妖精種の里に(4)
塔の建築二日目の午前中、四日ぶりに精気の間欠泉が湧いた。まだ下段しか完成していなかった塔が煙突みたいにしぶきをあげる光景を眺めることになる。
「こうなるか」
再びのお祭りでテアクルセ始め妖精種たちがぐしょ濡れになる中、退避していた正輝は間欠泉が止んでから近づいて建設中の塔を見つめる。明らかな変化が認められた。
「内側が光を帯びてますね?」
「ああ、外側はそうでもない。精気がストックされると光ると思ってたが、意外と差が出るか。ちょっと設計に修正が必要だな」
内側は昼間でもそうとわかるほど光っているのに外側にまでは及んでいない。このまま閉鎖式の塔にすると精気がストックされているか否かが外観からはわからなくなる。
「上二段のリングには窓を付ける。ルキははめ込みガラスを作ってくれないか? リングのほうは俺とランゼで進めるから」
「わかりました。透過性重視ですね」
形の打ち合わせをしてからそれぞれの作業に移る。デザインも気にしがちのエメルキアは上下に長い楕円形の窓を付けたいという。対角に二つ、二段で互い違いにして、四方から確認できる構造に決めた。
「これで塔の上に蓋をすれば完成です」
少女も満足げだ。
「それっぽく尖らせよう。別に意味はないけどな」
「そんなことはありません。妖精種の里の中心になる主要設備になるのですから」
「そうかも」
尖り部分は一遍に作って上に乗せることにした。塔の中と外から窓越しに見つめ合っているロナタルテとティナレルザを覗き込んだ。
「おーい、出てこないと閉じ込めちゃうぜ?」
「いやー!」
ロナタルテは慌てて出てきた。
「マサキのいじわるー」
「痛て。引っ張るな。事前に言ったろ?」
もみあげを引っ張るロナタルテをそのままにして最後のパーツを置いた。なにしろ両手が塞がっていたのだ。エメルキアとランゼッタを足場に引きあげて接合してもらう。それで塔の竣工だった。
「できあがりー!」
「完成」
ロナタルテとランゼッタが手を取り合って喜ぶ。
「できたことはできたが機能するかどうか。そいつが問題だ」
「午前の噴きだしで確認できたから大丈夫だとは思いますけど」
「次の湧出で確認ね。気の長いことだわ」
見守っていた隠れ里の小妖精たちも舞い踊って喜んでいる。最初は難色を示した子も最後のほうは一緒になって作業していた。団結力の結晶だけに失敗したくないものだ。
「ありがとうございました」
「お祝いは確認してからのほうがいいかしら?」
「そうしよう。俺はちょっと出て……、いや、残る約束だったな」
失敗したときに妖精種全員の精気供給源にならなくてはならない。最初からそういう約束だった。
「どこにいらっしゃるので?」
「キオーヌに。便宜的に狩人ギルドに登録したんだよ。ずいぶんと空けたから怪しまれるかもしれない」
物資調達に戻りにくくなる。
「これほど骨折りしてくださってるマサキが裏切ると思っている者はおりませんわ。どうぞ、行ってらしてください」
「助かる。明日中には戻る」
「ぼく、残る。だったら不満は出ないはず」
ランゼッタが志願する。
「大丈夫か?」
「いい。それより塔が機能するか見てたい」
「いい子だ。お土産買ってきてやるからさ」
話し合いの結果、ランゼッタとティナレルザが残ることになった。奇しくも、パムール島メンバーで移動することになる。
「夜になっても走って戻る」
「無理しなくてよくてよ。気をつけて」
ピトレスカの信用も得たようだ。
森を出る前に日が暮れてしまったが、どうにか外に抜けたところで夜営した。少女と小妖精と一緒に毛布にくるまっていると郷愁がある。
「あれからずいぶん経っちゃったな」
「それほど離れているわけではないのに島が懐かしい気がします」
「でも、毎日いろいろあって楽しいよー?」
つらつらと話しながら眠りについた。
次の日は朝から走って午前中にはキオーヌの都に到着。その足で狩人ギルドに入る。受付に流体金属の革袋を置くと担当のおっさんが顔を見せた。
「久しぶりじゃねえか。どこかに雲隠れしたのかと思ったぞ?」
皮肉られる。
「俺たちは元から流れ者なんだよ。野営なんてお手のものなのさ」
「妹さんは?」
「宿で休ませてる。今日はこいつだけ」
エメルキアを示す。
「なんたって、ビーストが出た所為でメタルスライムが減ってる。集めるのに苦労したんだぜ?」
「そりゃ申し訳ない。これが今日の分だ」
「まいどあり。妹に美味いもんでも買って帰ってやるか。それじゃまたな。ひと月やそこら帰ってこなくても心配いらないから」
前振りしておく。これで変な噂が立つのだけは回避できるだろう。偏屈なメタルハンターだとは思われるだろうが。
「早く麦粉とお土産買って帰ろう。俺だって次の湧出の瞬間が見たい」
苦労の結果を確認したいのだ。
「ですね。ランゼへのお土産はなんにします?」
「変もの好きだからな。道すがら探す。そうだ、みんなのために生地も目いっぱい積んで帰らなきゃなんないんだった。忙しいぜ?」
「いそがしー」
正輝たちはキオーヌの都をばたばたと駆けまわった。
次回『妖精種の里に(5)』 「習慣というのは怖ろしいものですわ」




