目立たなくするには(2)
「でも、これって本当に車の一部? おかしくない?」
「これでいいのさ」
ティナレルザの指摘に正輝は応じる。
疑問に思うのも当然だ。その簡易図面だと、前輪は後輪と同じ幅を持っている。この世界の車とあまりにも構造が異なるからだ。
「ちゃんと動くの?」
「ああ、動く。はず?」
ジノグラフの車の前輪は二輪ではあるものの、そんなに幅のない舵輪になっている。運転者はバイクのようなハンドルを操って車の進路を変える仕組みになっていた。
しかし、彼の作ろうとする車だとそれでは困る。なにせ、パワーがあってそれなりにスピードが出てしまう。その駆動力に今の舵輪構造を当てはめると、すぐに横転する車ができあがってしまう。それでは売り物にならない。
「丸いハンドル」
「面白いだろ?」
ランゼッタはにこにこだ。前に、彼女に面白いことの手伝いと言ったのは新型車両のこと。この世界では特異である構造は興味を惹く対象であるはずだ。
ただし、その地球では当たり前の前輪操舵方法を正輝は詳しく知らなかった。なので、小さい頃に作ったプラモデルの知識を基に解き明かそうと苦労していたのである。
「ここに歯車を噛ませることでハンドルをぐるぐる回しても車輪はちょっとしか曲がらない。すると、行く方向を定めるのが簡単になる」
仕組みを説明する。
「本当だ」
「結果、車のスピードが速くてもすぐには横転しなくなる。急激に舵輪が曲がったりしないからさ」
「無理のない感じになるね」
現在使用されているジノグラフの車はリヤカーに動力を付けたようなもの。しかも、木製でスピードもせいぜい20km/h台しか出ない。それなら従来の舵輪構造でもほとんど問題は出なかったが、彼が作ろうとしている車では問題が出るので工夫が必要だった。
「理屈はわかりましたけど、そんなにスピードの出る構造ってできるのですか?」
エメルキアが疑問を呈する。
「わたしたちならそれなりに魔法が得意ですが、人間だと得意不得意が出ます。誰でも使えるようでないと、それこそ売れないと思うのですけど」
「もちろん、そこを解消してあるから操舵機構に頭を悩ましてたのさ」
「どうなさるのです?」
正輝は新しい紙を引っ張りだして簡易な構造を書きはじめる。それは大小の二重プロペラ構造を持つ新たなパワーユニットだ。
「この小さなプロペラ、バイクのより小さいだろ?」
指さして窺う。
「はい、小さいですけど」
「小さいから、小さな力で回せる。小さなプロペラを回した力を歯車でこの大きなプロペラに伝達してゆっくりと回しはじめる。すると?」
「小さな力で大きなプロペラ回せる!」
真っ先に気づいた少女がいる。
「正解だ、ランゼ。で、大きなプロペラが回りはじめたら?」
「そんなに力入れなくても大きなプロペラ回せる」
「ご名答。結果として、始動にそんなに大きな力のいらない、パワーのある駆動機構の出来上がりってわけさ」
これはバイクを走らせるときに、最初は念動のパワーを多く必要とするが、プロペラが回転しだしたらそうでもなくなるという少女たちの意見に着想を得たもの。スタータープロペラとドライブプロペラの二段構えの構造によってパワーとスピードを引きだせる機構である。
「すごい。マサキ、頭いい。早く作りたい」
ランゼッタは夢中になっている。
「ああ、作りたいな。でも、作るとなるといっぱい流体金属を使っちゃうんだよな。ルキが許してくれるかな?」
「ルキ、お願い」
「うう……」
ランゼッタの期待の眼差しにうろたえるエメルキア。
「仕方ありません。これからの身の安全のための投資です」
「よし、きた。作ろうぜ」
「作る!」
「つくろー」
なんとなくノリで付き合うロナタルテを含め、新居の庭で工作が始まる。テアクルセやピトレスカはまたなにか始めたと呆れ気味に眺めている。二人はまだ、できたばかりの塔、命名『スピリットシャフト』が日々どれくらい消費されるか管理に忙しい。記録と残量を見比べている。
「本当は勾配に強い前輪駆動にしたい。でも、前輪は操舵機構を組み込むので手いっぱい。ここは涙を飲んで後輪駆動にする。あまり複雑にすると、作り手に困って売り物にならなくなるのもある」
こだわりにも限界がある。
「まずはちゃんと走るもの作る」
「そうだな、ランゼ。一発目からコケてたら先が思いやられる。まずは確実に成功に導こう」
「そうじゃなくても、これ、結構作るの大変」
操舵機構だけでもうなっている。
「パーツ数も多いし、今まで試したことない板歯車もあるからな。ホイールアライメントの部分も複雑だ。大仕事になるぜ?」
「いっぱい遊べる」
「できるだけ節約できませんか?」
エメルキアが青くなっている。今、持っている流体金属を全部使いかねない勢いだからだ。そうでなくとも、スピリットシャフトやサンルームを作るときに結構消費している。
「今日は必要部品の洗い出しくらいにして、明日の午前中は鍾乳洞周りのメタルスライムを根こそぎ狩ってくるか」
「そうしてください。わたし、泣きそうです」
「わかったわかった。ランゼもそれくらいは待ってやれるな?」
「ルキがヘソ曲げるの困るかも」
正輝たちは話し合って妥協点を決めた。
次回『目立たなくするには(3)』 「ある程度は単純化しないといけない。複雑にするほど強度が出なくなる」




