始動準備(2)
「思いだせた?」
(おそらくは。絶対の自信はありませんけど)
「だいたいの感覚でって言ってあげたいけど、そういうもんでもないんだろうな」
正輝は変身してエメルキアと、とある方策の準備中だ。今後のネックとなる対策だけに軽くは扱えない。
「ここをパムール島と同じ禁域にする必要はある」
人が入り込んでくるような場所ではないが保険は掛けておきたい。
「川に面しているからさ。この前の聞き込みの感触だと、上流に特に有意義なものはないから無理して遡ってくることはないはず。でも、なにかの間違いがないとも限らない。認識阻害の結界で禁域化しとくべきだろ?」
(そのとおりではありますけど、わたしにゼアネルヒ様ほどの力は……)
「だから、変身してどうにかしようとしてるんじゃん」
彼から提案した。
(ですが、変身後の能力を装鎧少女に移譲するなど聞いたこともありません)
「君の念動制御能力も俺に移譲できてるんだから、逆ができないっていうのは道理に合わないと思わない? 幾らでも精気は使っていいから試してみる価値はある」
(ちょっとそこまでみたいな感覚で言われましても)
少女が危惧しているのはパワーバランスの偏りである。一部でもエメルキアに能力が移譲されれば、影響力が大きくなって正輝の自我に侵食が進むのではないかと思っているようだ。
「小さい力で試してみてもさ、結局やらなきゃなんないのに違いはないじゃん?」
ここで引けば、妖精種の里から離れにくくなる。
「ルキが気にしてる頻度の面もあるだろ? だったら、一発勝負のほうがよくない?」
(わかりますけど、わたしはマサキを害さないのが一番に来るんです)
「ありがとう。その気持ちがあるからこそ、俺はルキを全面的に信じられる」
(その言い方はずるいです)
あきらめの意思が伝わってくる。少女とてやってみるしかないとは理解しているのだ。正輝に禁域効果を実感できる感覚がない以上、エメルキアに任せるしかないのだった。
(やります。少し離れてもらってください)
「おーい、全体的にもうちょっとバック!」
里のメンバーは息を呑んで見守っている。大事なことだけに、見届けなければ気が気でないという心境であるのは明白だ。
(マサキ、境界は絶対に緩めないでくださいね?)
「了解りょうかい。そう言われても、維持してる自覚ないんだけどさ」
それこそ、やり方がわからない。
「力だけ流すぜ。制御は任せる」
(はい)
「そーれ」
基点となるスピリットシャフトを中心に、同心円状に念動力が働いているのが知覚できる。それは強大で、空間そのものを変質させるほどの影響力がありそうだった。
この結界は人の精神に効果を及ぼすだけでなく、認識そのものも幻惑するのだと理解した。いわば、視覚処理に影響を及ぼす認識阻害の一種だと思う。
(こりゃすごい。船でちょっとの位置の島を隠せるはずだ)
正輝は驚嘆する。
広がった空間のうねりはシャフトをセンターに置いたサークル状になって固まった。マサキの感覚がそう知らせてくるだけで本当はドーム状なのかもしれない。でなければ、空からなら見えてしまうはず。島はそうでなかったと聞いている。
(しかも、対人間だけに制限されているってのがすごい。もしかしたら、妖精種以外ってルールにもできたかもしれないけど、ルキがどこをいじればいいのかわからないんだからイメージもできないよな)
そこは妥協した。
(……できました)
「お疲れお疲れ。解除」
変身を解く。
「おお、ごっそり持ってかれてるな。精気が減ってる感触って初めてかも」
「わたしはもう無理です」
「もちろん。ゆっくり休め。今日はこのまま抱いててあげるからさ」
少女の裸体が復元されるとともに抱きとめる。抱えあげると、服まで再生されるのもそこそこに肩に揺すりあげた。片手を上げて里の皆に成功を伝える。
「すごーい」
ランゼッタが飛びついてきた。
「できたー」
「純粋に感動ものだわ」
「ルキをねぎらってやってくれ」
メンバーを受けとめる。
「これで半径500mくらいの円の中に人間はまず入ってこない。そのエネルギーはスピリットシャフトが負担するから若干は消費するだろうけど、全体量から見れば里の維持には影響しないはずだ。以上! 大成功だ!」
「やりました、マサキ様。素晴らしいです」
「本当に快挙よね」
「おう、ルキが主に頑張った」
テアクルセとピトレスカも嬉しそうに駆け寄ってくる。小妖精も合わせ、全員で喜びを分かち合った。彼らが本当の安全を勝ち取った瞬間である。
「まあ、この禁域の効果が俺に及ばないのがなぜなのか、未だにわからないんだけどさ」
そこだけは不可思議な点である。
「マサキ様が神であられるからでしょう」
「それ以外になさそうだわ」
「だから、それやめろ」
神様呼称復活は阻止せねばならない。
「ルキが元気を取り戻したらお祝いにしよう。さて、どうするかな?」
「釣りしたい」
「したいー。燻製食べたいー」
「おー、じゃ、川の上流にピクニックにでも行くか。全員で」
せっかくの禁域の外に出るのもなんなのだが、たまには気分転換が必要だろう。これから少し忙しくもなる。
(なんの縛りもなくジノグラフの常識に戦いを挑める)
マサキはそれが一番嬉しかった。
次回『始動準備(3)』 「うん、また女子校教師化してきたな」




