狩り場深部探索(3)
小妖精の言によると、ここしばらく暴れていたメタル進化種、つまりあの走りトカゲが急にいなくなったので調べていたという。すると、鍾乳洞の近くに変な物が置いてあったので見張っていたらしい。
「変な物はやめて。あれは俺の乗り物」
正輝は悲しくなる。
「そうなの。ごめんなさい」
「理解は求めない。男のロマンだから」
「うん、よくわからない」
断言された。
「メタル進化種は俺が倒した。このとおり装鎧戦士だからさ」
「あの流体金属の池もあなたが作ったのでしょ?」
「正解」
エメルキアが「あれはわたしのです!」と騒ぎたてるので引き寄せて口を塞いだ。失笑しながら「発作みたいなもんだから」と言い訳する。
「すると、君たちは俺の前に来ていた人間の男のことも知ってる」
窺うと頷いてみせる。
「奥地まで入ってこないよう見張っていたけど、そんな素振りがなかったから実力行使はしなかったの。でも、とうとう入ってきたかと思って」
「ふむ、ずいぶんと強気の姿勢だった。ロナが取りなしに行っても追い返されるくらいに」
「それは……」
言い淀んでいる。
「察するに、この近くに君たちが隠したいもんがある。そうだろ?」
「…………」
「暴いて壊してしまおうなんて微塵も考えてない。どちらかと言ったら手助けできないかと思ってる。妖精種が隠れ住む環境ができあがってるのなら大歓迎だからさ。君たちの味方としてはね」
信じてほしいとは思うが、勝手な言い分に聞こえているだろう。大陸の妖精種を取り巻く環境をわかっているこそこれほど警戒している。
「さて、どうしたもんか。俺だけでも縛られてたら、君たちの隠れ家に連れていってもらえるかい?」
条件を提示する。
「それ……なら」
「うん、さしづめ、君たちには別に指導者がいるね? その子の存在も守りたいから慎重にならざるを得ない」
「察しが良すぎです」
小妖精は降参した。
バイクから持ってきたロープで便宜的に彼を縛りはじめるエメルキア。ランゼッタなどは新しい遊びを見つけたように嬉しげに周囲をぐるぐると回って縛る。
「厳重すぎね? まあ、いいや。彼女が安心するなら」
その言葉に小妖精は罪悪感を覚えている様子。
「この状態でずっと歩くのは難儀だから、近くだと助かる」
「ちょっと歩きます」
「マジで?」
笑顔をキープ。
「まあ、頑張る」
「ごめんなさい」
「ところで、君の名は?」
メルメシルというのが彼女の名前だと教えてもらった。こざっぱりした貫頭衣に白い腰紐を巻いている。小妖精たちのリーダー格らしい。
「メル、もしかして、このへんって精気が濃いのかい?」
そうでなくては集団で生きていけまい。
「いえ、それは……。着いてから説明します」
「ほほう、理解理解」
「察しが良すぎるマサキは嫌い」
からかわれてメルメシルは真っ赤になっている。
(彼女が隠したいものの核心はそれだな。ここには妖精種が集団で暮らしていける秘密がある)
正輝は急展開した事態に胸踊らせている。
小妖精たちの迂闊を指摘するのも心苦しいが黙っている。目隠しもしなければ、ロープで縛った程度で装鎧戦士を抑えきれないくらいわかってもよさそうなものだ。
「このへんは暮らしやすい?」
フィギアサイズの妖精種がじゃれ合いながら飛んでいるのは生活のゆとりだと見て取れる。
「注意は必要だけど、人間抜きで暮らせるのはみんなが落ち着いていられるし」
「惜しいな、メル。楽しいって言ってくれたら完璧だった」
「どういう意味?」
正輝は「それも着いたら教えてあげよう」と返した。
実際の話、そのあたりが妥協点だと考えている可能性もある。人間の支配を逃れて自分たちだけで暮らせる。道具のように扱われて苦しむこともなく、むごい仕打ちを受けることもない。苦しみを知っていれば、それだけでも満足だと考えてもおかしくないと大陸の子たちに接してきて気づいた。
(これじゃいけない。解放するだけじゃ駄目なんだ。でも、パムール島にもキャパがある。第二第三のパムール島を作ってあげないといけない)
憐れみが顔に出てしまったか、メルメシルが不思議そうに見つめてくる。
「苦しいの?」
「苦しいね、君たちの境遇を思うと」
わざと意味を取り違えて答える。
「罪悪感で胸が痛くなっちゃう。言葉を尽くしてくれてるってわかってるのに」
「だったら、俺の頭の上にでも留まっておいで。それと、人間は言葉を尽くして騙してくるような生き物だって憶えておいたほうがいい」
「マサキって本当に変な人間」
「よく言われる。主に妖精種に」
メルメシルが頭の上に座ってころころと笑っている。それだけで今は心が和んだ。そういう時間をもっと増やしてやりたいと思う。
「マジで歩くな。もうかなり奥のほうだ。これはいい」
「え、つらいの好きなの?」
「変な趣味だと勘違いしないで。立地のことを言ってるのさ。よほどのことがないと人間は入ってもこないだろうってね」
小妖精は飛べるので苦にはならないだろうが、相当なアップダウンがある。腕を使ってバランスを取れない今はふらつくことも少ないくない。
「肩を貸します」
エメルキアが気遣ってくれる。
「如何な俺でも、それはちょっと格好悪すぎる。それに、どうやら着いたっぽいし」
「みたいですね」
「大歓迎だ」
数多くの小妖精がそこかしこから覗いてきている。人間の姿に小さな悲鳴をあげて逃げていく子もいた。
「メルメシル、その方は?」
「例のあたりで発見しました、ピトレスカ」
答えた人物を見て正輝はニヤリと笑った。
次回『狩り場深部探索(4)』 「それで期待を寄せてらっしゃったのでしたか」




