妖精種の里に(1)
報せが来たのは三日目の夜中だった。起きた正輝が精気の泉まで行くと、もうそこはお祭りの様相である。
「こりゃまた……」
さすがに絶句する。
湧き水は盛大に湧きあがって、水そのものが彼の目にもほのかに発光しているとわかる。桶の流体金属も盛んに発光しており、泉の広場全体が薄明るくなっていた。
そこに小妖精が乱舞する。雫を浴びて笑いさざめきながら飛びまわっていた。テアクルセやピトレスカも両手を一杯に広げて精気の泉を浴びて摂取している。
「意外と長いな」
彼は輪から外れて胡座をかいて眺めていた。
最初は輪に加わっていたエメルキアやランゼッタも彼の膝に戻ってくる。ロナタルテとティナレルザも肩に座っていた。
「どうした? 満腹か?」
促しても動く雰囲気ではない。
「なんというか、これ、見たまんま清水みたいなものなのです」
「そう、味がしないものを食べてるみたいな」
「栄養源としては十分なんですけど、マサキの味を覚えてしまったら」
怪しげなことを言う。
「マサキのは味がいいの」
「とっても美味しー」
「人間の精気ってそれぞれに癖があるものなんです。少しだけ好き嫌いもあって、マサキの精気は誰が食べても極上と思えるもので」
大人気の理由が判明した気分だった。もちろん、それなりに人柄も評価されていると自負もあるが、彼が慕われるのはとても美味しいかららしい。
「ちょっと落ち込む」
脱力する。
「他にいいところ、いっぱいあるのよ?」
「そうです。マサキはとてもよくしてくれてますけど、味がいいのも嘘じゃなくて」
「あなたなしではいられなくなってー」
ロナタルテはわざと妙な表現をしている。
「これはきれいな水。生きるのに絶対必要。マサキのは極上の栄養満点スープ」
「そりゃよかったよ、ランゼ」
「本当のこと言っちゃ駄目です」
妖精種を悶えさせていたのは、これまでに味わったこともないほどの美味だったという。それで、どの子も彼から離れたがらなかったのだとすれば、少々虚しくなってきた。
「気にしてる暇ないか。まずはこいつが問題だ」
「湧きでる精気になにか問題でも?」
「いや、これが間欠泉なのが問題であって精気そのものに問題はない」
今はいい。お祭りになるのも理解できる。しかし、これが三週間も絶えるとなると、テアクルセたちはかなり厳しい状況になるだろうと説明した。
「おっしゃるとおりだと思います。二週間ほどで飢えを感じるかと。流体金属の桶はそれを補完する努力の表れですね」
少女も認めた。
「うん、こいつは管理されるべき。湧いている瞬間の無駄が多い」
「ほとんどが漏れだしてしまってるわね」
「水と一緒に大地に染みてしまってます」
妖精種が一身に浴びようと試みてもすべてを受け止められるわけではない。彼女たちにも満腹という状態はあるようだからである。
「思うに、これはたぶんゼアネルヒ様が言ってた地脈から湧きでる精気なんだろう」
そういった意味のことを言っていた。
「パムール島だとゼアネルヒ様が柱となって受け止めていた。それをストックして周辺の子は分け与えられていたはずだ。あの方はキャパがすごかったんだと思う」
「ええ、吸いあげているとおっしゃってました」
「だから、こんなふうに間欠泉にはなってなかった。周囲が飢えに苦しむ心配もなかった」
そう考えられる。
「すると、テアかトーレスがその役目をすればいいんでしょうか?」
「いや、たぶんだが熟練も必要だろう。それ以上に素養も」
「二人では難しそうですね」
地脈に手を伸ばす能力。そして、それをコントロールするだけの力。二つを兼ね備えるとなると一朝一夕のこととはならない。それこそ百年単位の経験がものをいうと思われる。
「ゼアネルヒ様の代わりになるものを考えなきゃな。ヒントはそこにある」
流体金属の桶を指さした。
「もしかして、あのプールをここに移すとかおっしゃるのですか?」
「そんな泣きそうな顔すんなって。それだけじゃ効率悪いとしか思えない。もうちょっと小細工が必要だ。ちょっと実験してみようぜ」
「どうすればいいんです?」
手持ちの流体金属とニッケル鉄を合わせて成形素材にする。合間にバイクも持ってきてあったので積まれていたものだ。
エメルキアに作ってもらったのは30cmもある深底のコップのようなもの。それを逆さにして泉に沈めておいた。噴きだす水はコップの内側を洗っていることだろう。
「そろそろか?」
話に聞いていた三時間ほどで精気の間欠泉は終わりを迎えた。
「光ってるな。これはイマイチか?」
「考え方的には悪くないかもしれません」
「でもな、光が漏れてるってことは精気を放散しているのと同じ。具合が悪い」
桶に溜めた流体金属と大きな差はない。
「金属は精気の導体にもなる。駄目だ。不導体のもの、表面を樹脂でコーティングしてやるか」
「漏出を最低限にしてストックする構造にする?」
「そうだ、ルーザ。ここに塔を建てよう」
ゼアネルヒの代わりに精気をストックする構造体。それを塔として建立する作戦を練る。成功すれば、定期的に湧く間欠泉の精気を貯めて、小分けにして摂取するのが可能となる。
正輝は構造と、それに必要となる素材を頭の中で勘案した。
次回『妖精種の里に(2)』 「失敗に備えて約束の履行はわたくしがマサキへ強く主張させてもらうつもりです」




