妖精種の里に(3)
塔の高さはしぶきが上がっていたのとほぼ同じ3mとする。フレームを立ててそこに外装板を貼りつける形式となるので、徐々に積みあげながらとなる。足場を立てながら作業を進めていく計画だが、まずはフレーム基礎を地面に打ち込むところから始めなくてはならない。
「こんなに打ち込むものなのですか?」
ハンマーを持つ正輝にエメルキアが訊く。
「本当は高さと同じだけあると確実らしいけど、今回は中身は空だし自重もあるから半分くらいでいいかと思ってる」
「大変じゃないです?」
「人力だとな。しんどいぜ」
学生時代に日雇いバイトで一日だけ行った建築工事現場で耳にしたにわか知識である。失敗したらそのときくらいの、ほぼ推測だけで進めている。
「入らないな。普通は機械でやるもんだし」
半分くらいで叩けども叩けども入らなくなった。
「他に方法は?」
「掘って埋めるって手もあるけど、湧き水の傍じゃ水浸しになるから掘れないじゃん、ルーザ」
「見たらわかるわね」
ティナレルザも肩をすくめる。
「失敗。リセット」
「あきらめるの?」
「いや、打つんじゃなくてねじ込もうと思うんだ、ランゼ」
半分打った杭は引っこ抜いて別の杭を準備する。今度はギザギザにネジを切った杭にした。打つのではなく回転させて地中へと掘り進む方法。
「最初からこれだったわ」
「そう言うな。俺だって手探りなんだよ」
「楽ちんだー」
杭に横木を括りつけて回すと簡単に入っていく。彼が回している横木の反対側をロナタルテが飛んで押しているように見えるが、実際は掴まってるだけに等しい。
「杭は四方に打てたからフレームを接合して上に伸ばしていこう。ルキ、さっきの失敗作、洗えた?」
少女に頼んでおいた。
「泥は水で流しました」
「それはフレームに転用するから上にくっつけてくれる?」
「はい。では、接合しますね」
装鎧少女たちの合成、成形能力なしでは語れない。正輝はランゼッタとイメージ共有して他のフレームを作り接合していく。
「とりあえず半分上がったから外板を巻いていこう。しかし、直径1mで高さ3mじゃ塔っていうよりモニュメントみたいだな」
思ったよりずんぐりしてスマートさはない。
「見た目じゃない。機能性。それもまた美」
「わかってるじゃないか、ランゼ」
「バイクで学んだ」
外装板を作って円弧にする。地面に置いて、計画どおりの直径になるよう曲げを確認しながらパーツを成形していく。できたら貼りつける前に外側に木ヤニを薄く塗って乾燥固化した。
「1リング目完成。この作業を上に向かって進めてく」
一段目50cmが立ちあがる。
「案外地道?」
「当然だ。一遍に上げようとしたら、一個のパーツが重すぎて作業にならないだろ、ルーザ?」
「考えながらやってるのね。てっきり、変身したパワーでやるのかと思ったわ」
「その手もあったか」
方針転換してもよかったが、変身フォームで作業すると今度こそ土木建築ライダーになってしまいそうなので踏みとどまる。試作品だ。今後はくり返し作業できるように手順を確認するのも大切になる。
(たぶん、こういう泉が各地にある。それを中心に妖精拠点を設置することになるから、いろいろ試しておく必要がある)
正輝はそう考えていた。
人間に頼らず、一定量以上の精気の供給手段を講じるとなると他に考えられない。これからすることは、すべて試行錯誤のうえに成り立つ。
「休憩なさりながらにしてくださいね」
テアクルセが主に彼のために食料を準備してくれる。
「ありがとう。このへんのトカゲは、トカゲのわりに肉が柔らかくていいんだよな」
「森の奥ですからね。餌が豊富にあるからでしょう。小妖精たちには主にフルーツトカゲを獲ってくるように言ってます。味もいいですから」
「それでかあ。サンキューな」
癖もあるけど味もある。いい感じのトカゲ肉を焼いたものを出してもらっていた。普段食べないのに塩加減も上手だ。
「そういえば、ルキが彼女たちにスパイスの種類を教えてやってんだろ?」
ここの妖精種にはスパイスの文化が乏しかった。
「ええ、ちゃんと教えて乾燥に入ってます。今週中には、まだ若いですが使えるようになるでしょう」
「若い? 熟成が足りないって?」
「はい。まだ、味は尖ってると思います。時間を置くとまろやかになりますので」
スパイスのこだわりに関してはエメルキアの右に出るものはない。彼女もゼアネルヒに伝授されてマスターしたクチ。大陸の環境から逃げだした妖精種は人間の食文化しか知らず深みはイマイチだった。
(ゼアネルヒ様がどれだけの時間を生きてきたかの証明だよな)
それだけにエメルキアも誇りを持っている。
「ここの料理もさらに美味しくなってくわけだ。楽しみだな」
どんどん豊かになっていくといい。
「いただくのはほとんどマサキだけですけどね」
「食べる楽しみのほうもちょっとずつ教えてやってくれよ」
「そうですね。生きる楽しみにも繋がっていきますので」
ただ、逃げ隠れて暮らしているのでは味気ない。楽しく幸せに暮らせてなければ意味がない。それを妖精種たちにも知ってほしい。
正輝はいろいろな方策を頭に巡らせた。
次回『妖精種の里に(4)』 「俺はちょっと出て……、いや、残る約束だったな」




