目立たなくするには(3)
パワーユニットよりは操舵機構のほうが難物で、作っては行き詰まり、修正しては行き詰まりの連続だった。ランゼッタと一緒になってうなってる一時間などざらである。
「こうすれば車輪は回るし操舵もできるけどどうやって固定すんだよ。車体から浮いてるじゃん」
「車体ベースを乗せられない。じゃあ、吊る」
「吊るにしても固定しないと繋がらない。固定したら曲がらない」
「堂々巡り」
幼児用のオモチャの車でさえ乗って曲がることができるのに、それの仕組みがわからない。シンプルにはできても、それを採用はできない。
「これじゃ、ホイールアライメント取れないじゃん。まっすぐ走らないし」
「実験したけどぐらぐらだった」
「どこが間違ってる? 根本的に勘違いしてる?」
当然のように素案の図どおりに作っても話にならなかった。ふらふらとどこに進むかわからないものができる。
「別にパワーステアリングにしたいとか、電動ステアリングにしようとか難しいこと考えてるわけじゃないのに、どうして上手くいかない?」
「ぼくの案だと回るけどすぐに壊れちゃう」
「ある程度は単純化しないといけない。複雑にするほど強度が出なくなる」
脳みそが沸騰しそうになるほど考える。オーバーヒートして、少女と二人散歩しようとか言いだす始末である。
「まさか?」
閃きがあった。
「なに?」
「もしかして、輪軸一本じゃどうにもならないんじゃないか?」
「でも、芯がないとそこに乗せるのも、そこから吊るのも無理」
基本として考えている。
「いや、別に前輪は同じスピードで回らなくてもいい。それぞれに独立した軸を持っててもいい。固定さえできれば」
「発想の転換!」
「両輪の独立軸をサスペンションで吊れる構造にすればいいんだ。そうだ」
ここに至るまで実に三日。組んでは分解、組んでは分解をくり返し、試作品は数知れず。流体金属は回収できるものの、一度成形した金属素材のほうはどうにもならなかった。なので、かろうじてエメルキアのお冠を回避できているに過ぎない。
「今ひとつ自信がない。ミニチュアで作ってみようか?」
「そろそろルキの目が怖い」
本人たちは至って真面目なのに、遊んでいるように見えるのかもしれない。もしかしたら、構ってあげられないから不機嫌な可能性もなきにあらずなものの、正直言って余裕がない。
「で、できた?」
「これなら曲がる、と思う」
それっぽく仕上がったときはランゼッタと抱き合って喜んだ。少し涙ぐんでいたかもしれない。それほどに模索の日々であった。
「ルキぃー、ちょっと手伝ってくんない?」
「……別にわたしがいても邪魔なだけでしょう?」
すでに危険領域だった。
「いやいや、そんなことない。パワーユニットの試作なんだ。プロペラの、あの微妙な曲線なんか、一緒にバイクを作ったルキじゃないととても出せないしさ」
「そこまで言うんなら付き合わなくもありませんけど」
「やろうぜやろうせ、一緒にさあ」
ベタベタしてるとややご機嫌も直ってきた。駆動機のほうは熟考していただけあってほぼ頭の中で完成している。動力を後輪に伝える機構だけは若干吟味したものの、順調に試作に成功した。
「さあ、造るか」
「すでにガラクタの山なんだけど」
ティナレルザに皮肉られた。
「それは置いといて」
「置いとけるか! まずは片づけなさい!」
「ルーザが怒った」
すでに流体金属も抜いてしまったので成形もできない。本当にガラクタだった。都には溶鉱炉もあるようだが、そこまで運ぶのも手間である。
「仕方ない。川に放り込んで魚の住処にするか」
「ぼく、まだ釣りもしてない」
「思いだすな思いだすな」
庭のお片づけをしてティナレルザの許可をもらってから建造に入る。両方の前輪と後輪の輪軸まで作ってから車体ベースを吊りさげる。一番重くて大変な部分はクリアした。
パワーユニットの作り付けをして後輪の輪軸に接続。ハンドルから連なる操舵装置を前輪に接続したら走る仕組みだけは完成した。
「車っぽくなってきた」
「いい感じ」
「どこが? 車とはぜんぜん違うじゃない」
ティナレルザが連想しているのはジノグラフ従来の車の形で、正輝の想像しているのは元の世界の車である。齟齬は致し方ない。
「ここからだって。できあがったらルーザだって感動するから」
「まだ、その片鱗も見えないわね」
空いたスペースに木製のシートを固定していく。真ん中に座るパワーユニットが大きいので、後部は縦置きベンチシートになる。その後ろは積載スペースだ。
里の小妖精に頼んで集めておいてもらった糸の木の綿でクッションを張り、乗り心地にも配慮する。ボディを被せてドアを付けたら形になった。
「車っていうより金属の箱みたい」
「これでいいのさ。雨風なんてものともしないぜ?」
「確かにそうね」
エメルキアに頼んでおいた強化ガラス製のフロントガラスやドアガラス、リアウインドウなどを取り付ける。少々不格好だが本当の車になった。形状はスポーツカーには程遠く、サイズ的にもほとんどクロスカントリー車である。
「でかいわ」
「乗れる人数と積載量を実用的に考えるとこうなる。ただ、とてつもなく重い」
「本当に走るの?」
「それをこれから確かめよう」
正輝は皆に乗り込むよう促した。
次回『目立たなくするには(4)』 「この車を売るんじゃないんです?」




