始動準備(1)
ウフルバ・ジーギラ戦公は、御前会議に属するうちの一人の臣公の招きを受けて王城に伺候していた。最近は特に大きな下命は賜ってなかったのでなにか相談事だと思いつつ御前に伺う。
「御前に失礼いたします。なにごとでありましょうか、陛下?」
円卓前に跪いて尋ねる。
「待っておったぞ、ウフルバ。ネルワ村の話は聞き及んでおろうな?」
「はい、ほぼ壊滅したと伺っております。ただし、そこからメタルビーストの足取りが途絶え、こつ然と消えてしまったと」
「意味のない報告書など陛下のお耳に入れるわけにもいかず、質す指示書を送ったところ追加の報告書が上がってきた」
臣公が説明してくる。
「街道がかなり激しい戦闘跡で荒れており、それ以降の痕跡がなかったそうだ。貴公に心当たりがあるのではないか?」
「大鹿の変異型メタルだと伺っております。であれば、おそらくマサキの仕業でありましょう」
「可能性ではなく、予想を返すか?」
「大鹿というのが本当であれば装鎧戦士二人以上でなくば歯が立ちませぬ。出動記録がなければ、それは未確認の装鎧戦士が動いたということ。私が訊かれるとすればそのあたりでは?」
コタカッタ王国諸公で接触したことがあるのは彼のみ。呼びだされ、問いただされるということは、臣公会議でも同様の予想が立てられた以外に考えられない。
「貴公なら単独討伐は可能か?」
国王に問われる。
「どうにか」
「では、件の飛びトカゲのビーストであれば?」
「厳しくありますが、作戦次第でぎりぎりというところかと」
国王は「ふむ」と顎を撫でる。
「ならば、そのマサキという者、貴公と同等かそれ以上の力ある装鎧戦士ということになる。ただの流れ者とするのはあまりに軽率と思えんか?」
「陛下のお考え、察するところではありますが、どうにも人物像と合致いたしません。畏れながら、他国の工作ではないように思いますれば」
「なぜじゃ?」
非常に答えにくい。いわば、感覚的なものであるのだ。それでは話にならないので、浮かびあがる理屈をこね合わせて構成する。
「途中でもの別れとなりましたが、マサキは当初、我らとの同行を良しとしておりました。自身の行動を王国に黙認させようとする思惑を感じたのです」
婉曲な言いまわしとなってしまう。
「具体的には?」
「率直に申しますと、目をつけられたくないので恩の一つも売っておこうという感じでありました」
「捕捉された以上は、ということか」
臣公も考え込む。
「貴公の言い方だと王国そのものはそれほど怖れていないように聞こえるが?」
「怖れているとお思いですか? 彼奴は平気でデレキセント教団を敵にまわそうとしているのですよ?」
「ぬう、そうよな」
集中攻撃されるのは困るので、とりあえず水を濁そうとしたと感じている。つまりは、王国と敵するにせよ、自分のペースに持ち込みたいという思惑があったと感覚は告げている。
「全体での組織力は王国の比ではないにせよ、末端に及ぶ力は小さいと読み解いているのだな?」
臣公の推測は正解だと思う。
「いざとなれば動員できる戦力は大きいにしても、目的を達すれば即時に撤退して姿をくらます電撃戦をしているうちは戦えると考えているものと」
「やはりか」
「ウフルバ、そなたはその装鎧戦士を王国の脅威足り得ると計るか?」
国王に問われる。
「なんとも。ただ、無視していいものではないとは思いまする」
「ふむ。では、これも危険か? ダファクリ、あれを」
「見よ、ジーギラ公」
臣公ダファクリ・メーゲレが彼の前に滑らせてきたのは紙の束である。パラパラとめくってみてもウフルバには理解できない部品の羅列であったが、最後のページに完成予想図があった。それは紛うことなき、マサキがバイクと呼んでいた金属の乗り物が描かれている。
「これは……」
言い淀んで臣公を見る。
「図面の写しである。職人ギルドが戦具の一つとしてどうかと持ち込んできたものだ。量産体制に入ると言ってな」
「それは如何なものかと。出まわれば、マサキの捕捉は困難になりましょう」
「そうよの。しかして」
国王は思案顔になる。
「生産を差し止めるのが有意と思われますれば」
「うむ。しかして、できぬと言おう。職人ギルドも国際互助組織。強権を用いれば国内産業は後退するであろう」
「職人が逃げますか」
締め付けをすればコタカッタから職人は流出する。結果として産業的にも技術的にも他国に遅れを取る。必然、国力は衰退し、戦争を仕掛けられる側に後退してしまうのだ。国王はそれを選べない。
「こうは考えられんか?」
ダファクリが提示してくる。
「生産は差し止められぬ。ただし、量産指示は可能だ。軍備として整えれば、貴公が申しておった追跡困難な状況は打破できる。かの者への対抗手段となろう」
「デメリットをメリットで均衡させることは可能とおっしゃられるか。確かに」
「では、その方針でよろしいでしょうか、陛下?」
判断は委ねる。
「許す。進めよ」
「御意。ジーギラ公もそのつもりで」
「承りましてございます」
それ以外に答えようがなかった。これまでは、どうにかなろうと思っていた局面は厳しくなるといえる。マサキが教団相手に講じる策を王国に対しても使えるようになるからだ。
「ウフルバ、あの者の目的をどう見る?」
「なんとも。ただ、我が装鎧少女がこう言っておりました。あれは『妖精種の宝』だと」
「妖精種の宝か。なにを意味するのかのう?」
ウフルバは正確な答えを返す自信がなかった。
次回『始動準備(2)』 「その気持ちがあるからこそ、俺はルキを全面的に信じられる」




