狩り場深部探索(5)
テアクルセとピトレスカの案内で正輝たちは妖精種の隠れ里に立ち入っていく。とはいっても、ここからここという範囲があるでなし、雑木林が若干整然とした林に変わったという見た目でしかない。
植生が整えられ、隙間の落ち葉が清められたところに陽光が降り注ぎ草花が生えている。合間にちょっとした踏み固められた場所の土が露出しており、そこが道だとわかる程度のもの。
(人間の村みたいな集落とは全然違う趣だな)
いうなれば、広めの果樹園の中を散策している感じ。
大きめのオープンスペースに小屋が三軒ほど建っている。こちらはエメルキアが島でこしらえていた小屋よりは立派なもの。家に近い構造を持っていそうだ。
小屋の一つは川に面しており、なんと水車まで回っている。聞くに、洗濯などの動力に用いているらしく、小屋そのものも納屋みたいな使い方をしているという。他の二軒が二人の家と、小妖精たちが雨を凌ぐ場所なのだそうだ。
「雨を凌ぐ?」
「この子たちは特に寝台を必要としませんので。雨風がなければ木々の枝などで休んでおります」
言われて思いだす。パムール島でも木々の枝や草むらの上で寝ている小妖精をよく見掛けていた。とにかく、精気を放つものに触れて眠る習慣がある様子だった。
「なので、こちらはこんな内装になっております」
「なるほどな」
大樹に備え付けのように建てられた小屋は一本の枝に貫かれており、幹にも幾つもの台座が張りだしているだけのもの。雨風が強い日は、そこに身を横たえて眠っているのだとすぐにわかった。
床もなく土間になっている。窓が広く取られ、芝生のような草が一面に繁茂していた。一緒にやってきた小妖精がいつもの生活を示すように、そこにダイブして楽しんでいる。
「こちらがわたくしとピトレスカが住んでいる家です」
「うん、こっちは普通の家だな」
一番大きな作りの小屋にはちゃんと床もあり、寝台やテーブルが設えられている。キッチンスペースは土間になっていて竈も作られていた。このあたりはエメルキアの家と大差がない。仕切りが最低限しかないところも似ていた。
「人の建てるものとはかなり趣が違いますので粗末に思われるかもですが」
「きっちりとした作りにするには大変な労力が必要だもんな。木の枝を快適と感じる生活をしてたなら、このくらいがちょうどいいって感じるだろう」
お茶を出されるも、満足な数の家具もなくテーブルは手狭だ。正輝は土間との段差になる場所に腰掛けてもてなしを受けた。
お茶請けも焼き菓子などでなく、フルーツや花ネズミの揚げたものが出される。それらも、ほとんど嗜好品の域でしかない。
「本題に入ってもいいかな?」
彼は切りだす。
「この隠れ里だけじゃテアとトーレスは暮らせない。暮らせたとしてもぎりぎりで、そんなに元気ではいられない」
「おっしゃるとおりです」
「そもそも、繁殖形態にまで成長するわけがない」
隠れ里の核心となる秘密にはまだ触れていない。その条件が満たされなければ、妖精種が集団で生きていくのは不可能であるはずなのだ。
「ご覧になられますか? あいにくと今は湧いてはおりませんが」
「湧くと来たか」
「今見ても普通の泉にしか見えないの」
説明を受けて向かった先には湧き水の泉にしか見えないものがある。直径にして1m足らずの泉の底には滾々と水が湧きでて、溝が川まで繋がっている。なにと思わなければ、清水の汲み場としか思えないだろう。
「あら」
エメルキアが反応を示す。
「精気を帯びてる」
「そうなのか、ランゼ?」
「うん、水そのものが。でも、そんなに強くないかも」
手を水に浸してニパリと笑う。
「これは?」
「ここに置いておくと多少は精気を蓄えてくれるのです」
「これもわたしのでは?」
のたまいそうなエメルキアを引き寄せて撫でて諌める。というのも、湧き水の傍に置かれていたのは流体金属が張られた桶であった。確かに、そのメタルは湧き水より多めの精気を保っているらしい。
「蓄える。精気を浴びる。すると、こんな感じになる?」
腰に下げていたメタルライトを点灯させた。
「ええ、そうです。泉が湧いて強い精気を帯びると発光します。今は昼間で見えませんが、光が絶えるまでは精気を摂取できます」
「で、俺には今も水が湧いているように見えるんだが、ここに精気が湧くのはいつくらいになる?」
「今日のうちかもしれませんし、明日かもしれません。長ければ来週とか再来週かも」
精気が湧くタイミングは不定期らしい。一日置きのときもあれば、最長で三週間ほど開くときも。彼女たちはそれを待って暮らしているのだという。
「まずは見てみないことにはわからないな」
ピンとこない。
「そうですね。わたしもそんな現象はついぞ知りませんし」
「ロナもー」
「私も聞いたことない」
「精気が湧くってどんなんだろ?」
話に聞いただけではどうにもならず、彼らは泊まり込みで待つことにした。幸い、雨風を凌ぐ場所もある。
「なにより、頑張ったな」
「そんな不意打ちは……。ずるいです」
隠れ里を窺い見て、傍らのテアクルセの頭を撫でた。
少女は滂沱の涙を流しはじめる。ここまでにする苦労が忍ばれた。
「君もな、トーレス」
「私たちに優しくしてくれる人間がいるなんて、そんなの……」
正輝は泣きつづける少女二人を引き寄せて抱きしめた。
次回『妖精種の里に(1)』 「見たまんま清水みたいなものなのです」




