狩り場深部探索(4)
「大当たり」
正輝はついもらしてしまう。
それで警戒した小妖精が一斉に離れて攻撃姿勢を取る。彼女を狙ってきた人間だと勘違いしたのだろう。なにしろ応対にでてきたのは、繁殖形態にまで成長した装鎧少女であったからだ。
「ごめん、失言だった」
すぐに謝る。
「ここで彼女に会えたのがあまりにラッキーだと思ってね」
「びっくりしました。まさか、繁殖形態までいるとは」
「つまり、ここはそういう場所なのさ、ルキ」
小妖精が装鎧少女に成長するには、一定期間にかなりの量の精気を摂取しなくてはならない。しかも、形態の維持にも相応の量が不可欠になる。つまりは、ここにはそういう環境があるという証である。
「それで期待を寄せてらっしゃったのでしたか」
エメルキアが窺い見てきている。
「だってさ、これだけの小妖精が集団生活できるんだ。ちょっと精気が濃い地域があるじゃ説明できない」
「ここを使うおつもりなんですね?」
「期待大。でも、まあ話を聞いてから」
契りを結ぶ前の装鎧少女を保護するコタカッタ王国攻略拠点が課題だった。ここは最大にして最高の候補地となる。ただし、理由が判明しないと決定には至らない。
(それと、彼女たちの承諾を得ないことにはな)
第一の条件である。
「ピトレスカだったね。俺は正輝。見てのとおりの人間だけど敵じゃない。縛られてるのも趣味じゃない」
断りを入れておく。
「それって最初に言うこと?」
「だって、趣味を疑われるの嫌じゃん」
「メルメシルの采配でしょ? 青の方がそれだけ心を許している段階で敵意がないって判断してもよかったのにね」
肩をすくめている。
「許してやってくれ。メルにとって君は人目にさらしちゃいけないほど大切な存在だってことさ」
「メル? そう」
「納得してくれた? じゃあ、君は……、トーレスでいいかい?」
ピトレスカが瞳を愉快そうに細める。愛称をつけるのが親愛の証だと理解してくれていると見ていい。
「もう少し信用させて」
示せという。
「見てるだけでわかるだろう? そのつもりになれば、君は俺を精気タンクとして使える」
「ええ、貴重な人。できれば味方でいてほしいもの」
「それは、これからの話で理解を得たいね」
一遍には無理な話だ。時間を掛けてでも説得し、仲を深めてからでないと核心には触れられない。そう思っていたら、飛んできた小妖精が一人、顔に突進してきてべしゃりと貼りついた。
「神様! ここにいらしていただけたんですね! とっても嬉しいです!」
その子は涙を流してまで喜んでいる。
「ってことは、君は教団の支庁にいた子?」
「申し訳ございません! 神様の言いつけを守れずに逃げだしてしまいました。いつか救いに来てくださるとおっしゃってらしたと聞いてたのに耐えきれず」
「いや、我慢しなくていい。それより、俺の話、聞いてるよね?」
それ以外にも伝えていたはず。
「あ、すみません、マサキ様」
「ありがとう。それで頼む」
「ああ……」
剥がして両手で包み、精気を流し込むと悶えている。表情が歓喜に染まっているだけ余計に色っぽい。
「支庁から逃げてきた子。そう、あなたが噂の神様なのね?」
噂が伝わってきていた様子だ。
「聞いた?」
「ええ、幾つかの教会を潰して同族を解放してくれたって。教団の装鎧戦士も倒してる?」
「まだまださ。支庁もそうだが王国施設も破壊しなきゃいけない。忙しいことだな」
ピトレスカはニッコリと笑う。
「最高の信用材料があるんじゃない。早く言ったら?」
「無茶言わないでくれ。ここまで伝わってきてるとは知る由もない。この子が逃げ込んできてるのは偶然でしかない」
「ええ、彷徨っていたのを、うちの子がたまたま保護したの。あなたの差し金だなんて思えない」
視線でもういいかと尋ねたエメルキアにピトレスカは頷く。彼女がロープの縛を解くとランゼッタが残念そうにしている。「不本意なんだが!」とツッコんでおいた。
「仲良しなのね」
ランゼッタをこねくりまわしていると笑われた。
「家族だからな。俺の命より大切な子たちさ」
「いいえ、命は大切になさってください」
「もちろん。君にすべてを捨てさせるつもりは微塵もない」
戦闘中にもしものことがあればエメルキアは身を挺して救おうとするだろう。
「ここの話を聞いても?」
「ええ、彼女と相談してから。ちょうど来たし」
「ふむふむ、なるほど」
驚いたことに、もう一人装鎧少女が姿を見せる。ピトレスカが真っ赤な髪に緑の瞳をしているのに対し、もう一人の少女は緑の髪に青緑の瞳をしていた。かなり力の強い妖精種たちだ。
「テアクルセと申します。青の方を連れた神様、お初にお目に掛かります」
丁寧に礼をされる。
「神様と呼ばないでくれ。これはルール」
「そうでしたね、マサキ様」
「君のことはテアって呼ぶことにする。いいかい?」
テアクルセは口に手を当てて笑っている。
「わたくしたちに了解を求めてくる人間なんて初めてですわ」
「じゃ、初めて尽くしといこう。挨拶に握手ってのはどう?」
「よろしいですわね」
手土産とばかりに精気を送る。ほうとため息を漏らす少女は艷やかな風情を見せていた。ピトレスカとも握手をして嬌声をあげさせる。
「とんでもない人間だこと」
「そういう方と噂でしたでしょう?」
「だって、とても信じられないじゃない」
噂話に花を咲かせる少女二人を正輝は静観した。
次回『狩り場深部探索(5)』 「本題に入ってもいいかな?」




