目立たなくするには(5)
職人ギルドの次に顔を出したのは狩人ギルド。定期的に行かないとどんな噂を立てられるかわからない。しかし、今日だけはそんな心配はなさそうだった。
「どうした、おっちゃん。バタバタして」
カウンターから吠えているおっさんに声を掛ける。
「お前さんか。流体金属を卸しにきたのか? ちょっと今それどころじゃない」
「なんで?」
「ネルワ村にメタルビーストが出たってんでな。第一報が三十分前に入ったばかり。キオーヌの警備隊でも常駐の装鎧戦士は一人だけで倒せるかどうか」
テンパっている。
「そっか。じゃあ、俺が行ってサクッと倒しとく。流体金属は総取りでいいだろ?」
「だから、あとで……、お前さんが倒すって? 大鹿のビーストだって話だぞ?」
「最近、狩りすぎたのかメタルスライムいなくってさ。手持ちも少なくて困ってたんだ。行ってくる。場所教えてくれよ」
目をまわしている受付に地図を書かせて預かる。戦士ギルドにも動員が掛かって依頼料が出るという話だったが聞き流した。
「待て。足の速いトカゲを手配してやる」
「いらないいらない。今日は車で来てる」
試走にはちょうどいいかもしれない。
「ネルワ村は走りトカゲでも六時間掛かるんだぞ? 間に合わない」
「大丈夫だって。先に行くぜ。警備隊には討伐確認だけしとけって言っといて」
「おい、そんな気楽に!」
「任せろ」
軽く手を振ってギルドを出る。運転席に飛び込むと、エメルキアとランゼッタも乗ってパワーユニットを始動してくれた。「フューン」と鳴くプロペラの音を聞きながらゆっくりクラッチを繋ぐ。
「な、真面目に工作してたら向こうから幸運が飛び込んでくるもんだろ?」
「偶然です。でも、メタル進化種はいただきましょう」
「ルキ、積極的」
大金は手に入ったものの、流体金属の残量が乏しくて口がへの字だった少女は湧き立つ。都を突っきって街門を飛びだした車は街道をひた走っていく。
「しかも、今回は車だ。流体金属は全部回収できるんだぜ?」
バイクとは積載量が比較にならない。
「もちろん、全部お持ち帰りです。これは譲りません。誰かが来る前にさっさと倒しましょう」
「ルキ、過激」
「かげきー」
ロナタルテも陽気な合いの手を入れる。
「目立たなくするって言って、結局目立ってない?」
「まだまだこれからだって、ルーザ。この車を飛ばしてみせるのだって宣伝になる。普及したらその中に紛れるだけ」
「勝手な言い分よね。まあ、そのとおりになるでしょうけど」
街道では、数多くの車をあっという間に追い越していく。最高時速が比較にならないのだから当然だ。他の一般的な車のように運転席が露出してないので、正輝たちの顔までははっきりと見られていないはずである。
「あれかしら? 煙がちょっと上がってるだけ」
四時間ほどで到着すると、遠目に見える集落から二本の煙がたなびいている。
「メタル進化種っていったって怪物じゃない。火を吐いたりしないじゃん」
「火を吐く? それってどんな魔法ですか?」
「俺の世界のモンスターの話」
少女は目を丸くする。
「怖すぎません?」
「実際にいたらな。想像の話さ。火炎放射器とかナパーム弾とか使う人間のほうがよほど怖い。こっちなら火矢的なやつだ」
「なんだかわかりませんが、すごく強そうな武器です」
話していたらネルワ村に到着した。家屋もかなり壊されている。煙の上がっていた家は竈が破壊されてその火が燃え移ったものらしい。
道端には人も倒れている。穴だらけにされてピクリとも動かないのは精気を吸い尽くされたあとか。胸に大穴を開けられている死体もあった。
「派手にやられてるな」
あまり悼む気になれない。
「こいつらだって、助かりたい一心で小妖精に速く飛べって強いるような連中ばかりだろうし」
「たぶん一報はそんな感じだったと思いますけど」
「被害は自分たちでなんとかすりゃいい。俺たちは大鹿のメタルを平らげるだけさ」
メタル進化種の行方がわからない。スピードを緩めてドアを開け、ロナタルテに飛んでもらう。彼女とて本気になったら車と同じ60km/hくらいの速度で飛ぶ。
「見える?」
「いなーい。でも、足跡あるー。追っ掛けよー」
「頼む」
青髪をなびかせる小妖精のあとを追っていたら、銀色の四足獣の背中が見えてきた。街道を順調に走っている。次の集落を襲うつもりかもしれない。
「でかくね?」
遠目なのにはっきりと見える。
「大きいですね。大穴を開けられていた人間は、あの角にやられたみたいです」
「そのうえにトゲも飛んでくるわ。足もトカゲなんかと比べものにならないくらい速い。要警戒よ」
「走りトカゲより素早くて機敏そうだな。獣系のメタル進化種は初めてだ。気をつける」
普通の車と変わらないサイズ感だ。重量も相当あると思われる。道に深い足跡を掘っているのも納得する。
「んじゃ、まいりますか。ルキ、ビルドイン」
「はい」
車を停めて降りる。走りながらキーワードを唱えると、助手席に座っていた少女が光の粒子に変じて追いついてきた。身体にまといつくとプロテクタが形成されて変身が始まる。
「よお、大鹿さん。うちの姫様が欲しがってるから流体金属に戻ってくれ」
正輝はパワーアップした走力でメタル大鹿と並走した。
次回『目立たなくするには(6)』 (プロテクタが割れるとか信じられないです)




