目立たなくするには(4)
庭から河原までゆっくりと走らせる。スタータープロペラからドライブプロペラへの切り替えもスムーズで、一度回してしまえばクラッチ板の繋ぎ方と回転数次第でスピードもコントロールできる。
「クラッチ操作用の導線をハンドルまで引っ張らないといけないのがな。流体金属成形部品に直接触れないと俺は操作できないし」
せっかく樹脂製にしたハンドルがやや不格好である。
「それくらいは仕方ない。人間は魔法の得意不得意が激しいってルキに習った」
「そうですよ」
「誰でも乗れるようにするにはこれしかないか」
助手席側のシートでも少女二人なら乗っても余裕がある。小妖精二人はダッシュボード部分に座り込んでいた。
「ちょっとスピード出してみよう」
「本意気までいっても大丈夫です?」
「まずは半分くらいで」
タイヤはバイクと同じオフロード仕様にしてある。なので、丸っきりクロスカントリー車そのものだった。河原のゴロ石でもちゃんと噛んで走りだす。
「すすす、すでに普通の車くらいスピード出てませんか?」
結構揺れる。
「サスペンションにも力入れたつもりなんだが、河原のゴロ石相手だと揺れるのは我慢な」
「これでも走ってくれるならとってもいい」
「結構パワーあるだろ?」
大型のドライブプロペラは一度回りだすと遠心力と慣性力も相まってかなりの出力を送りだす。重い車体も十分に駆動させた。
「うん、30km/hくらい出てるな。悪路でこれなら問題ない」
「軋み音もしないからちゃんと動いてる。タフに造った甲斐があった」
「とはいえ、一日中これは身体のほうがもたないな」
川を下流方向に進むと平地部分も出てきて快適になる。そこだと当たり前に40km/hくらいまで出せた。整備された道なら60km/h近くまで出るかもしれない。
「段違いだ。これなら売れる」
「成功」
ランゼッタとハイタッチ。
「一度帰って各部をチェックして問題なかったら図面に起こそう。それを売る」
「この車を売るんじゃないんです?」
「いや、技術を売るのさ。これを直接売るつもりはない。それに、スペックダウンしたものにする気だぜ」
バイクも車も予定どおり図面にして売る。ただし、パワーユニットはスペックダウンして、造ったものほどの性能を発揮しないものにする。いざというとき、スペック的なリードがないとカーチェイスになったとき危険だからだ。
「バイクも車もパワーユニットの中はプロペラにしない。かといって、回し車じゃパワー不足だから、回転ハンマーにするか」
「回転ハンマー?」
「プロペラの羽根のところに重いハンマーを何本も付けた形の回し車さ。パワーは出るけどスピードは出ない。空力抵抗があるからな」
プロペラの利点は風を起こせるのと抵抗が小さいところ。これを外重心のハンマーに置き換える。すると、動きは同じでも回転力で劣るという寸法だ。
「悪巧みするわね?」
ティナレルザもニヤリと笑っている。
「当然さ。いいものは自分で使う。外に出すときは性能を落とす。武器にもなる道具を作るときの基本だな」
「目的は幻惑のはずなのにそこまで下ごしらえしますか?」
「危険は極力排除する。いうなれば、周りは全部敵なんだぜ?」
正輝はハンドルを握りながら、素直すぎるエメルキアをたしなめた。
◇ ◇ ◇
「職人ギルドってここでいい?」
「はい、どんなご用でしょうか?」
正輝は受付の女性に確認する。
(荒くれも多いジャンルだもんな。当たりを柔らかくしてあるのか。でも、彼女じゃ図面を理解できないかもしれないな)
用件を告げる前に少し迷った。
「買ってほしいもんがあるんだけど、話が通じる人はいるかな?」
細工職人だと名乗って切りだす。
「承ります。見せていただいてもよろしいですか?」
「ああ、どうぞ」
「……これは?」
やはり難しいかと思う。
「こんな構造の車があるのですか?」
「え、車ってわかるの?」
「当たり前じゃないですか!」
受付嬢を嘗めていた。間違いなく職人ギルドに所属する女性である。考えを改めなくてはならない。
「申し訳ない。実はブクラハ遺跡の隠し部屋で見つけたのをレストアして動くようにした。それを図面に起こしたものさ」
用意していた嘘を並べる。
「実物があるんですか? 見せてください!」
「ん? ああ、外に停めてある」
「すぐに」
カウンターから飛びだしてきて腕を引かれる。外に出て、彼の車を目にすると口をあんぐりと開けて放心する。
「ああ、すごい。こんなものが」
受付嬢は震えている。
「よく、レストアできましたね?」
「噂を聞いてないか? 狩人ギルドに変わり者が出入りしてるって」
「あ、少し」
思い当たるふうだった。
「変な乗り物乗ってるってな。あれが俺だ。バイクっていうんだけど、その図面もここにあったりする。実は以前に伝手で手に入れたのを実用レベルに……」
「売ってくださるんですか!? 本当に!?」
「あ、ああ、対価次第だけどさ」
「言い値で買います! ギルド長には私が話を通しますから」
彼女の熱意は半端ではなかった。結局、車の図面が50万ディム、バイクの図面が30万ディムで売れた。かなり吹っ掛けたつもりだったので拍子抜けする。
「ほくほく」
「ルキの機嫌は金貨でも治るようだからよかった」
重い革袋を膝に置いて上機嫌の少女を隣に乗せて、正輝は妖精種の里へと走りだした。
次回『目立たなくするには(5)』 「いらないいらない。今日は車で来てる」




