切れやしないから思いきり引っ張れ」

「あうあう」


 目をまわしつつピトレスカが引っ張る仕掛けにも40cm近い魚が掛かっている。陸に上がっても飛び跳ねている魚が怖いようで腰が引けていた。


「遠出の保存食にするから根こそぎいってくれ。どうせ、すぐに次の魚が泳ぎ着いて増える」

「一網打尽」

「釣りだけどな」


 目を爛々と輝かせているランゼッタと及び腰のピトレスカの対比が面白い。次々と上がってくる魚の処理に当たる正輝も、小妖精のやんやの歓声を受けて頑張った。


「釣れなくなった」

「さすがにもういないな。結構上がったろ」

「いっぱい。鱗取りする」

「うろこー」


 ランゼッタと二人、鱗取りに励めばエメルキアたちの開きへの加工速度も上がる。燻製器に入らないものは、すぐに初期乾燥されて天日に干されていた。


「なま臭いー」

「ほんと」


 たかって突付く小妖精(リトルエルフィン)を横目に、竈に焼き網を渡して半干しの魚を乗せる。程なく、香ばしい香りが漂いはじめた。脂がじゅくじゅくと溢れはじめると芳醇な旨味を連想させる香りにと変わる。彼の腹が空腹を音にして訴えた。


「うん、堪らんな」

「たまらないよー、マサキー」


 焼き上がりを皿に乗せて流体金属(メタル)製の箸でほぐす。待っていたランゼッタの口にひと口放り込み、興味津々の小妖精にも冷ましてひとつずつ渡していく。つまみ食いすると、口の中に旨味が一気に広がった。


「塩加減もばっちりだぜ、ルキ」

「そうですか? よかったです。スパイスも頃合いに仕上がってましたし」

「この、ピリッとが最高なんだよな」


 香りに誘われて飛びトカゲがやってくるが小妖精(リトルエルフィン)に念動力(サイコキネシス)で叩かれて撃退されている。今日は追い払うに留めておくよう言い添えた。


「お魚パーティー」

「いい感じだ。焼いた平パンも焼き直すか」


 軽く炙った平パンを千切って、皿に溜まっている脂を拭いて口に入れる。塩気と脂で他になんの味付けもいらない。思わず、「くー」と声が出てしまう。


「ぼくも食べたい」

「ほいほい」

「わたしにもください」

「ルキには魚の身を挟んだの作ってあるぞ」


 魚の処理に手いっぱいだった少女二人にはすぐに食べられるよう調理したものを渡した。頬張って笑顔になっている。


「こんなに美味しいものなのですね?」

「どこにでもあるものだろ。雰囲気だな」

「いえ、味わう楽しみを実感しておりますわ」

「うん、これいい」


 テアクルセやピトレスカも満喫している様子。小妖精たちは早々に満腹になって、干物と同じレベルで石の上に寝転がっている。その傍ら、彼は旺盛な食欲を発揮して数匹の魚を平らげた。


「そんなにお召し上がりになるのですね?」

「精気の元だからさ。やっぱ、君たちにあげる分は消費してる」

「たくましい身体をされているからかと思ってましたが、そうでしたか」

「精気だって、どこからともなく溢れてくるもんでもないってことさ」


 不思議そうに食べる様子を眺めていたテアクルセも納得する。ランゼッタも妖精種(エルフィン)の中では食べるほうなので一匹平らげていた。食習慣というのは、彼女たちとて生まれてからの環境に左右されるのかもしれない。


(結構楽しんでくれてるな。よかったよかった)

 皆の表情が和んでいる。


「ふう、食った食った。燻製は夕方までだな。今日はここに泊まり」

 かなり陽が傾いてきている。

「毛布もあるし、車でごろ寝でいいだろ?」

「そういたしましょう」

「あとで水浴びしましょうね」

「まだ浴びるのかよ」


 どこの世界でも女性はきれい好きなのだとマサキは思い知っていた。

次回『始動準備(5)』 「マサキ様がいらっしゃらないのは寂しいです」

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